Long story


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 桜生が学校に通い初めてどれくらい経っただろう、と秋生はふと考えてみた。夏休み期間を含めて3ヶ月以上は経っただろうか。
 月日が流れるのは早い。
 最初は授業を受けることを楽しみにしていた桜生だったが、もう既にそんな時期は終わりを告げている。そして、如何に理由をつけて授業をサボるか…ということを春人を交えて真剣に考えるようになっていた。
 そういえば、秋生も最初の頃は幽霊の相手ばかりで授業に出られないのを嘆いていた日が連日続いていたが。今となってはどうしてあんなに授業に出たかったのか…と、考えてすぐに思い立つ。授業に出ていないと、春人にノートを取ってもらうだけではテストがやばいと思っていたからだ。華蓮に勉強を教えてと軽く頼めるようになった今は、そんなことに悩むこともない。
 そんな訳で、現在4限目。お腹が空いて授業を受ける気分ではないと満場一致の結果、揃いも揃って新しくなった部室でごろごろしている次第だ。

「まぁ、サボってもやることがあるかって聞かれたらそうでもないんだけどね。どっかにスキャンダルでもあればいいんだけど」
「そうだねぇ。不倫…は最近聞き慣れちゃったからな〜。大鳥グループに嫌がらせ出来て世間様も食いつきそうな話題っていうと、脱税とか、裏口入学とかかな?」
「それ多分、僕が引っかかるやつだね」
「あ、そっか。そりゃだめだ」

 小学校にもまともに通っていなかった桜生が当たり前のように学校に通っているのは、隠すまでもなく裏口入学の結果だ。普通の裏口入学とはかなり勝手が違ったであろうが、何にしても不正に入学したことに代わりはない。そしてそれは桜生に限らず、李月も同じだろう。
 春人はケラケラと笑いながら、床に広がっている裏返しのトランプを2枚捲った。それを確認すると、捲ったカードを元に戻す。することがなくなぜか転がっていたトランプで神経衰弱を始めたのは、ほんの数分前のことだ。

「せっかく楽しそうだなって思った七不思議も、行き詰まってるしね」

 桜生もそう言いながらカードを捲る。ちゃんと確認したのかどうかも分からない速さで、それらが元に戻される。

「そう言えば秋、呪いの玉手箱の様子はどんななの〜?」
「あー、全然ダメ。頭沸いてんのかってくらいガッチガチですげー疲れる」
「そりゃ大変。無理しないようにね」
「うん、大丈夫」

 華蓮にもそう言われたため、無理はしていない。そもそも、まだ無理をしてこじ開けるような段階まで進んですらいない。
 春人に返事をしながら先程春人が捲っていたカードの1枚を捲る。そして次に桜生が捲っていたカードの2枚目を捲り、同じ数字の揃った2枚を手に取った。春人も桜生も、秋生が揃えていくことにも興味はなさそうだった。

「まぁ、お父さんの言うその時ってのが来たらどのみち分かることだろうからね。気にはなるけど…春くんの言う通り、無理しちゃだめだよ」
「分かってる。でも、空いた時間とかじゃなくてあれに1日費やせたら少しは進みそうなんだよな」

 これまであの呪詛と向き合うのは、例えば学校から帰って夕食の支度までの時間とか。朝の朝食の支度のあとの空いた時間とか。そんな中途半端なものばかりだった。だから時間をかけてじっと向き合えば、解けないはずはない。と、秋生は思っている。
 だが、それには「今だ」と直感的なものが必要なのだ。今向き合えば出来そうという、根拠のないやる気が沸き上がった時でなければ、あんな呪詛に1日中向き合うのは中々難しい。

「あんなとこに缶詰めになって大丈夫なの?…てか、2人もあそこで寝てるわけじゃないよね?」
「まさか。あんな、呪いの玉手箱があることで寝られないよ。ソッコーでいつくんとこ避難したもん」

 本人の言葉通り桜生の行動は早く、夕方の時点で既に布団を丸どこ李月の部屋に移動させていた。布団に呪いが移ったら嫌だと、いつも李月と寝る時には持ち出さない敷布団まで、本当に丸ごと持って行っていた。
 そんな桜生を横目に、秋生は大げさだなと苦笑いを浮かべていたのだ。そして、自分は全くどこに移動して寝る気もなかった。

「俺は一緒に寝たら呪いも解けやすくなるんじゃないかなと思ってたけど、良狐に絶対に駄目だってキレられた」

 それは呪いが移るとかそういう話ではなく、近くにいるだけで気が休まらないからだとのことだった。あのプラスチックケースの呪いは、未だ消えずに秋生の腕に巻き付いている呪いとは訳が違うのだと。
 実際問題、あの部屋から出て縁側を後にし廊下に差し掛かった辺りから、張り詰めていた何かが軽くなるような感じはした。きっと、あのケースから呪いが漏れ出すことはいなにしろ、側にあるだけで身体的にいいものとは言えないのだろう。

「そりゃそうでしょ。だから変な夢なんか見るんじゃないの〜?」
「夢見たのは玉手箱を見つける前だから」
「あれ以来見てないの?」
「それがさっぱり見てねーんだよな」

 本当にあの1回きりで、それ以来全く変な夢…というより、夢を見る気配もなく毎日快適に熟睡している。そうなると、やっぱり自分が勝手に不謹慎な夢を見ただけなんじゃないかと思ってしまう。
 しかし、夢ではなく…呪いの玉手箱と一緒に出てきたあの映像。1枚目の最後に流れた声だけの記録を見た時に感じたあの感覚。
 あれも確かに、記憶だった。

「見ないならそれに越したことないでしょ」
「まぁ、そりゃそうだけど…」

 何だか気になってしまう。
 まるで、あの録画映像と自分の垣間見た記憶が連動しているようで…多分それは、一気に情報を取り込みすぎたせいで頭が混乱したせいなのだろうが。それでも、その全てが中途半端過ぎてハッキリさせてしまいたい。
 頭の中がぐちゃぐちゃ、とは正にこのことだ。整理をしようにも、どう整理をすればいいのかサッパリ分からないのだ。

「何か気になることでもあるの?」
「うん、まぁ…何ていうか……」




 ━━━見つけた。




「え?」


 何だ、今のは?


「何?どうしたの?」
「今…なんか、声が……」
「え?何それ?」

 桜生と春人は首を傾げている。
 もしかして、気のせいだったのだろうか。夢のことばかり考えて、空耳でも聞こえたのかもしれない。



 ━━━あんたが繋がりやな。


「え…?」


 やはり、空耳ではない。
 そして気がついた。声が、自分の頭の中から聞こえることに。まるで頭の中に響き渡るような、そんな様子で。


 ━━━ほな、遠慮なく。


「秋?…ちょっ、秋!?」
「秋生っ!!」

 春人と桜生がどうしてそんなに驚いた顔をしているのか分からなかった。
 ただ、頭の中に響いた声がこだましていて、その他のことにあまり意識が向かない。



 ━━━遠慮せんと、さぁ。



「━━━」




 呼ばれるように、夢の中に堕ちた。



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