Long story


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 焼け野はらが広がっている。
 目の前にあった病室はなくなっている。記憶が消えてしまったということだろう。

「私、お父さんのこと好きよ」
「うん」

 世月は病室のあった場所をじっと見つめて呟いた。
 それに、双月が答える。

「……大好きよ」
「知ってる」

 …そう、世月が父に懐いていないことなどなかった。深月と李月のように一緒に出掛けることもなく、双月のように一緒に遊ぼうと駆け寄ることもなかった。
 しかし世月は、父を慕っていた。
 いつも「お父さんはいつ帰る?」と母に聞いていた。そして帰ってくると当たり障りのない挨拶をして、一緒に食事をして、他愛もない会話をする…。
 それがとても、とてもーーー楽しかったのだ。

「……もう伝えられないわ」
「そんなことない。だって今は、聞こえてる」

 双月が世月を見る。
 そう、今は…この地獄では、世月は確かにそこに存在している。
 声も聞こえる。そして、触れることさえも。

「……今更、どう話せばいいのか分からないわ」
「何言ってんだよ。好きな男子に話しかけられない女子高生じゃあるまいし…普通に言えばいいだろ」
「す、好きです…」
「いや、告白すんじゃねんだから。てか俺に言っても意味ねぇし…くそ、可愛いな!」

 間抜けなやり取りだな…と、深月は思わず苦笑いを溢す。このやり取りを見せてあげられたらいいのに…とも思った。
 そして双月の言う通り、ちょっともじもじしながら呟く世月は兄弟の贔屓目を抜きにしても可愛かった。本当に、瀬高に見せてあげたいものだ。

「やっぱり無理よ!恥ずかしいわ!」
「んなこと言ってる場合か。この機会を逃すと一生言えないかもしんねぇぞ」
「で、でも…っ」

 全く、娘の初恋は父親とはよく言ったものだ。
 柄にもなく未だにもじもじしている世月は、正に初恋をしているあどけない少女のようだった。しつこいが、兄弟の贔屓目を抜きにしても抜群に可愛い。

「恥ずかしいってんなら、俺の体貸してやるから。乗り移ってりゃ、バリア的なあれで少しは気も紛れんだろ?」
「……確かに、そうかもしれないわ」

 憑依してバリア的なあれとは何だ。双月の発言は全く意味不明だったが、世月はそれを理解しているらしい。という以前に、憑依するならば別に今でなくてもいいのではないだろうか。向こう数十年、機会は幾らでもある。
 深月はそんな風に思うが。双月と世月の間で納得しているなら態々口を出すこともあるまいと、特にそれを指摘はしないことにした。


「お嬢さんたち、微笑ましい会話もいいけど…こっからが本番だ」

 幸人の視線の先に、誰かがいる。その誰かがこっちを向いた。
 ここにいる筈のないものーーー今は病院で寝ている筈のその人物。そこに立っているのは、祖父だった。
 きっと、病状が急変したわけではないだろう。

「あれが、秋生父の分身?」
「だな。何でここに落とされたのが瀬高さんじゃなくて俺なのか気になってたけど…あれで納得」
「……どうして?」
「瀬高さんがここであれに手を掛けたら、歯止めがきかなくなる」

 例え分身でも最後まで手を掛けてしまったら…これまでの人生で塞き止めていたものが、溢れ出す。そして止まらなくなる。
 機会はあった。きっと、何度もあった。この間の台風もそのうちのひとつだ。しかし、瀬高は止められた…きっとそれも、何度もあったことなのだろう。

「皆瀬高さんを止める。それを後悔して、後悔して、後悔して…それでも皆が瀬高さんを止めるから…あの人はまだこれからも、後悔しないといけないのかもしれないな」

 あの時止まっていなければ。
 何度となく、そう後悔したのだろう。そしてその度に打とうとした終止符を、それでも誰かに止められた。
 瀬高はいつでも祖父よりも一歩先を行くが、それでも全てを見渡せるわけではない。予想だにしない要因は、いつでも、どこからでも現れる。

「その点、俺はあのジジイに何の思い入れもないから…」

 ガシャッと、幸人が背中から何かを引っ張り出して来た。今の今まで、何かを背負っていたことに気付きも……ライフル。
 深月のゲームで得た知識が間違いではなければ、あれはライフルだ。

「ぶっ殺しても、何の感情も沸かない」

 ドゥンッ!
 ライフルとはあんなに重たい音がするのかと、弾の行方を追う……その弾は既に、何かによって受け止められていた。というより、まるで枝の先で捕まれているような雰囲気だ。
 それは、地面から生えていた。にゅるにゅると、何本も生えてきて祖父を取り巻いている。

「……木…?」

 双月が首を傾げる。
 それは深月にも、木……それも腐った木のように見えた。

「言ったろ。あのジジイは妖怪の血を自分に取り込むことでその力を手に入れた」
「じゃあ、あれは…その力?」

 双月の質問に幸人が頷く。
 となると、あれは何の妖怪の力なのか…と、深月は考える。そしてその答えはすぐに頭の中に浮かんだ。
 とても見映えが悪い。だが、普段からよく目にしているものと酷似しているからだ。

「さて、どうしてこの島には、全くといっていいほど天狗がいないのか?」

 どうしてこの島には、天狗がいないか。それは深月もずっと不思議だった。
 妖怪たちの多くは、同じ種族が集まって生活していることが多い。その方が圧倒的に生きやすいからだ。
 侑の山のように、いろんな種族の妖怪が共同生活をしているのは特別だった。
 …この島にも天狗はいる。全くいないように見えるのは、誰一人としてその姿を表さないからだ。共同生活などもっての他というように、姿を隠して各々でひっそりと生活している。

「……それは…」

 ずっと不思議だった。
 その答えが、目の前の産物だというのか。


 バアン!!


「わっ!?」

 弾けるような音が響く。
 幸人から祖父へと視線を向けると、取り巻いていた木々の一部が何かに爆破され木っ端微塵なっていた。先程、幸人が放った弾を掴んでいた場所が中心だ。

「……全然効かねぇな」

 幸人の手にあるライフルから放たれた弾はただの銃弾ではなかったようだ。
 しかし、爆発した箇所もすぐに再生してしまう。そして先程よりも沢山の木々で覆われ、祖父の姿は見えなくなってしまった。

「ありゃちょっと厄介だな。俺はまゆがいねぇと無能だし…妖怪、あれ燃やせるか?」

 視線を向けられた。「妖怪」とは深月のことを指しているらしい。

「燃やせるには燃やせるだろうけど、あのままじゃ分厚過ぎてすぐ再生されると思う。妖気は殆ど侑に預けてるから、火力出せねぇし」

 絡新婦の時に散々な目に遭ってから、なるべく自分でも妖気を蓄えておこうと思ったのだが。自分で管理するのが面倒なのと、いつも隣にいい器がいるので…結局、ついつい移してしまう。
 とはいえからっきしということでもないから、もう少し大きな穴さえあればそこから一気に燃え広がらせるくらいは出来るだろうが。今しがた幸人が作った程度の穴では、すぐに塞がれてしまうだろう。

「じゃあ、さっきの倍くらいの穴があったらどうだ?」
「それなら一気に燃やせる。…あと、普通に名前で呼んでくれるとありがたいんだけど」

 そこを指摘するかは悩んだ。
 別に妖怪でも悪いことはないのだが…世月が天使で、双月が堕天使で。それに対して自分だけ妖怪というのは雑な気がして気に入らなかった。 

「ああ、悪いな。……誰が誰だっけ?」
「深月、双月、世月よ。そして貴方がガトリング次男さん」

 世月がそれぞれを指差しながら紹介した後に、幸人を指差す。それに対して幸人は「いいネーミングセンスだな」と笑う。それから「幸人だ」と名前を名乗った。
 随分と奇妙なタイミングでの自己紹介だ。

「じゃあ、あそこが燃えたら双月があの中に飛び込んであいつの根本を叩く」
「えっ、無理です」
「即答だな」

 幸人が苦笑いを浮かべた。あんなに瞬時に即答されれば、そんな顔になってしまう気持ちは分かる。
 そして、隣で世月が睨むような視線を向けていた。まるで、もう少し男らしさを見せろと言わんばかりの視線だ。世月はいつも、こんな目で双月を見ているだろうか。
 しかし双月がそんな世月の視線に圧倒されることはない。絶対に無理だと全身で表現すべく、両手と首を大きく横に振る。
 
「俺、そんな身体能力ないもん。バリバリ非戦闘派のちょー無能なんで」
「じゃー俺と無能同盟な。いえーい」
「い、いえーい?」

 まさかのハイタッチ。
 ノリが軽い。今目の前で結構ヤバめな奴がいるという状況とは思えない程の軽さだ。
 しかし、そんな中でも幸人はライフルの銃口をしっかりと祖父に向けたままだった。ちらりと視線を向けると、うねうねと動きながら攻撃の機会を伺っているようだった。

「とまぁ、冗談はさておき。……それなら戦闘派にやってもらうしかない。双月に憑依して飛び込めるか?」
「え?ええ、まぁ…出来るわ」

 幸人の世月が頷く。
 確かに世月の身体能力なら、幸人が穴を開けて深月が燃え広がらせ、そこに出来た空間を瞬時に判断して飛び込むくらいわけないだろう。
 だがそれならば、今は世月は実体化しているようなものであるし、わざわざ憑依する必要はないのではないだろうか。それとも、どうしても双月が必要なのだろうか。

「じゃあそれで。飛び込んだら双月の力を使って核を探して叩く」

 やはり、どうしても双月が必要らしい。
 非戦闘型でありながら特殊で厄介な、人の心の奥底を引き出すその力。それが人ではないものにどう役立つのか、深月には検討も付かない。

「……核を探すって、どうやるの?」
「あれは琉佳さんの魂の一辺だから…深層心理を覗く力で、瀬高さんの記憶にある琉佳さんの魂を見つけ出してぶっ壊せばいい。出来るだろ?」
「いや、そんな自信な…」
「出来るわ」

 双月の言葉を遮っての返答。
 ここまでくると、双月も出来ないと首を振ることが出来なかったようだ。世月を横目で見ながら、とても複雑な顔していた。

「…魂ぶっ壊すって、大丈夫なのか?他もみんなそうしてんの?」
「いや。他は袋叩きにでもして捕まえんだろうけど、俺らの総合力でそれは無理だ。てことで、サクッと」
「……それ、大丈夫なの?」
「大丈夫、例のあの人だって1つ壊した程度じゃ死ななかったろ?」

 例のあの人って。
 深月も双月も世月も元ネタを知ってるからこそ、その言葉の意味を理解出来たが。突然そんな例を出されても、知らない人間が聞いたら「は?」となる他ない。
 …いや、もしかしたら、知っていることを分かっていての発言だったのかもしれない。幸人を含め自分たちを取り巻く多くの大人は、自分達のことを時に本人よりも知っている。

「じゃあ双月、入るわよ」
「や、優しくお願いします…」
「怖がらないの、痛くはしないわ」

 何という際どい会話。そんな風に思ってしまうのは、自分の心が汚れているからでは決してない…。
 と、深月は誰にでもなく心中でそんな弁解をしている間に、世月が双月の肩に手をかけた。そして次の瞬間、すうっと2人の影が重なった。

「……やだ、胸がぺったんこだわ」
「うわっ、さわんな!」
「あら、貴方にも感覚があるのね。…えい」
「ぎゃ!…ばかっ、やめろっ」

 一体何を見せられているのか…自分で胸を触って騒ぎ、今度は別の場所を触って騒ぐ双月。そして世月。
 端から見たら完全に頭のおかしい人物だった。絶対に近寄らないどころか、場合によっては110番通報レベルだ。
 
「カオスだな」
「物凄く」

 向けられた視線と目を合わせて、幸人と深月は苦笑いを浮かべた。
 明らかにヤバイ人間の雰囲気を考えるとカオスというよりはデンジャラスと言った方が近い気もするが。どちらにしても、ここが地獄でなければ、絶対に他人のふりをしている。

「……じゃあお嬢さん方、予定通りやってもらえっかな?」
「ええ。このパンクな服はいつも気に食わないのだけれど、今日に限っては破っても問題なさそうでもってこいだわ」

 そう言って世月は、ジーンズのダメージ部分に指を突っ込んでぐりぐりと回した。同じ顔から「やめろよっ」と声が出るが、ダメージ部分のぐりぐりは止まらない。
 どうやら双月は意識と声以外、完全に世月に支配されているようだ。いっそ意識もなければよかっただろうにと、深月は少しだけ双月を気の毒に思った。

「…んじゃあ、さっそくいくぜ」

 この会話の間もずっと、幸人のライフルは祖父を捉えたままだった。
 そしてその視線が祖父に向くと同時に、ドゥンッッ!と、先程と同じーーいや、先程よりも重く低い音が響いた。

「……火車か…輪入道か、…ああ、天火辺りがいいか」

 再び弾が木々によって止められる。それを目にしながら、深月は地面をとんと叩いた。
 伸びた影が焼け野はらを駆ける。そうしてゆらゆらと揺れる炎の元へ辿り着くと、炎がぼぅっと燃え上がり…そして球体になった。

「3」

 幸人がカウントを開始したと同時に、世月が地面を蹴った。

「2」

 深月が再度地面を叩く。
 球体になった炎が凄まじいスピードを出して転がり、瞬く間に世月を追い抜かした。狙いは祖父、四方八方から一直線に向かっていく。

「1」

 バァアン!!と、木々が破裂する音が鳴り響く。
 ほぼ同時に、バシッと地面を弾いた球体が木々に飛びかかっていた。そして直ぐ様ゴウッと木々引火し、たちまち炎がたちのぼる。瞬く間もなく、祖父共々に真っ赤に染まった。

「0」

 世月は華麗に跳び跳ねると、人ひとりが辛うじて通れるかという穴に躊躇なくに飛び込んで行った。
 燃え広がっていた炎が、段々と新たな木々によって掻き消され始めた。飛び込んでいった世月が徐々に木々に侵食されていく。
 あまり時間はない。しかし、これ以上火をくべると今度は世月が燃えてしまう。それは幸人の銃弾同じこと。
 一番肝心かつ危険な役回りを女子に託し、見守るしかないとは。何と不甲斐ない男性陣だろう。

「チッ…双月、早くなさいっ」

 舌打ちをしながら押し迫って来る木の枝を引きちぎる女王。男子十数人を相手にひとりで挑む戦闘力と、根性と、そしてその気性の荒らさ。その辺りは、死んでも何も変わっていなかった。
 深月は死んでからのその姿を、数えるほども見ていなかったので…見た目の成長と共に、そういう荒らさも少しはマシになっているものと思っていたが。どうやらそれは間違いだったようだ。
 そういえば、一度李月を偉い目に遭わせて双月から絶好宣言をされていたのだった。あれから数ヶ月程しか経っていないというのに、もう何年も前の出来事のように思えた。

「んなこと言われても……みっけた!!」

 深月が懐かしい過去を振り返っていると、双月が大きく声をあげた。ピタッと、うねっていた木々の動きが止まる。
 すると、霧のようなものが一気に広がった。祖父の姿が見えなくなる。世月も、隣にいた幸人さえも…真っ白な空間に包まれた。
 ーーーー何かが、見える。


「……俺、ひとつ思ったことがあるんですけど」

 瀬高だ。

「何だ?」

 琉佳がいる。

「大輝さんに言われたんです。俺にもまだ、世月を守れるって」
「ふうん」

 瀬高の言葉に、琉佳はあまり興味がなさそうにそんな返答を返す。
 その場所がどこかは分からない。けれど、2人はお互いを見ることなく…どこか別の同じ方向に、視線を向けていた。夕焼けにそまっているような色合いだが、周りは靄がかかっているようでよく見えなかった。

「普通に聞けば、凄く胡散臭い気休めみたいなことですよね」
「そう思うのか?」
「いいえ。…俺にはまだきっと、守れるんだと思います」
「そうだな」

 2人の視線の先に微かに見えるあれは、家だろうか?
 少しずつ、少しずつ靄が晴れていく。まだよくは見えないが…今微かに見えている様子からして、少なくとも深月には見覚えのない一軒家だ。

「だから、琉佳さんにも守れる筈です」
「……そりゃあ、やるだけとことはやるけどよ。限度ってもんがある」
「限界なんてないですよ。琉佳さんには蓮もついてますし…だから、守れます」

 琉佳の視線が瀬高に向く。
 ほぼ同時に、瀬高の視線も琉佳に向いた。

「だから、絶対に守ってください。…柚生ちゃんも、琉生も、双子も」

 そう言って、瀬高は指差した。
 すると、先程までぼんやりとしていた家がハッキリと見え始めた。
 やはりそこは、ごく普通の一軒家だった。今時にしては、玄関扉にライオンのドアノッカーが珍しいくらいだろうか。


「あの子も」


 あの子……と、指差す先に子供がいた。
 そこは庭の中だった。広がる芝生の中に小さいブランコがぶら下がっていて、そこに人の子どもが腰かけている。

「あやとりしよ」
「…本当にいつっも、そればっかだな」
「いや?」
「ううん、いいよ」

 そう言って、2人は静かにあやとりを始めた。靄は殆ど晴れているので、小さい手が着ように動くのがよく見える。
 しかし、どうしてか子供たちの顔はよく見えない。それは華蓮がいつも自分の顔を他人に見えなくしているような、そんな様子だった。

「ずっとこうして、あやとりしてられたらいいのにね」
「ずっとは嫌だよ。他のこともしたい」
「……そっか」
「けど、ねねがしたい時にはいつでも一緒にする」

 ーーねね。
 それはきっと、あやとりをしようと言い出した子の名前に違いない。聞き覚えのない名前だった。
 一緒にいるもう一人は、何という名前なのだろう。

「……じゃあやっぱり、ずっとだね」

 ねねと呼ばれた子がそう言って笑った。その笑顔を前にして、もう一人の子も笑った。
 どうしてだろう。その2人は確かに笑顔なのに、とても悲しそうに見える。
 琉佳と瀬高は、どうしてこの子供たちを見ているのか。瀬高が守るように言った「あの子」とは、一体どちらの子のことなのだろうか。
 その答えが分からないままに、またしても視界の一面に靄がかかった。

「口で言うだけなら簡単だな」

 最後にそう一言、琉佳が呟いたのが聞こえてきた。
 そうして真っ白になった世界が今一度焼け野はらに戻った時、視線の先には世月の姿が……察するに、まだ双月に憑依したままらしい。青いガラスの破片のようなものがいくつもキラキラと舞っていたが、まもなく消えてなくなった。
 そして、祖父の姿をしたブラックホールはいなくなっていた…もしかしたら、青いガラスのようなものが魂だったのかもしれない。

「今のは消去案件だな」
「え?」

 幸人が何かを呟いた。
 だが、深月はそれを聞き取れなかった。

「いや…よし、任務完了だな。殆んど何もしてねぇけど」

 幸人が隣でそんなことを言いながら、ライフルを片付けている。殆んど何もしていないというなら、それは深月も同じだ。
 ここぞという時に、女子に全てを任せてただ見物していただけとは…男としてはかなりマイナスイメージに違いない。とはいえ、深月はそんなこと気にもしていないが。

「……これからどうすんだ?」
「さぁ…待ってりゃ迎えでも来んのかね?」

 深月が問いかけると、幸人は適当な様子で首を傾げた。…何となく、想像はしていたのでそれに驚きはしなかった。
 驚きはしないが、本当にこのまま待っているだけでいいのかと不安にもなる。

「………もしかして、あれかしら?」
「え?」

 本当に待っているだけていいのかと考えていると、世月が幸人と深月…その後方を指差した。
 2人は揃って振り替える。すると、焼け野はらの中、その何もない場所。しかしまるでそこに扉があって、それが開かれているように…何もない空間が開き始めた。


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