Long story


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 今更ながら、一人暮らしを始めてから家に生身の人間を上げたのは初めてだ。それが自分とは大きく年の離れた小学生で、更に華蓮の弟だというのは、なんとも不思議な気がしてならない。
そんなことを考えて調理をしていたら、いつの間にかブリ大根が出来上がっていた。人間、慣れると勝手に手が動くものらしい。実によくできた生き物だ。


「―――ッ!」
「まずかったか?」

 やはり、余所事を考えながら作ったのがいけなかっただろうか。どこかで分量を間違えのかもしれない。どこで間違えたかも分からないけれど。
 そもそも、家族以外の誰かに料理をふるまったのも初めてだ。家族といってもこれまで自分を育ててくれた祖父だけだったし、祖父はいつも秋生の料理をおいしいと言ってくれたが、孫影響がないはずがない。

「めちゃくちゃ美味しい!僕こんなにおいしいもの食べたことない!」
「…そ……そうか。…ありがとう」

 お世辞を言っているのかもしれないが、それにしてもここまでストレートに言ってもらえると嬉しいものだ。秋生の表情に思わず笑みがこぼれる。

「本当においしい!世の中のお嫁さんがみんなこんなおいしいご飯作れたら、誰も浮気なんてしないのに!」

 ここまでべた褒めされるとさすがに照れる。秋生がどう反応していいか困っていると、睡蓮はあっという間に完食してしまった。


「―――――師匠!」
「はっ?」

 あっと言う間に間食したと思ったら、睡蓮は突然机に手を付いて頭を下げた。
 状況が呑み込めない秋生は思わず素っ頓狂な声を出す。

「僕に料理を教えてください!」
「えっ」

 急展開過ぎて話について行けない秋生はまたしても素っ頓狂な声を出す。しかし、睡蓮は秋生が話についてこられないことはどうでもいいようで。

「うち、家族はみんな死んじゃったから華蓮と僕しかいなくて、どっちも料理なんてしないからカップ麺か外食がほとんどなんだ」

 さらっとヘビーな家庭事情を暴露してくれる。本人がそれを全くヘビーと思っていないようで、どう反応していいか困る。そして、いくらヘビーだからといって、毎日カップ麺か外食というのは、些か問題だ。

「僕は学校で給食があるからそれでもいいんだけど、華蓮は学校でもろくなもの食べてないみたいだから」
「料理を覚えて作りたいと?」

 秋生の問いに睡蓮は真剣に頷く。呼び捨てにしてはいるが、兄思いのいい弟だ。

「うん。本当は華蓮と付き合ってくれて毎日ごはん作ってくれたら一番いいんだけど、華蓮なんかにはもったいないから、僕に料理を教えてください!もちろん、材料費とかは自分で出します!」

 華蓮と付き合う云々は触れないことにして、毎日カップ麺というのはよろしくない。睡蓮は自分には給食があるから平気だと言っていたが、一食給食に置き換えたとしてもとても体にいいとは言えない。

「分かった、いいよ」

 自分の料理が人に教えられるようなものかはいささか疑問だが、華蓮にしても睡蓮にしても、食生活が少しでも改善されるのならそれに越したことはない。



「ありがとう!!」

 そう言って笑う睡蓮の笑顔に、不覚にも秋生はきゅんとしてしまった。そして、こんな弟がいるなんて、華蓮は幸せ者だなと心の底から思うのであった。


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