Long story


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「ううん。鬼神の性には一度も預けられたことないよ」

 睡蓮はそう言いながら、デザートのプリンをスプーンですくった。
 それは、李月からここに来るまでに預けられていた親戚に「鬼神」という性がいたかという質問に対する答えだった。

「どういう親戚かは僕もよく知らない。興味もなかったし…まぁ、疎まれたってのが唯一の共通点かな?」

 睡蓮はまるで他人事のように言う。
 これ以上この話を掘り下げても何も出てこないし、気にしていないように見えても睡蓮にとって楽しい話ではない。

「華蓮先輩も…何も知らないんですよね」
「親戚には一度も会ったことはないし、話を聞いたこともない。寺だってずっと放置だったしな」
「唯一知ってそうな狸さんは沈黙だし…お手上げですね」

 華蓮が呼ぶと顔を出した鈴々だったが、鬼神家のことを聞くと「答えたくない」と断言したっきり何も言うことはなかった。そして今も睡蓮の膝の上に座ったまま、じっとしているだけだ。
 夕方から夜にかけてのこの時間帯。テレビは今日も今日とて、代わりばえのないニュースを放送している。

「でもじゃあ…何も知らないのに、どうやって学校の心霊部のこと知ったの?」
「それはうちの父さんだよ。華蓮が鬼神家の直系の長男だから…って。父さんも適当だからな、断ってもいいけどとか言ってたけど…まぁ断るわけねーよな」

 そう会話に入ってきたのは深月だ。そしてその言葉の通り、特別待遇なんて処遇を聞いて華蓮が断るわけがない。

「それなら…深月先輩たちのお父さんが何か知ってるんじゃ?」
「まぁ、知らないことはないだろうけど。その気があるなら、もうとっくに教えてると思うんだよな……一応聞いてみてもいいけど」

 深月はそう言いはしたが、あまり期待はするなと目が語っていた。

「本当にお手上げだねぇ。皆で口裏合わせて隠してるなら、探しようがないもん」
「違うよ」

 沈黙を貫いていた狸が、睡蓮の言葉に返すように呟く。

「誰かに口止めされてるわけじゃない。だけど、僕は思い出したくないから…話さない」

 狸はテレビをじっと見つめたまま、そう続けた。そんな狸を、睡蓮がぎゅっと抱き締める。そして「ごめんね」と小さく漏れた言葉に、狸は静かに首を振った。
 これ以上、この話ーーあの墓についてのことを、掘り下げるべきではないのかもしれない。

「ーーあ。…あ!!」

 突然、睡蓮が狸を抱えて立ち上がる。

「…どうしたんだ?」
「見て!…これ、これ!!」

 ダダッと狸を抱えたままテレビ画面のすぐ前まで走った睡蓮は、画面の中を指差した。
 ニュースではまたしても、春人の兄…隼人がインタビューを受けている映像が流れている。この人物が春人の兄だと認識してからは、やたらと目に入るようになった気がするが…それはその頃から隼人が突然テレビに出るようになった訳ではなく、自分達が無意識に気にするようになったのだろう。
 しかし、睡蓮が指を指したのは隼人ではなく、その奥にいる別の人物だった。
 大画面に映る。立ち位置的に、隼人の秘書のような人物だろうか。その人物の胸元にあるプレート…名札だ。




「……鬼神」




 睡蓮の指差す先には。
 確かにそう、記されてあった。


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