Long story


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――旧校舎=オカルトフラグの王道は外さない

 大鳥高校の図書室は広い。本の数や種類も豊富だ。高校の図書室にしては豊富すぎるといっても過言ではないかもしれない。規模的には市民図書館と変わらない。本の管理は全てコンピュータ。本の最後に貸し出しカードが入っていて、それに名前を書いて…という行為をすることはない。学生証が貸し出しカード替わりになるのだから、ハイテク極まりない。おまけに、きちんと貸し出し処理をせずに本を持ち出そうとすると、防犯ブザーが作動するようになっている。店の万引き防止対策のようだ。こんなところにお金を使うくらいならば、各教室の南京錠をどうにかすればいいのにと秋生はつくづく思っていた。
 さて、秋生の認識していた大鳥高校の図書館というのは上記に挙げたようなところであるのだが。現在、新聞部の2人とやってきた場所は秋生の認識していた図書館とは随分異なる場所であった。


「いやまぁ、確かに図書室なんだけど…」

 入口の廊下側には確かに『図書室』と書かれたプレートが引っかかっていた。使用されていた紐は今にも落ちてしまいそうなほど朽ちていた。秋生がいつも眺めている『応接室』のプレートも中々の朽ち具合だと思っていたが、この『図書室』の前には到底及ばない。

「絵にかいたような心霊スポットじゃねぇか」

 深月の言葉通り、旧校舎の図書室は密会をするにしてはあまりに不気味であった。
 同じ旧校舎であるが、秋生がいつも滞在している場所とはまた違う。秋生がいつもいる場所は、つい20年前まで使われていた鉄筋コンクリート製の旧校舎。しかし、こちらは完全な木造校舎。ウォシュレットはもっての外、トイレは水洗ですらない。

「秋、何かいる?」
「…いや、いない。けど…」

 人間ではないものは何もいない。しかし、引き戸に手をかけた瞬間に体中に鳥肌が立ち、一瞬で手を引っ込めてしまった。入るなと全身が訴えている。何かいるわけではないが、何かがいてもおかしくない状態。むしろいないことが不思議なくらいだ。それどころか、この図書室そのものがよくないものであるかのような感覚だ。
 図書室だけではない。この校舎全体がもうよくない雰囲気に包まれている。この旧校舎は秋生たちが滞在している旧校舎よりも人が寄り付かない。基本的に立ち入り禁止になっているからであるが、そうでなくても秋生たちが普段滞在している校舎ですら気味悪がられて近寄らない生徒たちが、それを超越したこの場所に近寄ることはまずないだろう。よほどの理由がない限りは。
 華蓮は常日ごろから本当に危ないのは人のいる場所だと言っていたため、秋生はこれまでこの校舎には全く関心を抱いていなかったが、これは人がいなくても危ないのではないかと感じた。校舎を新しくするのはいいことであるが、建て替えるとか、そうでないにしても古いものは取り壊しくらいすればいいのにとつくづく思う。こういうものが、悪い何かを引き寄せているのではいかと感じずにはいられない。

「密会でこの場所に来ようとする神経が分からないんだけど。…俺が異常なだけ?」

 秋生にとって、恋愛での密会はここに来る『よほどの理由』には値しなかった。秋生としては『殺人犯が警察から身を隠すため』くらいの理由がなければこの場所に足を踏み入れる気には到底ならなかった。
 しかし、現に『恋愛での密会』のためにこの場所に足を踏み入れている者がいるのは事実だ。到底理解できないが、愛のためならどんな場所でも躊躇しないものなのだろうか。秋生は自分が過剰なだけなのだろうかと、少し不安になった。

「“キケンな恋してる僕たち”に酔ってるんだよ、本人たちは。どうせ頭お花畑だろうから、周りの状況なんてどうでもいいんじゃねーの。ホテルでもごみ捨て場でも、心霊スポットでも一緒。秋生は正常、異常なのはここで密会してる奴ら」
「当たりキツイなぁ〜、みつ兄。でも、激しく同意」

 どうやら秋生の感性は間違っていなかったようで、少し安心する。

「まぁでも〜、案外中は綺麗かもしれないよ」

 そういうと、春人は引き戸に手をかけた。自分が手をかけたわけでもないのに、また全身に鳥肌が立った。
 そんな秋生の様子を見て、春人は引き戸にかけていた手を離す。

「大丈夫?やめとく?ごめんね、ちゃんと旧校舎って説明すればよかった」
「いや、最初に聞いたとしてもついて来たし、開けても大丈夫」
「ならいいんだけど…無理なら即効帰るから言ってよー」

 そういうと、春人は再び図書室の引き戸に手を掛けた。


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