Long story
あっという間に、生徒会室がなくなってしまった。何だか短い夢を見ていたような気分だったが、視界に荒れ地が入り込むことで夢気分も一瞬で覚めた。
「隼人、今のって…」
「今お前に話した所で何がどうなる訳でもない。どのみち、琉佳は都合の悪い記憶は消すだろうしな」
「…そ。じゃあ、気にしない」
きっと春人が今見た記憶は、都合の悪い記憶なのだろう。どうせ忘れてしまうならば、感じた違和感を突き詰めることもない。
そんな事を思いながら生徒会室のあった場所を見ていると……ふと、その奥にひとつの影があるのが見えた。
「…隼人」
「ああ、ある筈のないものだな」
その影は下を向いていて、何かを踏みつけているようだった。踏みつけているそれが何かは分からなかったが…こちらの気配に気がついたらしく、下を向いていた顔が上がる。
その顔がよく見えた。
それが鬼の顔でもしていれば、春人も少しはびっくりして隼人の後ろに隠れたのかもしれないが。あまりに身近な顔過ぎて、何の動揺も感じなかった。
「あれ?」
大輝はそう首を傾げた。
先程見たーーー若かりし頃のそれではなく、春人がよく知るその姿。…とは言え、それ程見た目に変化はないが。
それでも…むしろ、だからこそ。この場所にある筈がないのだ。
「……それで俺と春人か」
「どういうこと?」
「知っての通り、父さんには霊的な力が全くない」
「うん、俺と同じだね」
母からはよく「貴方は一番お父さんにそっくりね」と言われる。それは春人が父と同じく、全く何の力もないからだ。
それでも大輝は、家族の誰よりも世渡りが上手い。春人はそんな父を尊敬している。
「お前には天使が見えるように幾分かそういう力がある。だが、父さんは本当にゼロだ。死んでも霊になることなく魂が消滅するんじゃないかと思う程にな」
「……そんな人間いるの?」
死んでも霊にならないくらいに霊的な力がないとは、一体どういうことなのだろうか。いや、言葉の通りの意味なのだろうが。
春人はそもそも霊的な力について詳しくはない。しかし、それにしたってそんなことがあるのかと不思議に思う。
「今のは極端な例えだが、父さんならあり得そう…まぁ、それは今はいい。問題は、そういう力が全くもってないということは」
「……そういう力が一切効かない?」
「そうだ」
例えば、隼人が得意とする呪いの類い。幸人が得意とするステスル性能。深月の妖怪関係も、となると華蓮や秋生、そして李月に桜生も同じだ。その他の大人たちの戦闘力については詳しくないが、きっと皆それぞれ何かしらの力を使えることは明らかだ。
そのどれもが、大輝には効果がない。
「ということは、素殴り勝負って…いやちょっと何て物騒なもん出してんの?」
隼人が両手に刀とバットを手にしたのを見て、春人は顔をしかめた。
力の類いは使えないというのに、どうしてそんなものを引っ張り出してくるのか。……まさか、本来の用途ーー打撃と切断の武器として使用するつもりか。いや、バットに至っては打撃も本来の用途ではないのだが。
「素殴りで勝てる相手じゃない。それにやっぱり、あれは親としてはどうかと思うしな」
「えー、何それ」
やはり武器として使用するようだ。
そして、どうやら先程見た記憶のことを根に持っているらしい。
「いいから、武器を取れ」
「出産の手伝いしてたのに、武器なんて持ってる訳がないでしょ」
「じゃあ右の脹ら脛にくっつてるものをは何だ?左の二の腕にも。幸人には黙っていてやるから、さっさとしろ」
「……千里眼なんて大嫌い」
せっかく、出産の手伝いが終わったらそのまま颯爽と持ち去れるようにスタンバイしていたというのに。幸人に黙ってもらったとしても、使ってしまってはパーではないか。
春人はしぶしぶ、二の腕と脹ら脛に潜ませていた拳銃を取り出した。
「え?何で臨戦態勢?」
こっちを見ながらそう顔をしかめる大輝は、春人の知る父親にそっくりだ。というか、そのものだった。
あれが偽物だとは到底思えないが…桜生とカレンの例がある。あれを思えば、ドッペルゲンガーの1人や2人を目にした所で驚きはしない。
「お前に構ってる暇はないから、自分の身は自分で守れ」
「地獄で死ぬとかちょー笑える」
「笑えない。俺が合図したら、俺の頭に目掛けて撃て」
「え?父さんじゃなくて?…いないし」
疑問を投げ掛けた時には、隼人はもう既に大輝の目の前にいた。
最初の一撃。春人には速すぎて目で追えないので、隼人がどんな攻撃を繰り出したのかは分からない。しかし大輝は、隼人のバットを右腕で受け止め、刀を左手で掴んでいた。
魂だから痛みを感じないのだろうか。というよりも、魂には打撃や切断が効果があるのだろうか。
「まぁ何でもいいや」
春人はその争いの中に銃口を向ける。トリガーを引いて、隼人の頭に狙いを定めた。
出来れば目で追える程度の速さで動いて欲しいが多分それは無理なので、勘で追いかけるしかない。隼人もそれを分かった上で合図を出してくる筈だ。
バットが離れる。瞬間、大輝はバットを握っている隼人の腕を掴んだ。まるでそれが分かっていたかのように速い動き。そして、掴んだ腕を引く。ものの1秒足らずの出来事。
隼人がバランスを崩した。
「春人!」
引き金を引く。
バランスを崩しながら、隼人が刀を大輝に振り下ろす。銃口の先にあった隼人の頭が、大輝に変わる。刀を避けると同時に、隼人に足を掛けられ体制を崩した……が。
大輝と目が合った。バァンッ!と、弾けるような音。しかし、これは。
ーーー来る。
「避けろ!」
「うぉあっ!?」
間抜けな声を出しながら間一髪のところで、自分の放ったはずの弾を避けた。隼人が声を出さなければ完全に頭を突き抜けていた。
春人の放った弾は確かに大輝の頭を捉えていた。しかし大輝は避けた刀を再び掴み、それで弾を弾いた。それも、跳弾が春人の額を貫くように絶妙なタイミングと角度で。
「2人とも、ちょっと止まって」
春人は隼人の頭から目を離さない。隼人も動きを止める様子はない。
既に体勢は立て直されていて、隼人は刀を手放しバットだけで背後から殴り掛かろうとしている。それを察知し振り向いた瞬間に頭が重な…らない。大輝はこめかみに叩き付けられたそれを、またしても腕で受け止めた。
その時大輝は、まるで自分のもののように刀を持っていた。というより、春人の視界に入った時にはもう隼人の右足に突き刺さっていた。
「ッ!…!」
隼人が傷付けられている所なんて、初めて見た。春人が驚いている間に大輝が隼人の足を踏みつけいてた。
そして、振り返る。
「春人…!」
引き金を引く。
刺さっていた筈の刀は既に隼人の手にある。華蓮と同じ仕様なのか、などと考えてる暇はない。振り返ったことで、隼人の頭に大輝の頭が重なっていた。
…だが、それでも。
「まじ…?」
後頭部に目が付いているのか。大輝は当たり前のように弾を避けた。
その際に隼人が足を引っかけるが、それすらも分かっていたかかのように隼人の足を掴んで反対にバランスを崩させた。後頭部どころじゃない、全身に目が付いているんじゃないのかと春人は本気で疑った。
「いい加減にしないと、母さんに言い付けるよ」
視線は春人に向いていた。
頭の中に母、沙羅の顔が浮かぶ。出産を投げ出して幸人の仕事道具を勝手に持ち出し、地獄で撃ちまくっていることが知られたら…。
一瞬だけ怯み、銃口が隼人の頭から反れる。
「春人、動揺するな」
「自分には言い付けられることがないとでも?」
こちらを見ていた視線が隼人に向く。春人は急いで隼人の頭に銃口を合わせ直す。
口調も何もかも、普段の父親ままだ。だから隼人は顔をしかめているのだろう…それでも、再度切りかかる動きは止まらないが。
「東北に出張で、手伝いには帰って来られないそうじゃないか。地獄なんかで何してる?」
大輝は刀を受け止めながらそんな言葉を漏らす。隼人の動きが止まる。
その隙を逃さない。大輝は先程刀で突き刺した足を、今一度踏みつけた。
「ッッ!!」
隼人はそのまま地面に膝をついた。刀とバットがその場から消える。春人も、向けていた銃口を下ろしていた。
…これは、もしかして。いや、もしかしてもくそもない。間違いなく。
「隼人……これって…」
「………本物だ」
大輝は思いきり顔をしかめた。
春人も同じように、思いきり顔をしかめた。隼人はとても複雑な顔をしてた。
「一体父親を何と見間違えたんだ?」
「何ってブラックホ…そんなことどうでもいいよ!何で父さんが地獄に…死んだの!?」
「いや、地獄には用事があって来ただけだ」
「地獄って用事があったら来れるような所じゃないよね!?」
ちょっと醤油買いにスーパーに行ってくるね。みたいな感覚で言うようなことではない、決して。
春人が声を大きくすると、大輝は「大袈裟だな」と苦笑いを浮かべた。しかし春人としては、これだけ大声をあげて驚くことも全くもって大袈裟ではないと思っている。
「流石に俺も理解してない」
「隼人にも分からないって何なの?え?父さんって実は悪魔か何かなの?」
藁にもすがるような思いで隼人に視線を向けると、隼人ですらどこか困ったような顔をして首を横に振るではないか。これはいよいよ一大事だ。
そして今の発言はパニック
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から出た迷言ではない。冗談ではなく、本当に人間ではないのではないかと疑っている。
「琉佳が死んであの学校に縛られた時、あの地の強大な力に呑み込まれかけたらしい。それから逃れるために、琉佳の魂に僕の魂を繋げて逃げ道を作った」
どうやらここにいる経緯を説明してくれるらしいが。
今の段階でもう既に理解出来ない話になることは明白だった。となると、変に口を挟まずに聞くより他ない。
「……何の力もない父さんなら、あの地の影響も受けないってことか?」
「そう。何でも、あの地の毒素的なのが凄く横流しされてるらしいけど…この通り何も感じない。琉佳曰く、何も無さすぎて毒素も拠り所を見つけられず消滅していってるらしいよ」
変に口を挟むつもりはないが、それは「らしいよ」と適当な感じで片付けてしまっていいことなのだろうか。…大輝のことだ、あまり深く理解するつもりもないのだろう。
その辺りは春人とそっくりだ。そういうところを見ると、自分と親子であることを実感する。
「つまり…琉佳と魂を繋げたことで、父さんは地獄への永久パスポートを手に入れたと?」
「流石に琉佳の一番弟子なだけはあるな、大正解だ」
「弟子じゃない」
「そう主張するのは自由だが」
隼人はこれ以上ない程に嫌そうな顔をしたが、何も言うことはなかった。このまま口で喧嘩しても、負けることが分かっているからだ。
我が家では母を除き誰一人として、口喧嘩で父に敵うものはいない。だから、高校に進学する際に反対されて喧嘩になりかけた時には、もうダメだと半ば諦めかけていた。それを隼人が加勢して母まで味方につけて押しきってくれたことは、本当ありがたく思っている。
……と、そんな思いで隼人の方を見て。血塗られた足が目に入った。大輝が隼人の刀を使って串刺しにした、あの足だ。
「それにしたって、息子の足串刺しにする?」
「琉生がいればすぐに治せるから平気だろうと思って」
「…あ、そうなの?夏川先輩と秋生みたいな?」
「ああ、同じだ」
その時にふと思い出したのは、夢魔の騒動の時に隼人が琉生を突き刺していたことだ。そう言えば、あの時に隼人は2度目に琉生を刺す前に自分の腕を切って刀に血を吸わせていた。
思い返すと中々にグロテスクな状況だが、つまりあれも刀を介して琉生が再生していたということだろう。何にしても、普通の高校生である春人(本人は決してないそこを譲らない)には、どれをとっても異常としか言いようがない。
「…でも待って。バット腕で受け止めてたし、刀も手掴みしてたよね?あれは?」
ひとつ疑問が解決すると、また新しく疑問が出て来る。まさか、地獄にいる時には痛みを感じないとか、死なないとかそんな都合のいいことでもあるのだろうか。
それを疑問視し出すと、そもそも自分たちは今、生身で地獄にいるのか…それとも魂だけの存在なのか…と、色々と疑問は止まらないが。その点についてはまた後回しでいいだろう。
「あっちの方は銃撃戦もざらだからね。対応出来るように、こっちの腕にチタン埋めて…こっちは丈夫なグローブしてるだけ」
そう言われてよく見れば、刀を受け止めていた方の手に肌色に近いオレンジのような色のグローブをしているのが見えた。…それはまだいい。
が、腕にチタンと言ったか?…確かに、父のいる場所はテロも多いと聞いているし、銃撃戦がままあるのも事実なのだろう。…だからといって、腕にチタン?
「…今度家族の作文書く機会があったら、お父さんはサイボーグってタイトルにしよう」
「そこまでなる気はないけど、家族も増えることだしまだ死ぬわけにもいかないからな。最低限の防御力は必要だ」
腕にチタンは果たして最低限になるのだろうか。そもそも、人間の体内にチタンなんて埋め込んで大丈夫なのか。やはり、ひとつ言い出したらキリがない。
いやしかし、もしかすると…戦火の中に飛び込む人達にとっては当たり前のことなのかもしれない。きっとそうなのだろう。もう、そうだと思うしかない。
「そういえば、生まれたのか?」
「まだ何も連絡はないよ。…隼人と幸人が出張だって嘘吐いて逃げたのは知ってたけど、春人は手伝いしてんじゃ?」
「そうだよ。でも見てほら、今は地獄にいるよ!」
何にも分かってません!と全身で表現するように両手をバッと広げると、大輝は春人が何故ここにいるのか自分でも何も理解していないことを察したのだろう。苦笑いを浮かべた。
そしてよくよく考えてみれば、家では今頃きっと春人は逃げ出した裏切り者として酷い罵倒の嵐に違いない。麒麟の力を持つ母は出産時に何かあってはいけないからと、過去全てで自宅出産をしている。そしてその懸念通り、過去全てにおいて赤ん坊が生まれる前か後に何かしらのハプニングに見舞われるのだ。だからこそ、小学生や保育園児までもが手伝っての大騒動なのだが…。
「きっと帰ったら皆から袋叩きに遭うんだ。地獄に行ってたなんて、誰も信じてくんないよ。いいよなぁ、父さんは忙しいって言うだけでスルーで。隼人や幸人は出張って言えばよくて、俺なんか問答無用で呼び出されて、一人だけなーんの力もないのにあくせっくしながら手伝ってさ
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。それなのに袋叩きなんて酷い話もあったもんだよね。はーあ、まん中っこって何でこんなに不憫なんだろうな〜」
大輝がいないのは常だ。何でも、母が寄せ付けない
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らしい。隼人と幸人は湊人の時まではいたが、今回は人数が事足りていると判断してサボりを決め込んだのだろう。春人は3番目の兄から絶対に手伝えと強く言われていたこともあり、いち早く帰宅して何の力もないなりにちゃんと手伝っていたというのに。
こんなことになるなんて…これもハプニングの内に入るのだろうか?もしもそう判断されれば、少しは情状酌量の余地を見いだして貰えるかもしれない。
「…父さんが変なこと聞くから、変なスイッチが入った」
「え?これ父さんのせい?…ていうか、結局2人は何で地獄にいるんだ?」
「蓮さんと瀬高さんのせいで島がブラックホールに飲み込まれかけたから、琉佳が自分の魂を分割して地獄に投げた。それで、俺たちはそれを回収するために派遣された」
隼人が改めて大輝に説明しているのを聞いて、春人の中で頭を駆け巡っていたネガティブ思考が止まった。
ここに存在し得ないものを探すことが、それを探すこと。春人も隼人も、本来は存在し得ない筈であった大輝をそれだと思ってい…が、それは実際に存在し得ていた。
ということは、まだどこか別の場所に存在し得ないものーー琉佳の魂がある。春人と隼人は、それを見つけてこてんぱんにして捕まえなければならない。それがここに来た本来の目的でなのだ。
「魂の分割?それってこれのこと?」
本来の目的が…と、春人が辺りを見回していると、大輝がポケットから何かを取り出してきた。
大輝の手のひらよりも少し小さいそれは、サファイアのような青色をしている。透き通ってとても綺麗で、箇所箇所で角張っている所に光が反射してまた綺麗でと…まるで、珍しい結晶体のような感じだった。
………これが魂?と、春人は思わず首を傾げる。
「何で父さんが持ってるんだ?」
そう隼人が問いかける。
ということはつまり、本当にそれが魂だということなのか。
「こ、これ魂なの?魂ってこう…もっと、ひゅーどろどろみたいな感じじゃないの?」
頭に浮かぶのは、よくアニメや漫画で描かれるような描写だ。
人の口からひゅるると煙のように抜けでしていく様は、春人だけが思うものではない。きっと、誰もが想像する魂の姿だろう。
「アニメや漫画みたいにあちこちにふらついていたら邪魔だし、扱いが面倒だろう?…とはいえ、琉佳の魂は特に珍しい柄だけどね。普通はほら…春人の足元にも転がってる」
「え!?…どれ?」
足元に魂が転がっていると言われて思わず飛び上がる春人だが、地面に視線を向けたところで特に何もありはしなかった。
相変わらず干からびた地面。その所々に、手のひらサイズの石ころがコロコロと転がっているだけ……まさか。
「その石ころ」
「これが魂なの!?」
「そうだよ」
もしかしていくつか踏んづけたかもしれない。痛みは感じるのだろうか?だとしたら謝った方がいいだろうか……。いやでも、地獄にいるということはそれなりに悪いことをしたのだろうし…踏んづけていても、いいことにしよう。
春人はあちこちに転がる石ころをちらちら見てからそう結論付けた。そして、今まで踏んだかもしれないことも、これから踏むかもしれないことも、気にしないことにすることにした。
「やけに詳しいんだな」
「来慣れてるから。はい、これあげる」
そう言い、大輝は何故か琉佳の魂を春人に差し出した。
「いや、俺はいいよ!隼人が持って!」
「……引きずって持って帰るか」
「やっぱ俺が持つ!」
なぜ大輝が春人に差し出したのか分かった。
春人は大輝から魂を受け取ると、それをポケットにしまった。なんだかちょっとおっかないが、魂とはいえ…流石に秋生と桜生の父親が引きずられるのは見過ごせない。
「それで結局、どうして父さんが持ってたんだ?そのまま転がってた訳じゃないだろ?」
「ついでに父さんが地獄に何の用事があったのかも気になりまーす」
隼人が再び質問したので、春人も流れに任せて軽い感じで気になっていたことを聞いてみることにした。スルーされる可能性も高いが、それならそれでヤバイことをしていたと思うことにしよう。
「用事って言うのは、この間起こった自爆テロで死んだ実行犯にどこの組織の回し者なのか聞こうと思って」
スルーされなくてもヤバイ内容だった。
正に、地獄の果てまで追いかける。そんなカッコ良さを醸し出すだけの台詞を、本気でやっている人間がいるなんて思いもしなかった。しかもそれが自分の父親とは…。
尊敬している父だが、一生追い付くことはないと確信してしまった。
「そうやっていっつも情報を得てるのか…。いよいよ、死人が口なしでなくなるご時世が来たってことだな」
「いや、ご時世的な問題じゃないよ。もう一種の特殊能力だよそんなの」
それもある意味では最強な特殊能力だ。何といっても、どんな相手からでも情報が得られるのだから。
例えば、自爆テロの実行犯を問い詰めるだけじゃない。自殺した人間からその理由を聞くことも出来る。口封じに殺された人間とかなら、殺された腹いせに喜んで教えてくれるだろう
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。
「それでまぁ…目的は早々に達したんだけど。帰ってたら働き鬼たちに捕まってね、得たいの知れないものが地獄の入り口で暴れまわってるからどうにかしてくれって」
「……鬼に頼まれたの?」
「そう」
「……確認だけど、父さんは人間なんだよね?それともやっぱり悪魔か何かなの?」
質問をしても理解出来ないことばかりだから、聞くことに専念しようと思っていたのに
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。結局質問ばかりしている。
仕方ない。聞かずにはいられないことばかりなのだから。
「人間だよ。ここの働き鬼がただの人間に頼み事をしないといけないくらいに無能なだけ」
「えぇ…」
「閻魔も似たようなもんだけど。とにかくそんなわけで、最下層に行く鍵と交換で引き受けたんだ」
働き鬼相手にも条件提示まで怠らないとは…徹底している。
大輝の言う最下層とは…地獄には8つの種類があると深月から聞かされたことがあるが、きっとそれの一番下の事なのだろう。確か、行きつくまでに人間の時間感覚で何千年かかるとか。
そこがどんな場所なのか。そんなところに何の用事があるのか、あまり想像もしたくない。
「……ま、何でもいっか」
聞かずにいられなくて質問をしたのは自分だが、聞いたところでやはり結論は同じだった。
どう転んでも自分の理解の範疇にはない。そんなわけで「パパはサイボーグで地獄の旅人」と片付けてしまうことにした。それが一番手っ取り早い。
「お前は本当に雑だな…」
「それが春人の良い面だ。さて、疑問が解決したなら帰ろうか」
解決したと言っていいのだろうか…と、一瞬考えるが。これ以上考えて仕方ないと諦め、何でもいいかと結論付けた…これもこれで解決ということにしておこう。
春人はそう思い、大輝の言葉に頷いた。
「他の魂はいいのか?全部集めないと骨折り損になるだろ」
「もちろん回収して帰る。働き鬼が魂は最下以外の各層に散らばって暴れてるって言ってたから、見つけるのは簡単だ」
「ということは、こっちの面々もそれぞれそこにいるってことか」
「だろうな。…それで、2人はどうする?先に上まで送ってもいいけど」
隼人と春人は顔を合わせた。
目的は達したので、このまま帰ってもいいだろう。そうすればこれ以上危険な目に遭うこともないし、変に魂を踏んづけてしまうことはない。
……しかし。
「行く」
隼人と春人は同時にそう返答した。
地獄に来ることなどもうないかもしれないーーー少なくとも、生きている間は。ならば、巡っておいて損はない。
最初に来た時には、さっさと用事を済ませて早く帰りたいとばかり思っていたが。父がいるなら大丈夫だという、妙な安心感が気持ちをそう変化させた。
「……でも、どうやって外の皆の所に行くの?」
辺り一面、荒れ果てた魔界のような景色が広がっているだけだ。他には何もない。
どこかに向かってあるいていけば、階段でも出てくるのだろうか。
「どこでもドアの鍵持ってるから、どこからでも行ける」
大輝はそう言い、琉佳の魂の一部を取り出したポケットを探る。そこからジャラッと音を立てて出てきたのは、言葉通りに鍵だった。
ひとつの輪っかに、8本の鍵がぶら下がっている。その全てがウォード錠であったが、ひとつひとつのデザインが微妙に違った。
「じゃあ、順番にひとつずつ降りていこうか」
大輝はそう言うと、鍵の中からひとつを選ぶ。そして、何もない空間に鍵を突き刺すような仕草を取った。
するとどうだろう。何もない場所なのに、ガチャッと鍵穴に鍵がはまる音がした。大輝が鍵から手を離すと、ただ鍵が浮かんでいるような状態になる。しかし、鍵のすぐ上辺りを…まるで扉を開くように押すと………その手の動きに合わせてゆっくりと、空間が開き始めた。
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mokuji
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