Long story


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 一体どこから登場したのか、昔懐かしい紙芝居。そこには「大鳥グループ社長、ついに会長をぶっ殺す」という先程の言葉よりも率直なタイトルが書かれてある。その背後には紬。どうやらハリセンはその隣の鈴々が鳴らしたようだ。

『おい、紬』
『むかーしむかし…じゃないか。ついこの間、大鳥家に激おこの瀬高が帰宅』

 瀬高が制止するのも聞かず、紬は話を始めた。パンパンッと、言葉が途切れた所でハリセンの音がなる。
 紙芝居はタイトルのまま捲られない。どうやら、紙芝居セットはただの雰囲気作りのものらしい。

『幸か不幸か、その日ターゲットは不在、Oh no!出張先に乗り込もうとするも妻にからの刺客、次男に止められ立ちOjo!次男と他愛もない会話、その後に妻とも久々に会話、気持ちは落ち着き床へGo!Butだがしかし、夜更けになると気持ちが再燃、思い返すと苛々上昇、急上昇!頂上はなし、Yeah!』

 紙芝居なのに何故かラップ調だった。しかも、内容はともかくとして無駄に上手い。間の息継ぎで鈴々がハリソンを叩くのが、これまた絶妙だった。

『そしてやってきた決戦の日。会長が家に足を踏み入れると即座に行く手を阻み戦いの火蓋は切って落とされた!怒り心頭の瀬高は問答無用、夢魔の封印を解いたのかと詰め寄る詰め寄る。その勢い足るや、鬼の形相とはこのこと!』

 ラップ調から急変。
 講談ような雰囲気が出てきた。

『……お前、見てたわけじゃないだろ』
『それはどうでしょう?…瀬高の詰めに、会長は悪びれもせずその事実を認めるではないか!早々に自供を得た瀬高、お次は何でそんなことをしたのかと理由を更に問い詰める!』

 パンパンッとハリセンの音。

『すると何ということか!山から妖怪が一掃出来るものを使わないで何とする?結果的にはあまり成果はなく、汚い妖怪共を根こそぎ始末出来ず残念だ…と宣った!その時の顔を来たら、いく千万の悪事を働いた外道そのもの!』

 深月が小さく「殺してやろうか」と呟いたのが聞こえた。それはもちろん、画面の中の妖怪ではなく、自分の祖父に向けての言葉だろう。
 大鳥グループの会長、深月たちの祖父である人物が妖怪を嫌っているのは周知の事実だ。しかし、流石に今の言葉は嫌っているからといって流せることではないことは明らかだ。

『そりゃプッツンだな』
『ああ、プッツンだな』
『………』

 幸人と真柚がちらりと瀬高を見た。
 瀬高は無言だった。

『そうそれ、正にプッツン!巻き起こる嵐!この世の終わりが目の前に!僕が葉月に呼び戻され、必死に止めるも力及ばず、蓮を呼びつけて取り敢えず周りへの被害を食い止めるべく結界を!』
『それでも周りも台風だったらしいな』
『ああ、ニュースで突然の台風が…とかやってた』

 その時、全員が顔を見合わせた。誰もがあの嵐の日を想像したのだ。
 一体どこから発生したのか分からない台風が突然この辺りの地域を遅い、そればかりか全く移動しない。そのまま数時間、突然のタイミングで消え去る。
 天変地異のような出来事に、テレビでは学者たちが大いに騒ぎ立てていた。地球温暖化の異常気象だとか、神からの警告だとか、様々な議論が飛び交っていた。

「…え?あれ、父さんがやったってこと?あの台風?」
「うちだけ決壊したのは、うちが発生源だったからか……」
「じゃあジジイが瓦礫に敷かれて危篤ってのも嘘ってこと?」
 
 息子達はかなり動揺しているようだった。
 先程深月が呟いた「殺してやろうか」を、まさか父が実践しているとは思いもしなかったのだろう。いや、驚くべき所はそれだけではないが。

『それで外部への影響は最小限に留められた方だよ。でも瀬高は止まらない。その時点で会長重症。瀬高の怖い所は、同じ目に遭ってみろと、忠実に再現する所』
『再現って、何を?』
『幸人だって、見たでしょ』

 何を再現していたのか、それ以上は語られなかった。しかし、紬がちらりと寝ている琉生に視線を向けたのを幸人は見逃さない。華蓮も、それから他の面々もそうだっただろう。
 あまり想像しない方がいいことは明らかだった。だから、誰もその事について口は開かなかった。

『それで、たまたまこっちにいた俺に連絡が来た』
『たまたまなんかじゃねぇだろ、どうせ』
『あの日は核が落とされても実家にいないといけないと思っていてな。だから何かあるかもしれないことは事前に蓮さんには連絡してた』

 その言葉の様子から察するに、何がどうなるのかまでは分からず、その中で自分(あるいは見えている誰か)のとるべき行動だけが分かるようだった。
 予言者と言えばいいのか、千里眼と言えばいいのか。何にしても、色々と次元が違う。

『しかし、そんな隼人の力も及ばず!』

 パンパン!響くはハリセン。

『葉月さんの、子供たちを犯罪者の息子にするつもりなのって叫び声に、揉み消すから問題ないと即答だった』
『権力に物言わす気だったのかよ』
『それも真顔で』
『……頭に血が上ってたからな。思ってもないことを口走ることもある』
『よく言う。殺す気満々だっただろう』

 そうこぼす隼人はとても冷めた様子だった。しかし、本人の言葉よりも妙な信憑性があった。
 それに対して「そんなことない」という瀬高の言葉を信じる者は誰もいないだろう。 

『それだけに留まらず!蓮がまさかの、それならもういっそ葬ってもらったらスッキリするんじゃ?とか腑抜けなことを言い出すのー。それで葉月に、貴方を先にぶっ飛ばすわよ!って怒鳴られてやんのー』

 紬がケラケラと笑う。その時には講談っぽい喋り方から、子供の語り口になっていた。
 無意識なのか、飽き性なのか。これを見ただけではそこまでは分からない。

『それでもうにっちもさっちもいかなくて、琉佳を呼ぶ羽目になってな』
『いい大人がさー、ガキみてぇに暴れてんじゃねぇ!ってスリッパで頭スパーンって叩かれてるのは面白かったねー』

 大鳥グループの現社長が、スリッパでスパーンとは。全く想像が出来ない。
 双月の「ちょっと見てぇじゃねぇか…」という小声に深月と李月が「同じく」と声を揃えた。やはり、想像が出来ないに違いない。

『もちろん呪詛付き?』
『まゆ、そんなの当たり前だろ。満を持して出て来て呪詛持ち出さないなんて、琉佳さんじゃない』

 幸人はそう言った後に「ブラックは苦手」と唐突に呟く。すると、ミルクと砂糖が当たり前のように登場した。
 やっぱりコーヒーだったのか。という納得よりも、はやり驚きの方が強い。

『なんかぶぁー!ってなってたよ。ぶぁーって。ねっ?』
『…見るか?』
『丁重にお断りします』

 瀬高が左腕を差し出した瞬間、幸人と真柚が息を合わせてしゃっと右手を前にかざし、首を振る姿は何だか面白かった。
 映像をみる限りではただの左腕。あのスーツの下がどうなっているのか、きっと秋生なら分かるだろう。そしてきっと、うっとりするはずだ。

『それでまぁどうにか収まって、事なきを得た』
『果たしてそれは事なきを得たと言うのか?』
『琉佳はあそこに縛られてるのに無理矢理出て来たから、しばらく動けないって』
『全然事なきを得てないな』
『そもそも、あんな所に魂を売った時点であそこの餌食になるはずなのに。それを自我を持って滞在してるばかりか自由に動き回りつつ、あまつさえほんの少しずつでも浄化してるなんて正気の沙汰じゃないよ。やっぱりすごいよねー、琉佳は』

 ーーー闇に魂を売ったのに。

 ふと、そんな言葉が頭に浮かんだ。
 どこかで、そんな言葉を聞いたような気がした。しかし、それがどこだったかも、果たして本当に聞いたことなのかも曖昧だった。

『実害出てんじゃん。それで蓮さん悟ってんじゃねぇの?』
『……そんなことないだろ、多分、きっと』
『蓮さんみたいなこと言ってるし』
『それ以前に、会長というまごう事なき実害が出てる』

 真柚と幸人は「そう言えば」というような顔をする。そのことから、会長の重症を実害と思っていなかったことは明らかだ。
 これ程までに嫌われている経営者というのも珍しい。それも、社員だけでなく万人から嫌われまくるという徹底っぷりだ。

『危篤なんだっけ?』
『その時点では重症だったんだけど葉月がね、このままじゃ明らかに人の手でご…ぱしこんされたのが分かるから、それを揉み消すために瓦礫で潰した。台風のせいにして』

 ぶっと、幸人がコーヒーを吹き出した。運良く目の前の真柚には掛からなかったが、机の上がコーヒーで染まる。だがそれも一瞬のことで、すぐに片付いただけではなく幸人の前にも新しいコーヒーが置かれていた。
 なんともサービスの良い店だ。

『トドメ!トドメ刺してる!!』
『生きてるから大丈夫だよー。それにもう意識取り戻したらしいよ』
『そうなのか?』
『知らねぇのかよ元凶!』

 そんな的確な突っ込みに「全く」と返す瀬高は、本当に興味がないというような顔だった。好きの反対は嫌いではなく無関心というが、もしかしたらこういうことをいうのかもしれない。

『元気になったらまた葉月と喧嘩するんだろうねー。瀬高がもっとしっかりしないからだよ』
『……手厳しいな』
『その辺りは分かってて結婚したんだしいんじゃね?そもそもそれ以前からしょっちゅう喧嘩してたんだし、それが嫌なら結婚してないって』

 コーヒーを飲み干すと、たちまち新しいコーヒーがカップに注がれる。本当にサービスの行き届いたファミレスだ。

「…母さん、結婚する前から入り浸ってたのか?」
「むしろ、絶対に父さんと結婚してもらわないとって思って皆が必死になってたって。料理長が言ってた」
「何だそりゃ」

 大鳥グループの家ともなれば、専属の料理人もいることに疑問はない。もちろんメイドや執事たちもいる。
 そしてその人たち皆が、同じように会長を嫌っているのは周知の事実だ。一説には、会長に出すコーヒーに雑巾の絞り汁を入れて、海外の珍しいコーヒーだと出すこともあるとかないとか。

『それでも嫁を守るのが真の旦那ってもんでしょ。今回なんか、最終的に葉月に守ってもらってるからね』
『……………手厳しいな』
『紬ちゃんダメージが。瀬高さんのダメージが蓄積されてく一方だから。フォローも入れたげて』
『うーん……蓮よりまし!』
『それフォローになってないし、違うところに飛び火してるし!』
『本人が悟り開いててよかった…』

 相変わらず結界の中で微動だにしない蓮を横目に、真柚が小さく呟く。
 瀬高は苦虫を噛み潰したような顔でコーヒーを口にしていた。何とも不憫だ。

『まぁさ、子供たちがジジイの駒にされるのは全力で防いでるみたいだし、その点はね』
『子供って、蛇使いに堕天使に妖怪マイスターに天使だろ?…あのじーさんが駒にしたがるような人材いねぇじゃん』

 蛇使い。堕天使。妖怪マイスター。天使。
 何というネーミングセンス。

『蛇使いと妖怪マイスターは狙われてるよ』
『何で?妖怪嫌いのじいさんがむしろ一番嫌いなタイプだろ』
『だって知らないもん。まぁ、マイスターが天狗と付き合ってるのは薄々感づいてるけど…それをうまく利用して妖怪たちを一掃して引き裂けばいいと思ってるし』

 本日2度目、深月が「殺してやろうか」と怒りを圧し殺すことなく呟いた。
 その気持ちは分からんでもない。しかし、そもそも深月が利用されるなんてことはないだろうと、華蓮は思っているが。

『頭沸いてんな。瀬高さん、ちゃんと対策してんの?』
『うちは皆、母親似で優秀だからな。俺が何かしなくても自分達でどうにか出きる』

 瀬高も華蓮と同じ意見(母親似で優秀かは置いておくとして)のようだった。その点について、全く心配している様子がない。

『出来ると言えば、蛇使いは凄いよ!あのクソジジイに取り入ってるもん!本当にそっちに付く気なんじゃないの?ってくらい自然なんだから!』

「いっきー、取り入ってるの?」
「跡は継がないから経営には興味ない。ただお祖父様を応援してるってスタンスだから、自分を過大評価したくなる程度に信頼は厚い。父さんや深月だと、経営に関わってる以上どうしても裏があるじゃないかと勘繰られるからな」
「だから李月だけジジイの書籍の鍵持ってるし、別荘も出入り出来る。そんでソッコー複製して全部俺に管理させんだからな。ジジイが愛人連れ込むための別荘の鍵なんかいらねぇっつの」
「そりゃ大層厚い信頼だなー。俺がジェット機貸してーっておねだりすんのとは訳が違うわ」

 双月はケラケラと笑う。それについては訳が違うというか、もはやベクトルが違う。
 侑は「よくやる…」と、少しだけ引いているようにも見えた。

『…素朴な疑問だが、どこでそんなの見てるんだ?』
『見ようと思えば、葉月が見てるものは何でも見えるからねー。僕、あの蛇使いは面白いから絶対みるんだ!最近はぐちゃぐちゃだから、ちょっと見にくいけど』
『ぐちゃぐちゃ?』
『蛇が分裂して大変なことになってるのー。ひっちゃかめっちゃか!』

 パンパンッと、久々にハリセンが音を立てた。

『ヤマタノオロチだろ?何がそんなにひっちゃかめっちゃかになるんだ?』
『8つの意志を固めいてた体がなくなったことで、魂が分裂したみたいでな。中々酷いぞ』
『酷いぞって、他人事だな。何とかしてやらないのか?』
『見れば酷い様なのは分かるが、俺は専門外だからな。でも彼女は、あの子は私に助言されるのも嫌でしょうって…まぁそれで、琉佳さんに頼んだんだが』
『何でもかんでも琉佳任せだな』
『琉佳さんにも、俺を便利屋にするなって怒られた。でも、どうこうする前に休養に入ったからな…どうしたもんかな』

 瀬高が考え込むように腕を組む。
 それを目にして、李月が自分の両手を見つめながら深刻な表情を浮かべていた。

「………俺ってそんなにやばいのか?」
「俺が知るか。自分のことだろ」
「………母さんの所に行くべきか?」
「それはお前次第だろ」

 華蓮がそう言うと、李月は腕を組んで考えて始めた。
 テレビの中の瀬高と全く同じような格好をしていることに本人は気がついていないだろう。面白いが、考え事を邪魔するのも悪いので華蓮はそれを口にしなかった。

『やばいと言えばさー、マイスターの天狗も大概やばいと俺は思うんだけど』
『ああ…私もあれは気になっていた。テレビで見るたびに妖力が増えているな』
『あれは大丈夫だ。妖力を溜め込むのに限界はない。上手く収めるだけの箱を作ればどうとでもなる』
『でもあの天狗、全然収まってなくね?』
『そのうち爆発しうそだけどな』

「ええっ!?僕爆発するの!?」

『爆発することはないが、確かにちょっと不便そうで可哀想だ。それも殆んど深月の妖気だからな…深月がことあるごとに妖気を得るのをやめれば、手っ取り早く解決するんだけどな』
『そんな、ことあるごとに妖気を得るってどういう生活してんだ』
『契約して借りてるか、狩って奪い取ってるか…その辺りまでは見ただけじゃ詳しくは分からないな。まぁ、殆んどは契約みたいだが』

 そう言いながら、瀬高はコーヒーをすすった。分からないと言いながらも、その殆んどが契約であることを見抜いている。
 深月が顔をしかめながら「何で分かんだよ」と言っていることから、それが普通ではないこ明らかだ。

「…あの人妖怪なの?」
「そこはお前が見極める所じゃねーの?」
「……分かんない」
「流石に違うだろ。もし本当にそうだったら、多少なりと俺や双月にも妖力があるはずだろ」
「あ、そうか。確かにそれなら違うね。2人はまるっきり人間だもん」
「そういう言い方すると、俺が人間じゃないみたいになんだろうがよ」
「ああごめん」

 口では謝っているが、侑からはあまり謝罪する気持ちは感じられなかった。むしろ、その面倒くさそうな表情が 「いい加減諦めろ」と訴えているようだ。
 しかし深月は間違いなく人間だ。
 妖怪の子孫である侑には、妖怪たちが見れば間違いなくそうと分かる妖怪のオーラのようなもながあるらしい。しかし、深月には全くそれがなく、酷く人間臭い。間違いなく人間であるのに、妖気を纏っているなんてモノノケだ…と、妖怪たちから変な生き物扱いをされたのは一度や二度のことではない。

『すげぇなー。小さい頃はさ、蓮さんみたいなのと瀬高さんみたいなのがもう1人ずつ増えるだけでも、世も末だと思ってたのになぁー』
『人数もそうだが、やることも一回り上だからな。何せ、学校を大破させるくらいだし』
『それな。蓮さんと瀬高さんも、流石に学校を木っ端微塵にはしなかったからなぁ』

 ここで華蓮が指摘したいことは、決して木っ端微塵にはしていないということだ。
 確かに半壊はさせた。自分でも流石にもう退学だと思う程には酷かった。けれど、木っ端微塵にはしていない。ちゃんと、半分だけ残っていた。
 結果的に完全な建て直しになったのだからむしろ木っ端微塵にしていた方がよかったのでは?と思うところではあったが。しかしそれでも、そこまではやっていないと主張したいところだ。

『どうだろうな。琉佳がいなかったらいつかやってたような気もするけどな』
『証拠探すためにグラウンド丸ごと掘り返したくらいだからな。確かにいつかは校舎まで手が及んでいたかもな』
『あれは酷かった。縄で繋がれて休みなしで修復作業させられてるのはちょっと面白かったけど』

 一体何の証拠を探するのに、グラウンドを丸ごと掘り返すということに行き着くのか。皆目検討も付かない。
 そして、縄で繋がれて修復作業というワードも中々に気になるところだ。

『あれは死ぬかと思った鉄拳制裁トップ3にランクインしてるからな。思い出すだけで吐きそうになる』
『自業自得だろ』
『つーか、ランキングしてる時点で反省の色が見えねぇんだって』

 的を射た言葉だと思った。
 そして、そのランキングの他の項目がとても気になった。
 
『たまに思い出して人生の糧にしてるんだよ。あれで生きていられたんだから、謎のテロ組織に丸腰で乗り込むのなんて訳はない。大丈夫、俺たちなら出来る』
『謎のテロ組織って何?あんたら何やってんの?』
『そんなことは自分の父親に聞け。ある日突然テロ激戦区みたいな国に呼び出され。行くや否やあれを潰してこい、武器は使うな。だぞ?言うのは簡単だよ、言うのはな』
『……もしかして、まだあの奴隷契約続行中なのか?』
『一生に決まってるだろ。ちなみに、その奴隷契約を結ぶ原因となったあれはランキング2位だ』
『ってあの、隼人が大怪我したやつ?魂引きずり出して数日間火炙りにされたり串刺しにれたり……言ってて寒くなってきた』

 幸人が肩をすくめる。
 同じように、華蓮と李月も肩を竦めていた。この間映像を見たばかりなので、まだ記憶に新しい。

『てっきりあれが一番だと思った。じゃあ栄光の1位は何なんだ?』
『全然栄光じゃないが、1位は蓮が…』

 真柚の問いに返しかけた瀬高の言葉が止まる。そして瀬高の視線が、ずっと静止画のように動かないままだった蓮の方に向いた。
 ゆらりと、シャボン玉が揺れるように映像が乱れる。映し出された先で、すっと結界が消えるのが見えた。


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