Long story


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 最初に目に入ったのは秋生だった。
 そして、目に入った瞬間にその顔に向かって思い切り飛び込んでいた。当たり前だが、秋生にはそれを避けるだけの技量はない。

「うわぁっ!?」

 どさっと、そのまま共倒れのようになった。
 華蓮はすぐに体を持ち上げ、下敷きにしてしまった秋生を見下ろす。下が畳であったためにダメージは少なそうだが、それでも悪い事をしたと思う。

「悪い」
「いえ、大丈夫です。…先輩、元に戻ったんですね」
「は?……あ」

 そういえば。下敷きにした秋生が自分よりも小さい。それに気付いて、自分が元の大きさに戻ったことを知る。
 いつの間に戻ったのだろうか。少なくとも、あちら側の金木犀き飛び込む時には亜希に抱えられていたので……とそこまで考えて、考えるのをやめた。別にその辺りはどうでもいい。

「男のロマンは楽しかったですか?」
「…まぁ、それなりにな」

 楽しかったというよりは、ひやひやするような事の方が多かった気もするが。
 それもまぁ、楽しさの一部だと言ってしまえばそれまでだ。

「どんな所に行ったのか聞かせてもらえます?」
「ああ」

 どんな所に…と聞かれれば、どこにも行ってはいないのだが。
 それでも、在った場所、出逢った人、起こったこと。それらは全て、秋生を驚かせるような話にはなるだろう。

「あ、でもその前に。おかえりなさい」

 秋生がそう言って笑う。それは紛れもなく、いつも目にしている笑顔だった。
 華蓮はそんな秋生が無性に恋しくなり、自分よりも小さい体を抱き締めた。女鬼が少女を落とさまいと抱き締めていたように、ぎゅっと。

「ただいま」


 あの女鬼……薺。
 本来ならば、彼女とは出逢うことはない筈だった。けれども華蓮は今日、その人物に会うことが出来た。それはきっと、正しい出逢いではなかったのだろう。けれど、どのような形であれ出会ったというその事実は…彼女にとっても、華蓮にとっても変わらない。
 それが、父の言うように逢うべくして逢うということならば。
 その出来事はきっと、意味のある過去になり。未来になり。そして、現在に。
 今の華蓮への道しるべとなることだろう。


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