Long story


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弐拾肆--素顔

 琉生が言うことには、桜生が来るまでにはまだ時間があるから、そう急いて緊迫しなくてもいいのことだった。また何かあれば伝えに来ると言って帰って行った――らしい。
 これは秋生が深月から聞いたことだが、何が「何かあれば伝えに来る」だか。あれから琉生とは毎日のように顔を合わせている(秋生は基本的に無視している)。
 というのも、秋生と春人の数学の担当教師が琉生になったからだった。秋生はその時初めて、今まで担当していた教師が華蓮の担任であり、心霊部の顧問だったということを知った。

「じゃあー、次の問題を相澤!」
「……先生俺ばっかり当て過ぎじゃないですか」

 今日の授業で、春人が当てられたのはこれで3回目だ。他にもちょくちょく当てられている人はいるが、ほぼ春人の集中攻撃状態。

「お前は俺の標的認定されたからな!」
「何ですかそれ意味わかんないです!」

 どっと笑いが起こって、結局春人は問題を解きに出て行く。
 どうやら前回、秋生と華蓮が新聞部から逃げて行った後、春人の行動が琉生のツボにはまりすっかりお気に入りにされていたと深月が言っていた。秋生は一体何をしたのか聞いたが、春人はまったく答えてくれなかった。

「疲れる」

 前に出て行った春人が戻ってきて溜息を吐いた。

「ごめん」
「そうだねー。多分半分は秋があの人を無視してるせいだよねー」
「……ごめん」

 春人は気を遣わない。思ったことをズバッというので、そこがいいところでもあるのだが、胸に刺さることもしばしばある。

「まぁいいけどね、秋の気のすむまで無視したらさ。先生、簡単な問題しか出してこないし。意外と楽しいし」

 確かに、琉生が春人に解かせる問題は数学が大嫌いな秋生でも解けそうな問題ばかりだ。そして本人がいっている通り、春人もわりとこの状況を楽しんでいる。

「はいそこ無駄口叩くな。相澤、もう2問解かせるぞ」
「先生、いい加減うざーい」
「はいもう2問確定しました!」
「ええ!!」

 あの日以来、琉生は何回か秋生に話しかけてきたが、(授業それ以外問わず)ことごとく無視していたら、最近では前ほど頻繁に話しかけてくることもなくなったし、授業では全く話しかけてこなくなった。
 琉生のいないところでは、そろそろ許してあげてもいいかもしれないと考えることもあるのだが。実際に会うとやっぱり腹立たしく、同じ空間にいるだけで燃やしてしまいそうになる。腹の中に溜まっている怒りはまだ収まっていないということだ。

「じゃあ、続きは次の授業な。相澤、お前覚悟しとけよ」
「うわ!脅迫だー!」

 クラスで笑いが起こると同時に、チャイムが鳴った。やっと授業が終わる。

「疲れた」
「秋は何もしてないけどねー」
「……ごめん」
「冗談だよ。可愛いなぁ秋生は」

 春人はそう言うと、楽しそうに秋生の頬をぷにぷにとつついた。

「ペットみたいに扱うなよな」
「そらくらいさせなよねー」

 そう言われると、秋生は何も言い返せない。
 春人にされるがままになりながら、秋生はため息を吐いた。

「ちょっと秋、テンション低いよー。そんなんで今日の放課後大丈夫?」
「放課後?」
「うわ!秋ってば覚えてないの!?」

 そう言って春人が出してきたのは紙切れ、ではなくチケットだ。
 秋生もほぼ同じものを1枚持っている。


「あ―――――!!」


 ガタリと立ち上がった秋生はクラスの視線を一斉浴びた。
 すぐさま恥ずかしくなって、消えるように席に座り直す。

「shoehornの限定ライブを忘れるなんて…」
「…本当に忘れてたの?重症だね」
「ファンの風上にもおけない…!!ファン失格だ…!!」

 秋生が頭を抱えると、春人は苦笑いを浮かべながら秋生の頭を撫でた。

「まぁ、最近色々あったし、しょうがないって」

 確かに色々あった。
 琉生が現れたり、桜生と華蓮にとても深い関係(因縁というべきだろうか)があったりした。それから――秋生の心臓を爆発まで追い込んだ大事件もあった。
 正直、今現在秋生の中を一番かき回しているのはこの件だ。何をどう解釈すればいいのか、未だに分からない。

「……相談したいことがあるんだけど」

 一人で考えても分からないことは、誰かに相談するしかない。そして、一番の相談相手が目の前にいるのに、秋生は今更気付いた。
 この問題を解決しない限りは、shoehornのライブも心行くままに楽しめそうにない。

「あらら、相当切羽詰まってるみたいだねぇ」

 春人はそう言うと、再び秋生の頬をぷにぷにとつついた。

「じゃあ、次の授業はサボろっか〜?」

 春人の笑顔には、癒し系という言葉がぴったりだと思う。時々、黒々しい笑顔を浮かべるときもあるけれど、今はそうではない。
 秋生は春人が友達でよかったと、つくづく感じるのであった。


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