Long story


Top  newinfomainclap*res





 深月たちが帰ってから、少しだけ華蓮とゲームをした。華蓮は相手が小学生だろうと容赦なく、睡蓮はボコボコに負かされてしまった。それから夕食にするかと話がまとまったところで、睡蓮は今日作った料理(千切りと細切りを間違えたあの料理の完成品である)を出した。

「じゃじゃーん。本日師匠の元で作ってまいりました」
「……きんぴらか?」
「ピンポーン。きんぴらにした理由はズバリ、僕の好きな料理第2位だから!本当は持って帰ってくるつもりなかったんだけど、作りすぎたから」

 というのは嘘で、千切りと細切りを間違えたために2回作ったからであった。持って帰ってきたのは細切りの方で、千切りの方はきちんと平らげた。実においしかった。
 ちなみに、第1位はこの間秋生に作ってもらったブリ大根である。本当は第4位ぐらいだったが、秋生が作ってくれたものがあまりにおいしかったため、一気に順位が上がったのだ。

「お前、もう少し小学生らしい好みを持った方がいいんじゃないか」
「ハンバーグとか?」
「ああ」
「嫌いじゃないけど、こっちの方がおいしいもん。あーでも、師匠の作るハンバーグならきっと滅茶苦茶おいしいんだろうなぁ」

 料理を習いだしてからまだ和食しか習っていないが、きっと洋食もおいしいに違いない。そう思うと、洋食を食べてみたくなった。来週末のリクエストはハンバーグにしよう。

「……うまい」
「でしょ!…って、何勝手に食べてんの」

 こちらの方のきんぴらはまだ睡蓮も食べていない。千切りの方を睡蓮が作って、こちらは材料を切った以外は全て秋生が作ったものだから、睡蓮も食べるのを楽しみにしていたのだ。

「そこにきんぴらがあったから」
「変な冗談言わなくていいの。…ちなみにこれ、俺は人参切っただけであとは全部師匠が作りました!」

 じゃじゃーんと効果音を口ずさむと、華蓮は苦笑いを浮かべた。

「威張るところか」
「別の方はちゃんと作ったんだよ。華蓮にふるまうのは、それくらい美味しく作れるようになってから」
「これくらいな…」

 華蓮はつぶやきながら、食べる手を止めない。どうやら相当口にあったらしい。

「まぁ……、全く同じには無理かもしれないけど。近いくらいは」
「そうか」
「ていうか、食べ過ぎ!」

 自分の分がなくなってしまうと感じた睡蓮は急いで自分の箸を手に取った。

「うまいからな」
「あ、ほんとに超おいしい。…ちゃんと師匠にお礼言っといてよね!」
「それはお前だろ」
「…今度会った時に言っとく」

 本当は華蓮でも言うことができるのだが。まだ教えてはやらない。

「華蓮がこれくらい美味しい料理作れる人と付き合ってくれれば、僕が料理覚える必要もないんだけどねー」
「またその話か。これを作れる人間を見つけるより、お前が上達する方が早いだろう」
「分かんないじゃん。案外近くにいるかもよ!」

 かもではない。実際に居るのを睡蓮は知っている。

「まるで知っているような口ぶりだな」
「や、やだなー。かもって話でしょ」

 さすがに鋭い。これ以上この話を掘り下げるのはやめた方がよさそうだ。
 しかし、これですべての話を終わらせてしまうのは勿体ない。

「まぁでも、料理作れなくてもさ。華蓮と付き合ってくれるような人がいるなら誰でも歓迎だけどね、僕は」
「何だ、その俺がどうしようもない奴みたいな言い方は」
「どうしようもないじゃん。僕、華蓮にどうして深月や侑や世月みたいな友達がいるのか不思議で仕方ないよ。それに、その秋生って後輩の人も、どうして華蓮なんかと親しくしてるんだか」

 この無愛想な男は、普通ならば絶対に友達なんてできない。無愛想なだけにとどまらず、個性的も度を超したような格好だし、金髪だし、他の生徒たちと違う待遇を受けているし、いくら顔が整っているからといっても、マイナス面が多すぎる。
 とはいえ、本当はそんな華蓮でも慕ってくれる友人がいて、後輩がいる理由を睡蓮は知っている。自分も華蓮を慕っている一人だからだ。でも、それを教えてやる気はない。

「酷い言い草だな」
「事実でしょ。だからー、ちゃんと大事にしなきゃだめだよ。深月もー、侑もー、世月も。それから、秋生って人も」
「お前に説教される筋合いはない」

 まるで聞く気もないように、華蓮は睡蓮に視線を向けることもなくきんぴらをつついている。しかし、睡蓮の言葉は止まらない。

「いーえ、しますよ。だってさ、さっきの深月たちの話聞いてたか知らないけど。このままだと華蓮、もし秋生って人が危なくなっても助けそうにないんだもん」
「むしろお前が聞くような話じゃないだろう」
「そうやってはぐらかして。僕、数少ない華蓮と親しい人が、離れて行っちゃうのは嫌だよ」

 睡蓮が真剣に言うと、華蓮はようやく睡蓮の言葉に耳を傾ける気になったのか、きんぴらをつつくのをやめて箸を置いた。

「お前が心配する必要はない」
「本当?…ちゃんと助ける?」

 睡蓮も箸を置き、華蓮に視線を合わせた瞬間―――ぞっとした。
 滅多に笑わない華蓮が笑っていた。しかしその笑みは、とても恐ろしい笑みだった。

「そんな奴がいたら血祭りにあげるから安心しろ」
「……分かった」

 秋生のことを好きなのかと聞いた時に華蓮は即答したが――諦めるのはまだ早いのかもしれない。もしかしたら、秋生がこの家に食事を作りにくる夢は叶うのではないだろうか。華蓮の笑みを見た睡蓮は、再び期待に胸を躍らせることとなった。


[ 3/3 ]
prev | next | mokuji


[しおりを挟む]
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -