Long story


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 昔々あるところに、ひとつの小さな島がありました。その島には遥か前から、数百の人間たちと数十の鬼がいました。人間たちは海辺で、鬼は山の中で、互いの存在を知りながらも決して関わり合うことなく暮らしていたのです。
 ある時、海辺に一艘の船がやってきました。それは、海を渡った先にある別の島からやってきた見たこともない妖怪たちでした。その数はほんの数人でしたが、陸に上がるや否や漁で得た魚を食い荒らし、畑の作物を食い荒らし、やりたい放題に振る舞います。しかし、流石に妖怪というだけのことはあり、人間が束になってかかっても勝てない程の強さを持っていました。
 自分達ではどうにも出来ないと悟った人々は、島で唯一のお寺に駆け込みます。そして、寺の住職に妖怪たちをどうにかして欲しいと言いました。人々は、寺の住職が自分達ににはない不思議な力を持っていることを知っていたからです。住職は人々の頼みを受け入れ、そして不思議な力を使い見事に妖怪たちを島から追い出すことに成功しました。
 しかし、それで終わるはずもありません。怒った妖怪たちは何十という仲間を連れて舞い戻って来たのです。今度は畑を荒らすだけに止まらず、人々をも襲い始めました。恐れをなした人々はまた住職の元に駆け込みますが、いくら不思議な力があるはいえ何十という妖怪を相手に戦うことは出来ません。住職は困り果ててしまいます。
 そんな折、そのことを知った住職の娘が鬼の住む山に向かいました。娘は同じ妖怪である鬼ならば太刀打ち出来ると思ったのです。娘は人々を救いたいと思いました。娘は数日という時間をかけて山を登り、鬼の住みかまで辿り着きました。
 鬼たちは突然やってきた人間を嫌がり脅しますが、娘は決して引きませんでした。住みかの入口である扉の前で何度も何度も頼み込み、雨が降ろうと風が吹こうと嵐がこようとも動かず、果てには着物もボロボロになり、身体中が傷だらけになってもその場から離れませんでした。そうしていよいよ体力も底を尽きそうになった頃、入り口の扉が開きました。
 一匹の鬼が、すっかり失くなりかけた娘の着物を正し、傷だらけの体を癒してくれました。それは、鬼たちの長でした。
 鬼たちは自分の命よりも島の人々を助けようとする娘の行動に心を打たれ、ついに力を貸すことしたのです。
 海辺に向かうと、既に島の半分の人々が無惨にも殺されていました。寺の住職は残った人々を寺の中でかくまっていました。しかし、人々を隠し続けることは限界に達していました。そんな中、行方不明になっていた娘が鬼たちと戻ってきたことに、住職は大変驚きました。そして娘が事情を説明し、この一度切りという約束の元に鬼たちと共に戦うことを決めたのです。
 そして大きく戦況は翻りました。鬼たちの戦力は凄まじく、あっという間に妖怪たちを圧倒します。一人戦い続けていた住職は敵の妖怪たちのことをよく分析していたため、鬼たちはより有利に戦うことが出来ました。そうしてたった数日で妖怪たちを全て捕らえました。人々は捕らえた妖怪たちを殺すよう訴えますが、住職の娘がそれを許しませんでした。人々は鬼を連れてきた娘に言われれば逆らうことも出来ず、妖怪たちは二度とこの島に訪れないと約束させ船で海へと流しました。
 鬼たちは山へ戻り、人々にも生活が戻ります。こうして島に平和が訪れ、何もかも元通りになるかと思われました。
 しかし、人々は妖怪たちに襲われた恐怖を忘れることが出来ませんでした。またいつか、島の外から妖怪たちが自分達を殺しにくるかもしれない。そんな恐怖から逃れられず、その恐怖の念が人々をおかしくしていきます。
 そしてそれは、寺の住職も同じでした。
 寺の住職は自分の不思議な力で、妖怪たちから多くの人を守れるようにと修行を始めます。そして寺に古くから伝わる様々な書物から技法を学び、どんどん力をつけていきました。しかし、心の奥底にある恐怖が次第にその目的を見失い、より多くの人を守るためではなく…より多くの妖怪たちを倒せるようにという気持ちに変化してしまいます。
 そうして修行を続けた結果、あるひとつの方法にたどり着きました。妖怪たちを倒すために、妖怪たちを自在に操る方法を見つけたのです。その時の住職は既に、自らの正しい心を見失っていました。
 そんな住職を見た娘は、自分の父が過ちを犯す前に止めなければと思います。そしてすぐさま鬼のいる山に登りました。
 鬼たちは娘を脅すことも閉め出すこともせず、迎えいれました。すぐに住みかへと通された娘は、今すぐ逃げるようにと鬼の長に伝えます。娘は住職が自分の見つけた方法を試すために、鬼たちを利用することを恐れたのです。しかし、鬼たちは娘の忠告をありがたく受けとれど、この山から出ることはないと言いました。無理もありません。鬼たちはもう何百年という月日を、この山の中で暮らして来たのですから。娘は不安に思いながらも、鬼たちに固い決意があるのであれば成せることはないと、この場を立ち去ろることにしました。
 時を同じくして、住職は娘を追って山に来ていました。娘の言葉通り、住職は自分の力を試すために鬼たちを利用しようとやってきたのです。
 鬼たちの住みかの入り口で、住職は自分の持てる力の全てを出して鬼を従える術を唱えました。しかし、鬼たちの住みかの守りは強固でした。住職の術は失敗に終わり、今正に住みかを出ようとしていた娘は、鬼たちが助かったことに安堵しました。
 住職はそんな娘を目にし、人々よりも鬼の味方を怒りました。その時既に正気を失っていた住職は、あろうことか、娘の命を対価に、今一度術を唱えたのです。
 娘が恐れた事が現実となりました。
 命を以て命を縛る。そのおぞましい術に縛られたのは、鬼の長でした。
 命によって縛られた命に、抗う術はありませんでした。その服従に終わりはなく、住職の命の途絶えかけた頃、最後の命として自害を言い渡され共に死にました。
 以来、この住職の家系では長男が鬼を従えることが習わしとなりました。いつからか、この家系は鬼を従える神を名乗るようになったのです。そして、この狂わしい風習は何百年という時を経た現代でも、途絶えることなく続けられていました。 


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