Long story


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参拾――選んだ答えは

 拠点というと、言い方は格好いいかもしれない。
 しかし、これは完全に連泊お泊り会状態だ。しかも家の主に許可は得ていない。問題なのは、全員がそんなこと思っておらず既に自分の家のように住みつく気満々だということ。もっと問題なのは、この家の幼い主ですらこの状態を完全に受け入れているということだ。
 食器棚にはいつの間にか柄の揃った食器が人数分揃えられていたし(幼い家の主に聞くと、侑と一緒に買いに行ったらしい)、食事は何も言わなくても人数分出て来る。おまけにリビングに貼ってあるカレンダーには洗濯物の当番と風呂掃除の当番を記されている始末だ。
 ただ唯一、この状況をよく思っていない人物もいる。

「お前ら…いい加減自分の家に帰ったらどうなんだ」

 朝から当たり前のように朝食を食べていると、起きてきた華蓮は機嫌が悪そうな声でそう呟いた。悪そうなのではない、実際によくないのだ。
 本来はもっと静かであるはずのこの家は、ここ最近ずっと朝から晩まで騒がしい。もう静かだったころを忘れてしまいそうで、この状況に慣れてしまう前に手を打たねばと思った。

「そういえば、しばらく帰ってねぇな」

 どうでもよさそうに、深月はそう言って味噌汁をすすった。

「1日に1回は帰ってるよ、俺は」
「母さんに会わないといけないからな」
「そうそう。世月の顔を1日1回見ないと死ぬ病気ってどんなだよ」

 呆れたように言いながら、双月も味噌汁をすする。
 1日1回帰ればいいと言う話ではない。

「マンション解約すっかな」
「え、僕そんなの聞いてないよ?」
「お前はどっちにしてもほとんど家にいねぇんだから問題ないだろ。荷物も少ねぇし」
「確かにそうだけど…。まぁ…いいか」

 深月に至っては主の許可もなく何を本格的に住み着くことを決めているのだろうか。
 侑も侑でもう少し反論すべきだ。全然よくない。

「みんなうちに住むの?やったー!」

 挙句の果てにはもう一人の主である睡蓮がこの始末だ。
 華蓮は多少の頭痛を感じながら頭を抱えた。

「ええと…何だかごめんさない」
「流れで当たり前のように来てたけど、帰ります」

 春人と秋生だけが、多少の罪悪感を持っているようだ。
 普通はそれが当たり前なのだろうが、この状況ではかなりまともに見える。

「秋生君がいなくなったら睡蓮が一人で食事作らないといけなくなるよ」
「春人がいなくなったりしたら誰も掃除しないからこの家ごみ屋敷だぞ」

 侑と深月が立て続けに言葉を発する。
 秋生が毎日食事を作っていたのは知っていたが、春人が掃除全般を受け持っていたのは初耳だ。
 この連中には先輩の威厳というものはないのだろうか。

「2人が帰ったら解散という選択肢はないのかお前らには」
「ない」

 侑と深月と双月が声をそろえる。
 華蓮は心の底からため息を吐いた。

「学校近いし居心地いいし」
「変な低級霊とかが寄ってくることもないし」
「縋りついてくる母親もいないし」

 最高、と声をそろえて言うのを聞いて、華蓮は今度こそ呆れ果てた。

「じゃあやっぱり、秋兄と春君も必要で、みーんなここに住むってことになるね。やったー!」
「お前は……ああもういい。好きにしろ」

 少なくとも睡蓮は喜んでいる。秋生がいれば食事は毎日美味しいし、春人がいればこの家は常に綺麗だ。他の連中はただ騒がしいだけである気もするが、この騒がしいのに既に慣れかけているのだから、もうじき気にも留めなくなるのだろう。
 それに何より、ここまではっきり住み着くと言われると、それでもいいかと思ってしまう自分がいた。

「じゃあ、まずはあの小さい洗濯機をどうにかしないと」
「ドラム式にしよう。乾燥機能付きの」
「双月は洗濯物を干すのが嫌なだけでしょ。まぁ、賛成だけど」

 認めた瞬間にこれだ。切り替えが早いというか、早すぎるというか。
 もう少し申し訳なさそうにすれば、もっと素直に受け入れられそうなものを。
 華蓮はもう一度溜息を吐いた。

「そんな顔してるけど。言ってみただけでこうなるのは分かってたし、それでよかったんでしょ?」
「分かってはいたが、果たしてよかったか」
「でも、僕の決めた当番ちゃんと守ってるでしょ。嫌なら守らない」

 それを言われると、言い返す言葉もない。
 華蓮が苦笑いを浮かべると、それを肯定と取った睡蓮は嬉しそうに笑った。

「とはいえ、タダで住めると思うなよ」

 華蓮がそう言うと、洗濯機談義をしていた3人の顔が途端に引きつった。
 当たり前だ。洗濯物と風呂掃除当番くらいで住まわせられると思ってもらっては困る。

「侑」
「え、まさかの僕ですか?」

 華蓮が指定すると、侑の表情が更に引きつり、そして深月と双月はほっとしたように安堵の息を吐いた。

「李月の居場所を突き止めろ。今すぐだ」

 本来の目的はこれだ。
 散々のけ者にされた侑が素直に頼みを聞くわけがないことは予測済みだ。
 ならば頼みではなく、強制すればいいのだと――華蓮は冷静に考えていた。
 だから今日、今まで容認していたことを指摘したのだ。ただ予想外に開き直られたので、少々頭が痛かったが。

「今すぐ…って、ご飯食べてるんだけど」

 侑は持っていた茶碗を華蓮に向けて掲げながら言う。

「なら食べてからでもいい。俺がこの家を出るまでに見つけてこい」
「出るまでって…あと1時間もないよね?」
「ああ、そうだな」

 華蓮が気にも留めない様子でそう言うと、侑は諦めたようにため息を吐いた。

「居候使いが荒いにもほどがあると思うんだよね」

 侑はそう言うと、手にしていた茶碗と箸を置いて立ち上がると、面倒臭そうに移動してリビングの一番大きい窓を開けた。

「ああ、雨が降るらしいよ。今日の洗濯物は部屋干しだね」

 侑はそう言うと、バサッと音を立ててその場からいなくなった。
 窓から見える外には朝日が眩しいくらいに差し込んでいたが、それでも侑がそう言うなら間違いはないのだろう。

「侑先輩…」
「消えた…」

 秋生と春人が超常現象でも見てしまったように固まっていた。
 はたして戻ってきた侑はこの2人になんと言って説明するのだろうか。


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