Long story


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弐拾参--新しい顧問

 一週間ぶりに学校に来ると懐かしい気もするかと思ったが、案外そうでもなかった。移動する場所といえば相変わらず教室か部室か新聞部で、どこにいっても広がっているのはいつもの光景だ。部室では加奈子がクロと遊んでおり、新聞部では深月と侑が喧嘩して世月が春人と仕事をしている。全く代わり映えのない日常が戻ってきたような感覚だ。
 とはいえ、人がいないときにばっかり霊たちは騒ぎ立てるもので、歩いているだけで我を失った悪霊たちを何人も消す羽目になってしまった。華蓮より一足先に回復した秋生が幾分か消化してくれたようだが、それでも霊の数は普段よりも多かった。もし、休んでいなかったらいくらか救える魂もあったのかもしれないと思うと、罪悪感がないわけではない。ただ、それを気にしているときりがないので、華蓮はなるべく考えないようにしていた。

「はっくしゅんっ」

 戻ってきた日常の中で一つ気になることと言えば、秋生の体質の変化だ。

「寒いのか」
「はい…少しだけ」

 風邪を引いている間、秋生はしきりに「寒い」と口にしており、家の中でもずっと毛布をかぶっていた。その時は風邪のせいだろうと思っていたが、どうやらそうではないらしく、風邪が治った後も秋生はずっとこの調子だ。
 もう7月になろうかという時期なのに、秋生の制服は長袖に戻っていた。本来なら衣替えが終わっている中で長袖は校則違反だが、心霊部にそんなことは関係ない。

「もっかい病院行こうかな…」
「何回行っても一緒だろう」
「そうですけど…」

 この会話も何度したか分からない。
 さすがの秋生も心配になったのか、自ら病院に赴いたらしいが特に体に異変はなく原因は分からなかったらしい。となると、霊の影響を考えざるを得ないのだが、その気配すら全くないために余計に不安になっているようで、あれから既に5回ほど病院に行っている。そして、何度行っても原因不明と突っ返されているらしい。

「何か変な霊に憑かれたんじゃないの?」
「それなら夏が気づいてるだろ」
「確かに」

 心配そうな春人が部屋の奥からブランケットを持ってきた。ここ最近の秋生の寒がりのせいで、新聞部にも心霊部の部室にも秋生専用のブランケットが常備されるようになるまでになったのだから、なかなか問題だ。

「1回精密検査受けてみる?うちの病院なら、私が言えばタダでいけるわよ」

 いくらご令嬢とはいえ、大鳥グループは世月に甘すぎる。

「大丈夫です。…季節の変わり目の変化だと思います、多分」
「そんな変化聞いたことないけどねぇ」

 それが正しいことだとしても、余計なことを言わなくもいいものを。
 侑の発言に秋生がまた不安そうな表情になった。

「そんなことより、今日からですよね。新しい顧問が来たの」

 自分の寒がりについて考えたくなくなったのか、秋生は無理矢理話を変えてきた。
 今まで顧問なんて気にもとめてなかったくせに、もう少しましな話題はなかったのだろうか。

「あ、そういえばそうだな!夏、お前んとこの担任だろ?どうだったんだ?」
「見てない」

 朝から湧くように歩き回っている悪霊の始末でホームルームに出ている時間も、授業に出ている時間もありはしなかった。放課後になった今、ようやく落ち着いたからとりあえず近場にあった新聞部に顔を出したところだ。

「お前…気にならないのかよ」
「興味ない」

 臨時期間が終わればどこかに行く存在であるし、どうせいやいや顧問になったのだろうから本人もかかわりたくないと思っているだろう。特に用事もないし、こちらからわざわざ接触する必要もない。

「そういえば、なっちゃんとこの臨時担任と一緒に赴任するはずだった保健医は、1か月先延ばしらしいよ」
「…また何で」

 深月が顔を顰める。確かに、一度決まった赴任日時が変わるというのは疑問だ。それも、1か月も先延ばしになるなんてめったにない。

「知らない。聞いても教えてくんなかった」

 侑はコーヒーをすすりながら頬杖をつく。聞いた時の教師たちの態度が気に喰わなかったのか、表情が少し不機嫌になった。

「不祥事起こして謹慎中とかー?」
「春人、縁起でもないこと言うなよ」

 微妙にリアルなのがいただけない。仮にそうなら、そんな奴を寄越すなと言いたいところだが。

「まぁ、この時期にフリーな人材なんて、担任にしても保健医にしても怪しいことこの上ないけれどね」

 世月の言葉はもっともだ。だから、近寄らないことこの上ないし、ましてや自分から関わるなんて絶対にしない。保健医はともかく、臨時の担任に関しては勝手にいなくなるのを待つまでだ。



 ―――生徒の呼び出しをいたします。

 ふと、新聞部のスピーカーから無機質な声が流れてきた。ここからチャイム以外の音声が流れることは実に珍しく、全員がそちらに視線を向ける。

「あれ?校内放送の設定切ってるはずなのに……」

 深月が不審げに呟く。
 悪霊の仕業かとも思ったが、しかしそのような気配はない。しかし、この無機質な声が人間のものというのも、些か奇妙に感じる。



 ――新聞部に所在の心霊部部員のみなさん。至急心霊部部室までお戻り下さい。繰り返します……

「何で俺たちの居場所知ってんだ……」

 秋生が顔を顰めた。確かにその通りだ。
 誰に言ってきたわけでもないのに、どうして居場所が分かったのだろうか。

「顧問がお待ちですって…例の臨時担任?」
「呼び出し方が斬新ね」

 侑と世月が顔を合わせて首を傾げている。
 斬新なんてものじゃない。怪しさ千万以外のなにものでもない。

「この放送、この部屋にしか流されてないですよ…!繰り返されてるのに、廊下じゃ聞こえないです…!」

 いつの間にか廊下に出た春人が入口から顔を覗かせている。
 それならばますます怪しい。
 大体、場所が分かっているならば自分がここに赴いてくればいいものを。


「行くぞ、秋生」
「はーい」

 ここまで怪しい行動をとられては、確かめるほかない。
 臨時の担任が一体何を思って自分たちに接触しようとしているのかも気になるし、その呼び出し方も異常だ。仮に要注意人物になるのならば、その顔は把握しておかなければならないだろう。

「僕たちも行くよね?」
「それはもう、当たり前でしょう」
「むしろ来てくれと言っているようにしか聞こえない」
「……物好きですね…」

 本来ならば旧校舎など近寄らせたくないが、春人以外は皆乗り気のようだし、多分止めても隠れて付いてくるだろう。
 とはいえ、わざわざ新聞部から移動を命じるくらいだから、他の連中には会いたくないと想定すべきだ。その場合、大勢で行くとまともに話ができない場合がある。

「バレないようにしろよ」

 念を押さなくてもそれくらいは心得ているだろうが。
 新聞部を出ると、本当に放送はかかっておらず、廊下は至って静かだった。



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