Long story


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「私達も行こうか」
「……」

 琉生は真っ青な顔をしていて真柚に支えられていた。その口から出る言葉はなく、小さく頷くだけだった。
 本当に大丈夫なのだろうか?
 他の大人たちがが不安視していない所から、その必要がないことは分かっている。しかし、どうきても心配になってしまう。

「何度見ても吐き気がするような呪いのがんじがれめだな」
「愛と憎しみは紙一重を全身で表現しているものだからね。ある意味アートだよ」

 アート。正にその通りだ。
 質のいい呪いは、秋生にはどんな芸術品よりも美しいアートに見える。
 そんなことを口にすると言うことは、琉佳とトランプをしている子供にも秋生のように呪いが見えているのだうか?同じく、琉佳はどうなのだろう。

「父さんにも母さんみたいに呪いが見えるの?」
「いや、どんな呪いが掛かってるか判断できるだけだ。母さんの言う、オーラ的なやつが見えるわけじゃねぇよ」
「あの人の見え方は本当に特殊だよ。一体どう見えたら、あんなちょっと頭いっちゃってる人みたいになるのかは謎だけど」
「頭いってるは言い過ぎだ。かなりやばい奴くらいにしとけよ」

 琉佳が子供へそう指摘するが、ちょっと頭いっちゃってるも、かなりやばい奴も、言い方の違いだけで似たようなものではないかと秋生は思う。
 そもそも父にそんな表現をさせるなんて、母はこれまで父の呪いを見てどんな反応を見せ何をしたのだろう。気になって仕方がない。

「そのやばい人が褒めちぎってたからな。早いところ、連れてってやらないと。……蓮さんはどうする?」
「まず酒。それから仮眠。そして酒。満を持してコントロールを手に…が理想的だけど」
「相変わらずだね君は。それは別にいいんだけど、ちゃんと後始末して帰ってね」
「ですよねぇ」

 子供からそんなことを言われると、蓮は最初からそれが分かっていたと言うように溜め息を吐いた。
 後始末とは、一体何のことだろう。また1人だけ地獄にでも送られるのだろうか。もしそうならただでさえ一番ボロボロだというのに、気の毒も極まりない。

「後始末って?」
「見ての通り、この辺の結界が滅茶苦茶になっちまったからな。このまま放っとくと、いつかお前らが1日中走り回ってたのなんて比じゃねぇぞ」
「げぇっ…」

 1日中走り回っていたといえば。まだ桜生が霊体で、李月が学校に通うきっかけになったことに違いない。肺が押し潰されそうなほど走り回って、ちょっと休憩かと思ったら走り回って…という、思い出すだけでも息切れを起こしそうな、数日間。
 あれの再来、もしくは悪化。……絶対に嫌だ。

「んな顔しなくても、きっちり直させっから心配すんな。…夜までに間に合わせろよ」
「いやいや、一人でそれはちょっと厳しいですって。ご覧の通り結構疲労困憊ですし、ていうか夜勤明けですし、元々瀬高に手伝って貰ってギリどうかなって所だっんですよ」
「うだうだうっせぇな。夜までにやり終えられねぇなら、そっから這い出てきたもんもちゃんと始末して帰れ」
「えぇ…」

 やっぱり何とも気の毒だ。
 きっとここは秋生が口出しをする所ではないのだろうから、それはしないが。再び地獄に送られないとしても、とても気の毒に思った。

「やれやれ。…華蓮は何か用事があるのか?」
「いや、特にこれといって」

 どこか呆れたような顔で蓮を見ていた真柚が、ふと華蓮に声をかける。
 今日は別々に過ごしていたので、ここに召集される前に華蓮が何をしていたのかは秋生は知らない。が、多分、またあのゲームをしていたのだろう…とほぼ確信に近い形でそう思っていた。

「蓮さん、華蓮が手伝うって」
「え?」
「…俺でも役に立つなら別にいいけど」
「役に立つどころか、主戦力だ。助かる」
「まぁ2人でやりゃあ、夜中までには終わるか………ん?」

 ふと琉佳が何かに気付いたような顔して、消えた。そして、一瞬で戻って来た。
 ものの1秒の出来事だった。

「おい真柚、お前も手伝ってやれ」
「嫌だ。こんな所に残ってもろくなことはないし、琉生とファミレスに行くし。それに、私はいても役に立たないだろう?」
「ちょっと待て。ろくなことないって思ってるのに俺に手伝えって勧めたのか?」

 即答での拒否から流れるように続けられた言葉に、華蓮がすかさず突っ込んだ。
 自分がされて嫌なことは人にするな、とはよく聞くが。この場合は自分がしたくないことは他人に勧めるな、とでも言った所か。しかし真柚は、華蓮のしかめ面を見てもまるで気にする様子は見せない。

「華蓮は少々怪我したってすぐ治るだろう。それに、早く終わらせればファンネルの飛ばし方でも教えて貰えるオプション付き」
「……」

 上手いな、と秋生は思った。
 秋生もしかと見た、蓮が瀬高に向かってそれを飛ばしているところを。蓮の意思に反応して瀬高を追いかけるあの様は正にそのものだった。
 それを教えて貰えると言われたら、華蓮が食い付かないわけがない。

「それに引き換え、私には何のメリットもない。だから帰る」
「そうか。……桜生、秋生。琉生をファミレスまで送ってやってくれるか?」
「僕はいいけど…秋生は?」
「俺もそれくらいなら大丈夫」
「子供じゃあるめぇし、一人で帰れるって……」
「そうか。じゃあ2人共、頼んだぞ」

 真柚の意思に頷きつつ、全くの無視。そして琉生の言葉にも答えたが、それもまた全く無視。
 真柚と琉生が思い切り顔をしかめる。しかし逆らっても仕方がないと踏んだのだろう、それ以上文句を言うことはなかった。


「……この世は何事も上手く行かないことばかりだと思っていたけど。存外、上手く運ぶこともあるんだね」
 
 そう、子供が呟いた。
 それは琉佳に向けての言葉なのか、それとも独り言だったのか。

「俺が上手く運ばせてんだよ」
「よく言う。…まぁ、僕も乗り掛かった船だ。最後まで上手く運ぶことを祈るよ」
「んなこと祈るまでもねぇだろ。それより、目の前の事に集中した方がいいんじゃねぇか?」
「…集中するも何も、さっきからずっと君のターンじゃないか」

 そう、自分達が帰って来てからも、2人はずっとトランプを続けていた。皆が話し、徐々に減っていく中でも、黙々と続けられていたのだ。そしていつの間にか、床に散らばったトランプは残り2枚となっていた。
 琉佳が捲った2枚のカードはジョーカーとジョーカーだった。それが最後の2枚で、どうやら琉佳と子供は神経衰弱をしていたことが分かったが、どちらが勝ったのかは分からずじまいだった。

「俺の勝ちだ、三郎」


 サブロウ。
 それがその子供の名前なのか?


 どこかで聞いたことがあるような。…在り来たりな名前だから、どこで聞いていても不思議ではない。
 いや、しかし。
 どこか、身近で。

 秋生はそんな風に思う。
 が、結局、その名前を聞いた場所を、誰が言っていたのか。誰の名だったのか。
 そのどれも、思い出すことは出来なかった。

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