Long story


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 邪気のする方向に走っていくと、たどり着いたのは公園だった。とはいえ、入口に「○○公園」と書かれた看板がなければ、とても公園と言える代物ではなかったが。
 じめじめした空気が公園中に漂っている。砂場は荒れ果てているし、公園内の木や花壇は全く手入れされていない。遊具はすっかりさびきって茶色くなってしまっている。いかに人が訪れていないかを示すように、そこら中雑草だらけだ。

「僕まだ死にたくないんですがッ!神様仏様鬼神様―――!」

 公園の中の邪気を探っていると、奥の方にある森の中から子供が叫ぶような声が聞こえてきた。そちらの方に意識を集中すると、邪気が漂ってきている方向と一致したため、すぐさま森の中に足を踏み入れた。
 足を踏み入れると、すぐに邪気を放っている原因を発見した。まがまがしく黒々しいものが、小学生くらいの子供に襲いかかっている、正にその時だった。

「やば!」

 秋生は走るスピードを上げて、何かの前に割り込みそのまま子供を抱えて勢いよくその場から退いた。ほぼ同時に、禍々しい邪気が先ほどまで子供がいた場所に勢いよく蔽いかかった。仮に効果音を付けるならば、ずぶんっと言うのが正しいだろう。秋生と子どもは勢いよく床に倒れこんでしまったが、その邪気に飲み込まれることはなかった。最悪の事態は回避できたということだ。

「あっぶねー…」
「――神様仏様鬼神様!」

 倒れこんでから一瞬状況を飲み込めないでいた子どもだったが、秋生を目の当たりにすると、歓喜の声を上げた。

「いや、どれも違うから」

 大体、鬼神様って少しおかしくないだろうか。

「何だっていいよ!助けてくれてありがとうございます!」

 子供は土下座ばりに頭を下げて秋生に礼を言う。

「そこまでしなくても…それに、まだ危機を脱したわけじゃねぇし」

 現状としては最悪の事態をまぬがれただけであり、決して安全になったわけではない。現にまがまがしい何かは、秋生と子どもの目と鼻の先にいるのだから。

「おおおおおおおお」

 禍々しいものがドスのきいた声を出した瞬間、ぶわっと辺り一面に風が巻き起こった。邪気が秋生と子どもを包み込む。
 秋生が視線を向けると、まがまがしい何かからぬっと顔のようなものが飛び出してきた。それも一つではない。いくつもの顔が次々と飛び出してくる。

「私はいらない存在なんだわ……」
「どうして俺だけ、どうして、どうして…」
「私の何が悪かったっていうの…」
「母さん…今行くよ、母さん………」
「助けて…助けて…」

 キモイ。気持ち悪過ぎる。
 正直な感想が口を吐きそうになった秋生だが、出てくる寸前でその言葉を飲み込んだ。

「ここ…自殺の名所なんです」

 ぎょっとしている秋生の横で、子どもが冷静に説明する。
 これを見て驚かないということは、きっと秋生が来る前に既に見ていたのだろう。それに、この類のものが見えるということは、今回以前にも色々とグロテスクなものを見たことがあるのかもしれない。
 秋生も、見慣れているからこそ、「気持ち悪い」だけで済んでいるが、耐性のない者が見たらまず嘔吐は免れないだろう。

「なるほど」

 恨みを持って自殺した怨念たちが、いくつも集まって出来上がったものということか。次第に大きくなっていき、本来なら成仏できるはずの魂まで巻き込んで肥大化していったといったところだろう。

「先輩なら、こんな奴でも一瞬で始末できるんだろうけど」

 秋生にはこれほどの邪気を持て余した相手を、バット一振りで倒すことはできない。そもそも、バットなど持っていないし。

「え?」
「いや――…とりあず逃げるぞ!」

 本当なら、ここで始末しておくべきだ。この子どものように、また誰かが襲われないとも限らない。自殺をしに来た者が、死ぬ前に飲み込まれる可能性だってある。
 しかし、多分無理だ。そう判断した秋生は、子どもの手を取って走り出した。

「無駄だよお兄さん!ここ、入るのは簡単だったけど、全然出られないんだ!」

 走り出してすぐ、子どもが叫び声を上げた。
 よくあるパターンのやつだ。お約束というやつだ。秋生は子どもの言葉に嫌気を感じながら、それでも走り続けた。

「でもとりあえず距離をとらねぇと!」

 秋生がそう言うと、子どもは頷いてから秋生の後に続いた。もっとも、秋生が手を握っているのだから、後に続くしか術はないのであるが。


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