Long story


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 ダン!!
 煙りが遠くの方で立ち上る中、突然聞こえてきた、勢いよく何かを叩くような音のした方に振り返る。
 道の脇━━何もない空間から、誰かが顔を出した。まるで、崖をよじ登ってくるような様子で…どうやらこの道を外れた場所は、底がないらしい。

「と…父さん!?」

 そう声をあげ、直ぐ様近寄っていったのは双月だった。どうしてか、世月はその瞬間に姿を消した。
 腕を引かれて、瀬高がどうにか道へと登ってくる。その姿はつい先程までとはうって変わっいて、まず高そうなスーツの背広はどこかに失われていた。ワイシャツはあちこち切れているし、大した傷では無さそうだが白いワイシャツに血も滲んでいる。他にも解れたような場所が幾つもあって……一言で言うなら、ズタボロ状態だった。

「ちゃんと魂は持って帰って来たか?」
「……蓮が」

 大輝は瀬高がずたぼろであることなど、どうでもいいようだ。…或いは、最初からこうなることが分かっていたのかもしれない。

「蓮はどうした?」
「見捨ててきました。自力で上がってくるんんじゃないですか」

 衝撃発言だ。
 しかもそれを全く悪びれる様子もない。

「どうして?」
「こんな時にまでゲームのことしか考えていないゲーム脳ですからね。当然の報いです」

 それは悪びれるどころか、むしろ迷惑被っているという顔だった。そしてそれがいつものことであるように、他の誰も不思議そうな顔ひとつしていない。

「どうせあの人絶対本気なんて出さないんだし、何考えてても一緒じゃね?」
「そうだな。あいつの脳内から読み取られたらしい、空母と宇宙人と忍者と地底人とキメラが同時に襲ってきさえしなければな」
「おおう…」

 瀬高が迷惑そうな顔をそのままに返すと、幸人は苦笑いを浮かべていた。
 空母と宇宙人と忍者と地底人にキメラ。そのゲームなら、秋生も知っている。

「先輩、それって…」
「黙ってろ」

 睨み付けられ、秋生は押し黙る。
 その時にふと思い出した。カレンと夢の中にいた時に、蓮とよくゲームをしていると言っていたことを。そして蓮が鬼強だと言っていたのを聞いて、秋生は親子だなぁと呑気なことを思ったのだ。
 あの夢の中でのことは全くと言っていい程覚えておらず、きっと思い出すこともないのだろうと思っていたが、こんなこともあるのか。ならば、まだ他にもふとしたきっかけで思い出すこともあるのかもしれない。

「それで見捨てるのはいいが、魂まで捨てて帰ってきたのは頂けないな」
「持たせておけば、見捨てても死に物狂いで戻ってくると思……」

 ダンッ!!
 また言葉が遮られる。振り替えると、道の脇から手が見えた。

「瀬高ぁ……」

 今度は顔が見えた。
 恨めしそうにそう呟くその姿は、瀬高以上にズタボロだと分かる。這い上がって来ようとしているその様子が、失礼ながらもゾンビさながらだった。

「…思ったので」
「結果論だが、まぁいいだろう」

 一度遮られた言葉を最後まで続けた瀬高は、ほらみろと言わんばかりの顔をしていた。自分以上にズタボロの蓮を見ても、全く同情の念も見せない。
 一方大輝の手には、蓮の手にしていたらしい魂が吸い寄せられていった。こちらは同情の念どころか、興味すらないようだった。

「父さん」
「…ありがとう」

 いつの間にか秋生の隣からいなくなっていた華蓮が蓮へと手を差しのべている。その手をとりながらようやく上がってきた蓮は、やはり瀬高よりもズタボロだった。
 ここに来る前に見た作業服は紺色だったような気がしたが。今は真っ黒に染まっていた。所々で破けて肌が見えているが、そのどこも正常な肌色ではなく血の色かうっ血している色だ。
 見るからに痛々しい。華蓮が心配そうな顔をするのも無理はない。

「大丈夫なのか?」
「ああ。だが、ひとつ分かったことがある」
「…分かったこと?」

 華蓮に向かってそう言い、蓮は立ち上がる。そして睨み付けるような視線が、瀬高へと向けられていた。
 ダンッと、地団駄を踏むように強く足を地面に叩きつる。

「あのゲームは」

 蓮と華蓮の周りに、一瞬でガラスのような結界が張られ。

「絶対に」

 バリンッと、出来たばかりの結界が割れる。

「クリア出来ない!!」
「!!」

 割れた結界の刃が瀬高を捉え、銃弾のごとく飛んでいく。しかし瀬高はその刃を華麗に避ける━━が、その刃はぐねっと方向を変えて再び瀬高に向かう。
 あ。ファンネル。 

「クリア出来ないゲームなんてのなぁ、もうゲームとは見なさないんだよ!」
「っ!!」

 ガラスの破片がぐんっと曲がる。
 何度避けても、追い掛ける。

「怒りポイントは見捨てられた所じゃなくてそっちなのか…」
「つーかあの人、いつの間にあんな技習得したんだよ。著作権侵害もいいとこだな」

 一体下で何が起こったのかは分からない。しかし何が起こったにせよ、あんなに着ずだらけになっても念頭にあることがゲーム。そして繰り出す技もゲーム(もしくはアニメ)。
 真柚と幸人が苦笑いを浮かべて話している内容に、失礼ながら秋生は全面同意見だった。
 
「クリア出来ないゲームなど作らないと言ったろ?自分の実力が及ばないことを人のせいにするな」

 バリンッと、欠片のひとつが割れた。
 どうやら瀬高は、逃げる方向から壊す方向へとシフトしたようだ。

「キメラの後に座敷童子が出て来て、倒した敵が幸運スキルで一斉復活する展開をどう攻略しろと?どう考えても1人で相手できる量じゃないだろ!」
「だからオンラインでの2人プレイも可能だと言ったろうが。製作者相手にクレームを言う前に、出来うる最善策を投じるのが先じゃあないのか?」

 空母と宇宙人と忍者と地底人とキメラ、その後の座敷童子。もういっそ清々しい程に滅茶苦茶なゲームだ。
 そして今の会話で驚いたのは、どうやらあの意味不明で鬼畜なゲームを製作したのが瀬高らしいということだ。一体どういう意図であんなものを作ったのか、秋生は知るよしもない。

「これは瀬高さんが正論だな」
「んなことより、あの人今自分の影でガラス叩き割ったよな?いよいよどういう仕組みだよ?」

 隼人は腕組みをして、スポーツ観戦でもしているかのように見ている。となりの琉生は秋生には見えなかったものが見えていたようで、摩訶不思議なものを見たかのような顔をしていた。
 こんな状況さえもいつものことなのだろうか。誰も動揺する素振りすら見せていない。

「春人、銃」
「へ?」
「銃、貸して」
「?」

 ダダァン!!
 春人が首を傾げながら大輝に銃を手渡してから1秒もなかった。春人がすぐ撃てるように準備をして渡した訳ではなさそうなことは、渡した本人が首を傾げた状態のまま目を見開いていることから明らかだった。
 ガシャガシャっと、ガラスの破片が落ちる。動き回っていた大人2人の動きも、一瞬で止まった。両方の頬に一筋の切り傷のようなものが出来ていて、つうっと血が伝う。

「……すいません」

 大輝が何を言うよりも先に、蓮と瀬高が声を揃える。その言葉に満足したのか、大輝は春人へと銃を返した。
 こうして再び全員が揃い、帰り道へと歩き出した。魂も無事に回収したし、今度こそ帰るだけということになる。

「7階から出てきたけど、大丈夫なのか?」
「問題ない。何も見なかったことにするから」

 それは果たして問題ないと言うのだろうか?
 大輝のその発言が秋生はとても気になった。秋生以外も皆、気になったに違いない。しかし触らぬ神に祟りなしということか、誰も指摘はしなかった。


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