Long story


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参拾弌――神様の居る場所


 深月と侑がおかしそうに笑っている。それは、秋生から李月の家での出来事の詳細を聞いてのことだった。世月に扮した双月は、その会話には一切参加せず頬杖をついている。
 それが実に珍しい光景で、春人は不思議に思った。

「それは流石に夏が悪い。殴り込まれても文句は言えねぇぞ」

 そう言う割に、深月は楽しそうだ。

「そもそも、昨日の時点で人の話を聞かなかった方が悪い。請求が来れば払うが、殴りに来るなら返り討ちにする」
「殴り合うのは勝手だけど、誰もいない野原とかにしてよね。なっちゃんの家とか、学校とかは勘弁。昨日の屋上の件、問い詰められてて困ってるんだけど」

 そう言えば、華蓮が散々地面にバッドを突き刺していた。結局あの現象がどうなって起こったのかは分かっていないが、窓から突然消えて突然戻ってくる人もいるのだから、もう何でも有りなのだろう。春人は現在、きっと普通の人間は自分だけだと思うようになっていた。

「春君だって、私が見えている時点で普通じゃないのよ?」
――…だから、人の心勝手に読まないでください。

 春人は隣にいる世月を睨みながら、心の中で呟いた。すると、隣にいる世月はニコリと笑う。

「気を付けるわ」

 絶対に気を付ける気がないのが明白だ。
 春人はため息を吐いて、自分のしている仕事に集中することにした。
 今日の仕事は、学校内のあちこちに設置してある情報ボックスに生徒たちが入れてくれた情報の中から、興味深いものを発掘する作業だ。自分たちでネタが見つけられないときは、このような手を使ってネタを見つけることもある。興味があるのを見つけると、それを詳しく調べて裏が取れれば記事にする。深月はこの方法をあまり好まないが、最近は自分たちでネタを集めることをしていないため、このボックスに頼らざるを得ない。そんなときのための情報ボックスだ。
とはいえ、ほとんど記事にするようなネタはない。やれ校内でツチノコを見たとか、生物の教師がホルマリン漬けを食べるのを見たとか、どうでもいいようなことばかりだ。
「春君、これ」
「え?」

 ふと、隣で一緒に覗いていた世月が一枚の紙切れを指さした。
 情報ボックスには備え付けの紙が置いてあり、ほとんどの情報はそれに書かれて入れられてあるだが、世月の指定した紙は違った。薄汚れた、ノートの切れ端のような紙だ。


「……僕は紅侑の正体を知っている?」


 世月に指摘された紙を手にとって口に出すと、視線が一斉に春人に集中した。
 さきほどまでの秋生たちの話に全く興味のなかった双月ですら、反応を示した。

「あ、えっと…この紙に」

 春人がその紙きれを見せると、全員の視線が今度は紙切れに集中する。

「嫌な感じがする……」

 秋生が呟く。
 その一言で、差出人が誰かは察することが出来た。


「何?春人君を手にし損ねたら次は僕ってこと?」


 侑は全く動揺することなく、紅茶をすすっている。
すると、紙切れの色が薄汚れた色から真っ黒に変色した。そして、真っ赤な字が浮き上がってくる。

「お前の味方はもういない。背後に気をつけろ……」
「は?」

 春人が再び浮き上がった文字を読み上げると、侑の顔色が変わった。そして瞬時に立ち上がると、背後にあった窓を開けて外に顔を出す。

「なめたことを…」

 窓から顔を出した侑が、怒りに満ちた声でそう呟いた。
 しかしそれから窓を閉めると再び椅子に座ると、何事もなかったかのように紅茶をすする。

「随分とお怒りだな」

 深月はあまり興味がなさそうな言い方をしたが、その声はいつも侑に向けている声にしては随分と穏やかだった。

「誰の声も聞こえなくなってる。風に乗ってこない」

 その言葉の意味を春人は理解できなかったが、深月は理解したらしい。
不審げに顔を顰めている。

「何かあったのか?」
「直接的な被害じゃないと思う。でも、何らかの方法で遮断してる。ケータイの妨害電波みたいなものかな」

 分かりやすい例えだが、そもそも何の話をしているか分からないので、どっちにしても分からない。
 しかし、分かっている人たちだけで話は続く。

「大丈夫なのか、それ」
「平気だよ。ただ、これしきの事で僕を制した気になってるなんて、見縊られたものだね。僕はなっちゃんやいっきーとは違う。本物だよ?」

 侑はそう言うと、持っていたティーカップを置いた。
 深月は「随分お怒り」と言ったが、全くそういう風には見えない。


「警告されたのにさっそくお出かけか」

 何を思ったか、深月が侑のティーカップを勝手に取って呟く。
 いつもならこれこそ怒るところ、侑は少し驚いたような表情を浮かべる。

「よく僕が出て行くのが分かったね」
「出かけるって顔に書いてあるからな」

 書いてない。むしろ、書こうとしていた素振りすらない。
 しかし、侑はその言葉にクスリと笑って立ち上がった。

「じゃあ、行ってくる」
「いつ帰ってくるんだ?」
「夜ご飯までには帰るよ」
「あっそう」

 自分で聞いたくせに、侑の返答に更に返す深月はあまりにも興味がなさそうだ。
 そんな深月の反応には慣れているのか、侑は気にすることなく窓枠に足を掛けた。

「ついでに、そこのぽかんとしてる2人に僕の正体について説明してあげて」

 そう言うと、侑はそのまま窓の外にバサッと音を立てて飛び出して行った。
ここは1階じゃないなんてことは、もはやどうでもいいことなのかもしれない。どうせここはSFの世界で、何でもありの世界なのだから。



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