Long story


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 他の池からも水を吸い上げ、みるみるうちに巨大化していく。洞窟から開放的な空間になった分、その巨大化に制限はない。
 どんどん、どんどん大きくなっていく。

「ああ…気持ち悪ぃ…」

 確かに…秋生としても、洞窟で見たものよりもうねうねと動いている感じがして気持ち悪い。先程まであれに呑み込まれていたのかと思うと、ちょっとだけゾワッとしたものを感じる。

「そっちは魂は回収したのか?」
「ああ。秋生が持ってる」
「こっちも魂は回収してあるから、それなら逃げるのが先決だろうな」
「俺は大賛成だけどよ。スライムを解き放って地獄を海にしましたなんて、蓮さん瀬高さん顔負けだし一生ネタにされんぞ」
「………嫌だ。絶対に嫌だ」

 琉生の言葉に少し間を置いてそう呟いた、真柚の迫真の顔ときたら凄かった。誰からどんな風にネタにされるのかは分からないが、きっと屈辱的なことなのだろう。
 それから、もしも本当にこのままスライムが海になる程に広がるのだとしたらーーこのままでは確実にそうなりそうだがーーどのみち、逃げても同じだろう。だから、逃げるという選択肢は最初からあってないようなものだ。

「ならまずは、あの増殖を止めねぇ……と…」
「……状況は悪くなる一方だな」

 琉生の言葉が途中で止まり、スライムを目にしてからずっと青ざめていた顔色がもっと悪くなった。傍らの真柚も、やってられないというような表情で頭を抱える。
 秋生も2人と同じ方向に視線を向けた。すると、巨大なスライムがぷつっぷつっと、無数の小さなスライムへと分離していた。その様子は、大きなパン生地から小さいパン生地を千切り取るようだったが、何だか異様な光景であった。

「囲えるか?」
「出来たとしても、確実に溢す。拾ってくれれば」
「自信はない」
「じゃあ無理……じゃあねぇな。秋生」

 琉生と真柚の会話は、秋生には全く理解出来ないものだった。
 のに、突然こちらを見られても困る。秋生は無意識のうちに、華蓮の後ろにさっと隠れていた。

「何で隠れんだよ。お前ちょっと、真柚を手伝え」
「は?」
「それなら、琉生は華蓮に手伝ってもらったらどうだ?」
「は?」
「ああそうか。そうだな、じゃあそれで」

 じゃあそれで、ではない。
 話に付いて行けてないのは秋生が馬鹿なせいではない。何といっても、華蓮までもが秋生と同じように顔をしかめているのだから。

「手伝うって、何を?」
「俺と華蓮で結界張って、あれが分散すんのを防ぐ。取り溢した分を、真柚と秋生が叩く」

 いとも簡単に言うが、そんなに簡単に出来ることなのか。
 そんなことを考えている間にもスライムはどんどん分散し、いつ動き出してもおかしくはない。今は出来る、出来ないの押し問答をしている場合ではなさそうだ。
 

「高速で動き出されたら終わりだからな。一瞬で囲え。生半可な強度じゃすぐぶち破られっからな、ちゃんとやれよ」
「そういう細かいのが苦手なの、知ってるだろ」
「雑でいい。俺が補強する」

 琉生の隣に華蓮が移動し、すぐにそんな会話が聞こえてきた。
 一方秋生は、全く初対面の相手にどう接していいのか分からない。が、それでもそちらに移動しないと始まらない。

「……は…はじめまして。…柊秋生です」
「はじめまして。鬼神真柚だ」

 どんな状況であれ、一応自己紹介は欠かせいないだろう。おずとずと秋生が切り出したのに返された笑顔が、すっと秋生の緊張を和らげる。そしてそのまま差し出された手に、握手を交わした。
 その、瞬間。

「先輩と同じ…」
「え?」

 全く同じだった。
 そこに、言い表せない感情が湧く。

「お前らなぁっ、んな悠長な会話してる場合か、やるぞ!」

 琉生が苛立ちをそのままに声をあげ、真柚と交わしていた握手の手が離れた。それでもまだ手のひらに残っている。華蓮と全く同じであった、その体温が。
 ……だか、今はその感傷に浸っている場合ではない。

「……俺、立ってるのもやっとなんですけど、役に立ちます?」
「狐火が出せると聞いてるが、それはどうだ?」
「あ、それなら出来ます」

 一体誰から聞いたのか疑問だが。今はそこを追求している程の余裕はないだろう。
 秋生が頷くと、真柚は空を見上げた。

「じゃあそれで、あれが取り溢した分を片端から燃やしてくれればいい。私ももう一生分動いたが…」
「俺が手を貸そう」
「……来世分動くことになりそうだな」

 溜め息を吐く隣に亞希が姿を現した。相変わらず、どうして亞希が真柚と一緒にいるのかというのは謎であるが。亞希の楽しそうな表情からして、どうやら余程真柚が気に入っているようだった。
 秋生はそんなことを思いながら、真柚と同じように空を見上げる。

「うわっ…」

 真柚があれーーと称したもの、結界。
 巨大なスライムを、巨大なガラスケースが包み込もうとしている。いや…形こそガラスケースのように角ばっているが、ゆらゆらと揺れる見た目はシャボン玉のようだ。
 華蓮の結界と、琉生の結界。混ざりあっているのか、それとも二重になっているのかは分からないが……。

「生半可…どころじゃ……」
「こりゃあ、思いの外…取り溢すぞ……」

 華蓮と琉生が顔を歪めながらそう呟く。見ている分には、実にスムーズに結界が成され、その中にスライムが閉じ込められていき……一体何が、そんなに苦しいことなのか分からない。
 しかし琉生の言葉通り、千切れて分離したスライムの幾つか……何十、何百くらいはあるだろうか?バチュンッと結界を突き抜け、外に飛び出してきた。
 
「亞希、頼む」
「ああ」

 疾いーー。

「まじ…!?」

 華蓮よりも、速いと感じた。
 いつの間にか…というレベルではない。本当に瞬きをする間もなく、今の今まで隣にいた人物が空にいた。
 それも束の間。次々と、飛び出してきたスライムが消えてく。真柚が次々と消し去っているのだろうが、目が追い付かない。

「……良狐」
 
 このままでは自分だけ役に立たないまま終わってしまう。秋生は追い付かない真柚を追いかけることをやめ、自分の中を狐に声をかけた。返事はないが、準備は出来ている。
 体の中にふつふつとマグマのようなものが沸き上がるのを感じた。今の秋生には一度に数十の狐火が限界ーー体の中に沸き上がる熱を空高くに一斉に呼び起こし、そして。

「1匹足りとも、逃がすでないぞ」

 良狐が頭に姿を現したその瞬間に、散らばったスライムをその目に捉える。
 そしてーーー焼く。

「よしっ」

 ふわっと、塵が舞う。
 捉えた数十のスライムは一瞬で灰になったようだ。ちょっとだけちゃんと燃えるのか?と不安であったが、大丈夫なようだ。スライムなのだから蒸発するべきなのでは?とも思うが、そんなことはどうでもいい。
 まだ、全てが片付いた訳ではない。
 華蓮と琉生が張った結界はパンパンになっているが、もうスライムが飛び出してきている様子はなかった。ならば、残っているものを始末すれば終わる。
 それは自分達の役目だ。

「亞希」
「良狐」

 秋生が狐火で一度に数十のスライムを灰にする間、真柚は凄まじいスピードでひとつひとつを消していく。数百はあったであろうスライムも、そうこうしているうちに残すところ数体。
 こういう場合ではただ見ているか助けられていることが殆どの秋生は、今の時点で今日は随分と働いた。と、思わず自分を褒めたくなった。一方で、その体力はもう既に限界だった。辛うじて立ってはいるが、ぶっちゃけ今にも倒れてしまいそうな程に疲れている。
 だが、ここまでやったのだから最後までやり通さなければ。

「良狐、最後……」

 どぷんっ…と。
 そんな効果音が聞こえそうな様だった。
 残されていた数体が、異様な速さで膨れ上がる。一気に大量の水を流し込んだ風船のうよに、どぷんっ、どぷんーーー…。

「琉生!!」

 それに気付いたのはきっと、全員ほぼ同時だったろう。
 だが最初に叫んだのは、それに一番近い位置にいる真柚だ。

「俺ぁこっちで手一杯だよッ。華蓮!!」

 続けて、琉生が叫ぶ。

「むーー無理に決まってるだろ!!」

 華蓮も叫ぶ。

「無理でもやれ!秋生も狐火でどうにかしろ!!」
「いーーいやっ、無理だろ!?何をどうすんだよ!?」

 再び琉生が叫び、秋生も叫び返す。大声ばかりが行ったり来たりで埒があかない。場は完全にパニック状態だった。
 そんなことをしている間にも数体のスライムが、どんどん膨らんでいく。このままでは、分離して膨張しているものと結界で膨張を止めているものが繋がってしまう。
 そんなことになれば振り出しに戻るどころか、もっと状況は悪化する。今度こそもう、手が付けられなくなる程に。
 ……どうすればいい?分からない。
 どうすれば。
 どうすればーーー。


「無理じゃない」


 え?

 声?


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