Long story


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 春人と別れて家路につくと、大抵の場合その日の夕飯のことについて考える。家に帰るとほとんどすることがない秋生にとって、料理は最高の暇つぶしだった。一人暮らしをはじめてから、家にいる時間はほとんどが料理に費やしているといっても過言ではない。

「今日は早く学校が終わったら手の込んだものを作ろうか。もしくは品数を増やそうか」

 ぶつぶつと独り言を言いながら歩く様は他人から見れば変人ととられてもおかしくはないが、秋生は気にしない。

「私、ぶり大根がいいわ」

 独り言だと思っていたら、横から意見が飛んできた。秋生は思わず立ち止まって、自分の背丈より少し高い位置を見上げた。

「付いてきてたのか、加奈」
「学校を出るのを見かけたから。ずーっと後ろにくっつていたのに、気づきもしないんだから」
「ごめん。今日の夕飯のこと考えてて」
「知ってるわ」

 加奈子は慣れっこのようで、気づいてもらえなかったことにそれほど不満は言わなかった。そう、いつものことなのだ。

「…ていうか、お前食べられないだろ」
「目で楽しむの」

 それだけで満足できるのか些か疑問だ。秋生は料理番組なんか見た暁にはすぐに影響され、食べたくなってしまう。そして、翌日には(酷い場合は即日)コストがかかっても同じものを作ってしまうのだ。

「まぁ、加奈がそれで満足な―――」

 加奈子の言葉に返しながら歩き始めた直後、秋生は再び足を止めた。

「秋?どうしたの?」
「何かいる」
「え?私…分からないけど」

 加奈子が分からないということは、それなりに遠い場所にいるということだ。遠い場所にいるにも関わらず、これほどの邪気を放っている。それなりに大物ということに違いない。

「加奈はここで待ってろ。付いてきたらお前に夕飯は見せないからな」
「夏を呼んだ方がいいんじゃないの…?」
「それじゃあ間に合わない」

 こんな真っ昼間からこれほどの邪気を垂れ流しているということは、何かをしようとしている――人間を襲おうとしているに違いない。秋生はこれまでの自分の経験からそう結論付けていた。

「私、呼んでこよ―――あっ、秋!」

 秋生はそう言うと、加奈子の言葉が終わらないうちに走り出した。


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