Long story


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 華蓮が話すのを、睡蓮は一言も聞き漏らさまいと意気込んで聞いたが、その必要もなく聞いているうちにどんどん話の中に吸い込まれていっていた。まるでその時の情景が思い浮かびそうなくらい、華蓮の記憶は鮮明だった。それは、華蓮にとってその時の出来事がとても強く印象に残っているということで、秋生との出会いは忘れることが出来ない思い出となっていることを示していた。

「面白い人だね」

 秋生が面白い人物だということは睡蓮もよく知っている。しかし、華蓮の話の中の秋生は睡蓮が思っている以上に面白い。
 なにせ、華蓮を妖怪と間違うなんて、深月なんかが聞いたら爆笑するに違いない。

「面白いで済むレベルならいいだがな」
「でも、そういうところがいいんでしょ?」
「どうだろうな」

 実に曖昧な返事だ。

「ねぇ華蓮、やっぱり今度その人連れてきてよ」
「何で」
「華蓮にふさわしい人かどうか、僕が見極めてあげる!」

 ふさわしい人物だということは既に分かっている。むしろ華蓮にはもったいないとすら思っている。
 睡蓮が本当に知りたいのは、今の2人がどういうコミュニケーションをとっているかだ。

「嫌だ」
「えー!どうしてー!」
「お前が絶対に懐くからだ」
「え」

 流石華蓮。
 既に料理を教えてもらっているほどに懐いているとは、死んでも言えない。

「僕が懐いたらどうしてダメなの?僕がその人に取られるから?それとも、その人が僕に取られるから?」
「さぁ、どっちだろうな」

 そう言って不敵に笑う華蓮は、弟ながら最高に格好いいと思った。
 深月の話では、顔を出していないにも関わらず華蓮は学校でそれなりに人気があると言っていた。ならば、顔を出したらきっと人気が爆発して学校がパンクするに違いない。

「そんなの華蓮の勝手だから、絶対に連れてきてよね…」
「お前が会いに行けばいいだろ」
「何それ、どうやって」

「自分で考えればすぐに答えは出るんじゃないのか?」

 華蓮の意味深な言葉に、睡蓮は首を傾げた。
 もしかして、気付かれてる?…まさか。そんなはずはない。
 多分、深月に頼んで学校に連れていってもらうとかすればいいだろうとか、そういう意味合いに違いない。

「僕が会ったら、僕がその人のこと取っちゃうかもよ」
「お前にはやらない」

 睡蓮はその言葉を待っていた。
 本当は、「誰にもやらない」くらい言ってほしかったけど。

「本当に?絶対、僕に取らせないでね。約束だよ」
「ああ」

 睡蓮が指切りをしようと伸ばした手に、華蓮の手が絡む。
 その瞬間、睡蓮の身体を何かが駆け抜けた。

「――!!」

 体をぞわぞわと、不気味な感触が流れていく。

「……睡蓮?」
「…ゆ、ゆびきりげんまん、嘘ついたら、僕の家出!指切った!」
「何だその指切りは」
「華蓮は針千本くらい簡単に呑めちゃうでしょ」

 不吉な――不吉な予感がした。
 何か悪いことが起こりそうな気がする。
 正体のわからない睡蓮の身体を駆け抜けたこの不気味な感触が、不吉を予兆しているように感じてならなかった。



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