Long story
やはり、秋生の作る料理は最高だ。和食に関しては既に存分に思い知らされていたが、洋食になってもそれは変わらなかった。これまで色々なところで外食をして、ハンバーグも何度か食べたことがあるが、そのどのハンバーグよりも美味しい。
「食べ過ぎじゃないのか」
「だって、家に帰ってもまともな料理出てこないし」
最近は睡蓮も大分料理を覚えて来たので、それなりに食卓に料理が並ぶのだが。やはり秋生が作ったものには到底かなわない。
「持って帰ればいいだろ?」
「もちろん、持って帰るよ。でも、僕がちょっと目を離したら華蓮が全部食べちゃう」
だから、華蓮が勝手に食べても落ち込まないように、ここで思う存分食べておくのだ。
「あっそう…」
秋生は苦笑いを浮かべているが、その意味を分かっているのだろうか。
単にお腹が空いているから全部食べてしまうのではなく、秋生の味付けを気に入っているということなのだが。
「あ、持って帰ると言えば。…師匠、梅干しと漬物がですね」
「この前持って帰ったばっかりだろ…?」
「結構一瞬でなくなっちゃうんだよね、あの量」
確か、梅干しは2キロのビンに入れてもらって、漬物も結構大きめのタッパーに入れてもらった。睡蓮としてもこれなら長く持つだろうと思っていたが、本当に一瞬でなくなって驚いた。
「まじかよ…。どんだけ食うんだ、お前も先輩も」
「育ちざかりだからね!てことで、今日は倍くらいくれると嬉しいです!」
「ちょっとは遠慮しろ!…ごほっ」
怒ったように言った秋生が、その反動で咽た。
咽たのだろうと、思ったのだけれど。
「ごほっ…げほっ」
「…師匠?…どうしたの、大丈夫?」
「大丈夫。…むせただけだ…げほっ…」
それにしては、何だか変な咳のような気がする。
「本当に?…風邪じゃないの?」
「大丈夫だって…。本当に咽ただけだから。…ごほっ」
といいつつ、一度始まった秋生の咳は止まらない。
「……病院行った方がいいんじゃない?」
「大げさだって……ほら、止まった」
と、笑う秋生の顔は無理矢理咳を止めている表情に見える。
「それならいいけど…無理しちゃだめだよ」
「ああ、大丈夫」
大丈夫という人ほど大丈夫じゃないというのが、世の中相場で決まっているのだ。
しかし、睡蓮には秋生を無理矢理病院に引っ張っていくこともできない。
「そんなことより」
全然そんなことではない。
「睡蓮、いっそ梅干しと漬物の漬け方教えようか?」
「えっ……僕にもできるの?」
梅干しとか漬物とか、難易度が一段と上がりそうだ。
「漬物はちょっと面倒だけど、手間かければ誰でも作れるよ」
「やる!やるやる!」
また和食だと華蓮は文句を言うかもしれないが、人の好みをとやかく文句を言われる筋合いはない。
「とりあえず、それ食べてからな」
机の上には、まだ大量にハンバーグが残っている。睡蓮的には余裕で全部食べられそうだが、家に持って帰ることも視野に入れて控えなければならない。
「食べたいなら食べろよ。また作るし」
どれだけ食べようか残そうか考えていると、睡蓮の悩みを察したのか秋生が苦笑いを浮かべて呟いた。
「ほんと!じゃあ全部食べよーっと!」
「全部って…お前、胃袋どうなってんの」
「育ち盛りだからね!」
何だか最近、秋生に対して迷惑をかけていないかとか、申し訳ないという気持ちがなくなってしまっている気がする。それだけ秋生の存在が、深月たちと同等になっているということだろうか。もしかしたら、それ以上になっているのかもしれない。
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mokuji
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