Long story


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 蓮が持っているスマホからストラップがぶら下がっていた。見覚えがあるようなストラップだったが、思い出せなかった。
 そのストラップが、揺れている。明るくなった画面を目にして震えた手に反応しているのだ。

『どうしたんだ?』
『………琉佳さんから鬼電…』

 真っ青な顔した蓮が呟く。瀬高が顔をひきつらせ、他の皆も少しだけ苦笑いを浮かべた。
 しかし隼人だけは顔色ひとつ変えず、自分のスマホをポケットから取り出していた。

『……安心しろ…と言うべきか、蓮さんが何かした訳じゃなさそうだな』
『え?』
『俺にも来てる』

 隼人がスマホの画面を蓮に向ける。カメラもスマホに向かって焦点を合わせた。
 不在着信:琉佳
 不在着信:琉佳
 不在着信:琉佳
 延々と続いている。画面一杯に、延々と。

『あ、私も』
『え?じゃあ俺も?…あ、俺もだ』
『俺は怖いから見ない』

 瀬高はスマホを出さなかった。
 そもそも死んだ人間がどうやって電話などするのだろうと一瞬思う華蓮であったが。悪霊が一高校生として生活しているような世の中だ。すぐに、幽霊が電話をするくらいのことは何てことないと思い直した。

『うわ、また来た』

 蓮がそう言ってスマホを机の上に置いた。通話ボタンを押し、そしてスピーカーにする。

『やっと出やがったか』
『何だこの鬼電は。スマホの乗っ取りの練習でも始めたのか?』

 電話から聞こえてきた琉佳の声に、いち早く隼人が反応した。
 蓮が「この鬼電によくそんなジョークかませるな」と呟くのに瀬高が頷いた。そして幸人と真柚は、またしても苦笑いを浮かべていた。

『冗談付き合ってる場合じゃねぇんだよ。全員、今すぐこっちに来い』
『こっち?…高校か?』
『そうだ。事情は来てから話す』

 ブチッと通話が切れる。
 相手の都合など全くお構い無しの、何とも自分勝手な電話だった。

『……なんか緊急事態っぽいけど、何で俺等が集まってること知ってんの?』
『蓮さん?』

 まずは幸人が立ち上がり、それにつられて真柚も動く。

『冗談。華蓮が琉佳さんに勝ったから祝賀会するんです、とか口が裂けても言うわけないだろ』
『地雷だな…。でも知ってたから、どのみち地雷踏んでるな……』

 次に蓮と瀬高が立ち上がった。そして、立ち上がった4人は流れるように店を出ていく。
 今の今までも賑やかだったファミレスが、一瞬で静まり返った。

『…琉生』

 しんとした店内。
 隼人が静かに声をかける。すると、寝ていた琉生が顔を上げた。

『……俺はこの天国から動きたくない』

 琉生はそう言い、またすぐに枕に顔を伏せる。

『天国?』
『ここに来たら頭痛が消えた』
『なるほど…。あっちの呪いが遮断されるから、俺の呪いが治まるのか』

 テーブルに頬杖を付きながら隼人がそんなことを口にする。
 再び、琉生の顔が枕から上がった。しかも今度は、すさまじいスピードだった。

『……俺の呪い?』
『あの時はまたとないチャンスだったからな。夢魔の術に便乗して、あいつの呪いに呪いを被せた』
『ぶっ刺された時か……』

 琉生は項垂れるようにして、またしても枕に顔を伏せた。
 隼人が刀で琉生の背中を突き刺していたのは記憶に新しい。華蓮は夢の世界からこちらに戻ってきたばかりで意識が曖昧だったが、それでもあの光景は今でもよく覚えている。

『記憶が飛ばなくなっただろう?』
『代わりに痛みで意識がぶっとぶけどな』
『それ程、あいつの呪いも強力だということだ。お前はあいつにとって絶対に欠かせない家族のひとりだったんだろう』

 琉生は桜生を助ける為にカレンの元に行った。カレンは琉生の力欲しさにその提案を受け入れた…華蓮はそう思っていたが。
 カレンにとって絶対に欠かせない存在だった。それはつまり…桜生の件がなくとも、いずれは琉生を自分の兄として引き込むつもりだったということだろうか。

『……家族か』

 琉生がそう呟いた。
 その一言が、とても重たい言葉のように聞こえた。

『全てが終われば、在るべき家族になる』
『……でも、そうなれない家族もある』

 在るべき家族とは何だろう。
 そして、そうなれない家族とは。

『それはどうだろうな』

 隼人の言葉に、琉生は枕から顔を上げた。どうしてか、とても怪訝そうな顔をしていた。
 そんな琉生には見向きもせず、隼人はゆっくりと立ち上がる。

『…冗談だろ?』

 隼人に続いて立ち上がった琉生は、とても驚いた顔をしていた。

『戻れはしない。だが、進むことは出来る』
『…家族として?』
『他に進む道があるのか?』
『……いや』

 2人が揃って店を出た瞬間、ブチッと音を立てて映像が途切れた。
 真っ黒い画面が写し出される。誰かが何かのボタンを押したわけでもないのに、DVDがウィンと音を立ててプレーヤーから出てきた。


「……リアルタイムだったな」

 李月が、真っ黒い画面に向かって呟いた。
 DVDに焼かれた録画映像だと思っていたものがそうではないと確信したのは、電話の件での鈴々の言葉だった。
 華蓮があの鬼畜なゲームを朝からしていて、今は揃ってテレビを見ている。そんな状況になったのは、あのゲームを始めて以来今日が初めてだ。他にも、時間帯や鈴々の態度。そして、明らかに全国放送で報道されるよな事件を華蓮が全く知らなかったことからも…あの映像がリアルタイムの映像だということは容易に推測できた。
 鈴々は常に睡蓮と一緒にいる筈だが、具現化を得意とする鈴々ならそれを利用して…それこそ、分身のようなものを作ることだって可能な筈だ。睡蓮と一緒にいる鈴々と、あの場にいた鈴々と…どちらが本物かということは今は考えなくてもいいだろう。
 …それよりも。

「高校って、絶対うちの高校だよね?」

 誰もが侑の意見に異論なく、そして誰もが大鳥高校でまた何かが起こっているのだと想像しているだろう。もちろん、華蓮も例外ではない。
 侑は心配そうだった。また学校が破壊されるようなことが起こっているのではいか。今度こそ全壊するよつな何かが…と、そんなことを考えているに違いない。

「あんな凄そうな大人が何人も呼ばれる何だろーな」
「でっけぇ怪物が出たとか、百鬼夜行が襲ってきたとか…そんな可愛いもんじゃなさそうだけどな」
「や…やめてよっ」

 双月と深月の言葉に、侑が両手を頬で覆いながら嘆くように声を上げた。
 そんな声を尻目に、華蓮はテレビを消す。


「……行くか」

 何が起こっているかをどれだけここで想像し話をしたところで、机上の空論にしからない。もしも事実を確かめる手段がないのならそれで満足するしかないが、事実は目とはなの先にある。
 ならば行って確かめればいい。むしろ、そうしない手はない。
 華蓮が立ち上がる。するとそれに続き、その場にいた全員が立ち上がった。 


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