Long story


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 格好いい台詞とか言ってみようかな。と頭の中で考えるが、それっぽい言葉も思い浮かばず。掛け声とかに方向性を変えてみようかな。と思うも、ハァとかヤァとかは何だか恥ずかしいから却下され。レイガンとか言ってみちゃおうか。ここは新しくライダーキックで止めをさすか。月に変わっておしおきにしようか。秋生はものの数秒の間に頭の中でありとあらゆる考えを巡らせた。そして最終的に出た結論はというと。

「――――消え失せろ!」

 バッドを振り下ろすわけでもなく、手で銃を撃つポーズをするでもなく、ティアラを飛ばすでもなく、ライダーキックをするでもなく。その一言が発せられたと同時に、もじゃもじゃに向かって無数の炎が隕石のように降り注いだ。
 秋生は特に何も考えずに力を放出しただけだが、これはきっと狐火だろうと漠然と考えながらその光景を眺めていた。その威力が凄すぎて、とても自分が出したものだとは思えず、まるで他人事のようだ。

「ぐぎゃあああああああ」

 焼かれることに痛みなど感じないだろうに、もじゃもじゃは苦しむように寄生をあげ、その気色悪い物体をうねうねと揺らした。

「捻りがないのう」

 良狐のその言葉が、狐火を放った時の台詞に対してだということはすぐに分かった。

「うっせ」

 色々なアニメや漫画の台詞を試行錯誤したが、結果的には身近な人物の言葉がいちばんしっくりきた。何も言わないという選択肢もあったが、それでは力を放出するタイミングが上手くはかることができず、漫画などでいちいち必殺技を声に出しているのにはそれなりと理由があるのだなと納得した。

「よく燃えよる。やれ、愉快じゃ」
「不謹慎な奴だな」

 楽になるために死んだはずだろうに、死んでも尚苦しみながら消えていくことになるなんて。本人たちは思ってもみなかっただろう。
 狐火に包まれたもじゃもじゃはやがて跡形もなく消えてしまったが、ほとんど燃えて消えてしまっても、最後まで唸り声をあげ続けていた。そして、すべてが燃えて消え去った後も、漂っていたまがまがしい邪気は完全に消えることはなかった。


「終わりはないのう」

 その言葉を最後に、良狐の気配は完全に消えてしまった。また秋生の奥深くに戻って行ったのだろう。
 良狐の言葉通り、終わりはない。きっとまた、このまがまがしい邪気に当てられて悪霊が誕生するだろう。そして、それは周りを巻き込んで今回のように大きなもののなるのだろう。

「また――できてしまうんだね」

 良狐の言葉の意味を察してか、睡蓮が悲しそうに呟いた。
そうならないように止めたいが、秋生には止める術がない。そうならないようにと、祈ることしかできない。あるいは華蓮なら出来るのかもしれないが、そんなことをするような性格ではない。

「あ、出口!」

 睡蓮がそう声を上げ指差した先に、廃れた公園の遊具が目に入った。
 なくなってしまわないうちにと2人は走りだし、森から出た時には残っていたまがまがしい邪気も感じなくなっていた。


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