Long story


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――個性の塊、新聞部

 あなたは、幽霊を信じていますか?
学校内アンケートの一番初めの問いはそれだった。アンケートのタイトルは“わが県立幽霊高等学校は本当に幽霊高校かの調査”。
 しかし、この高校の名前は“県立幽霊高等学校”などではない。県立、とか高等学校とかいう表記で本当にそんな学校名であるかのようにしているが、この高校には“県立大鳥高等学校”という、幽霊高校とは似ても似つかない正式名称があるのだ。とはいえ、実際、大鳥高校は本来の名前よりも幽霊高校としての知名度の方が高いのが痛いところ。一体いつからそんな名称で呼ばれるようになったのか、大鳥高校がある地域ではもちろん、その隣、隣の隣、隣の隣の隣…地域を超えて隣の県からも「幽霊高校」と呼ばれている。
 さて、そんな噂をされたら入学してくる生徒なんていなくなるのではないかと思いきや、学力の高さでは全国でひと桁に入るほどの進学校。そのためか、県外からの受験者も多く、もちろん遠い県ともなるとさすがに幽霊学校なんて呼ばれていることなど露ほども知らない学生が多いため、入学者数が減ることはない。
 大体、学校側ももっときちんと対策を取ればいいものを。毎年年間に幽霊騒ぎが何件発生していると思っているのか。その大半は、学生がでっちあげた悪戯であるというのに、幽霊騒ぎだと学生が盛り上がっているのを訂正もせずに放置しておくから、こんなくだらないアンケートが配られたりするのだ。

「これでまた増える」

 隣から憂鬱そうな声が聞こえ、秋生は顔を上げた。その視線の先には、声の通り憂鬱そうな華蓮の姿がある。PSPを操作しながら、声の通り憂鬱そうな顔をしている。

「先輩の力でなんとかならないんですか」
「俺は人間相手の暴力は専門外だ」
「いや、暴力じゃなくても、顔見せただけでいけますって」

 力うんぬんの問題じゃない。その姿だけで、十分に言いくるめることができそうだ。

「お前は俺を何だと思ってるんだ」
「我が校切っての不良番長ってとこでしょうか」
「…お前いくつだ。今時番長なんて言い回し使わないだろ」
「え、まじすか。じゃあ今は何て言うんすか、番長」
「知るか」

 華蓮は興味がないことを全身の面倒くさいオーラでアピールしている。
 秋生としては気になるが、これ以上聞いても華蓮は答えてはくれないだろう。

「そもそも、あの新聞部に俺の顔見てビビる奴がいると思うのか」
「ああ、これ新聞部が出してんすか。じゃあ無理っすね」

 新聞部は特別だ。華蓮の顔を見ても、顔色一つ変えずに元気に挨拶をしてくるに違いない。

「でも、放っといていいんすか?」

 きっと、生徒たちは面白がって根も葉もないことを書き綴るだろう。本人たちに悪意はない。せいぜい、面白ければいい、自分の意見が学校に広まれば楽しい、と思っている程度だろう。それがこの学園と、自分たち生徒に与える影響など考えていないのだ。

「中止させたらさせたで噂が立つだろう。やっぱり何かある、ってな。そうなればどのみち結果は変わりゃしない」
「…まぁ、それもそうか」

 再びアンケートに目を落とす。
 幽霊を信じていますか。なんと馬鹿馬鹿しい質問だろと思う。信じるか信じないかは見たことのない者が言うことだ。見たことのある者は、信じたくなくとも信じなければならない。見てなおかつ信じない者は、自ら精神科にでも行くことだろう。そういう患者は、一体どういう診断結果になるのだろうか。少々気になる。

「とはいえ、放っておくのも問題だ」

 華蓮はそう言うと、PSPの電源を落とした。
 秋生は時計に目をやる。16時30分。どこの部活も、そろそろ部員が集合するか、早い所は始めている頃だ。

「行くんすか?」

 華蓮がPSPを片付けたのを見た秋生は、その動向を察した。
 華蓮は秋生の問いには答えない。

「何々?面白いこと?」

 近くの窓から外を眺めていた加奈子が、ふと秋生と華蓮の方に視線を寄越した。
 何百年幽霊として彷徨っていたとしても、中身は子ども。秋生と華蓮の会話は加奈子には難しかったらしく、最初は秋生の上をふわふわ浮きながら聞いていたが、いつの間にか離れていたらしい。

「加奈はここで留守番だぞ」
「えー!!やだ!」

 秋生が言うと、加奈子は玩具を盗られた子どものように秋生の上をぐるぐる回る。

「ヤダじゃない。留守番だ」
「ぶー!」
「膨れてもダメだからな」

 秋生と加奈子が騒いでいる間に、華蓮はさっさと応接室から出て行ってしまった。
 加奈子が来てから1週間が経つが、追い出すこともなければ、相手をすることもない。秋生と加奈子が言い争っていたら時々「五月蠅い」と睨みつけてくるばかりだ。

「べーだ!」

 華蓮が出て行った方向に向かって、加奈子は思いきり舌を出した。

「こら、何やってんだ」
「別に!置いていくんなら秋にもべーだ!」
「こら!戻ってきたら遊んでやるから、拗ねるなよ!」

 秋生はそう言うと、後を追うように応接室を後にした。
 加奈子は不貞腐れたような顔をしていたが、それでも「いってらっしゃい」と呟いて手を振った。


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