Long story


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 不安な出だしで始まった電話は意外にもスムーズに進み、華蓮たちが秋生たちのいる方に向けて来るという話でまとまった。どうして華蓮と桜生が既に外出しているのかとか、どこにいるのかという話は会ってからするということで、まずは合流となった次第だ。
 このまま動かず待っていようかとと思った李月と秋生だが。教会にいる全ての女性の霊たちに逃げられてしまいやり場をなくしていた佐藤が少し可哀想だったので、華蓮と桜生を迎えに一度教会を出ることにした。

「このみたらし団子美味しい。夏川先輩も食べます?」
「ああ」

 来た道を戻りはじめてしばらく。
 帰りに寄ってもいいかと李月に問いかけた、みたらし団子の売っている茶屋。外に隣接している椅子に腰を下ろして、仲が良さそうにみたらし団子を食べているカップル…ではない、決して。

「あ、秋生にいつくん。やっほー」
「……いや、やっほーじゃなくね?何で悠長にみたらし団子食ってんだよ」

 桜生が手を振るのに対して、秋生は顔をしかめる。すると、なぜか桜生も顔をしかめた。

「だって美味しそうだったから。大体、秋生といつくんだって人のこと言えるの?」
「…何が?」
「嬢ちゃん、さっきと格好が違うけどどうしたんだい?ああ、連れてるあんちゃんも違うじゃねぇの…可愛い顔して悪い子だねぇ」

 ゲッヘッヘと、桜生は変態オヤジのような笑みを浮かべた。何とも演技派だ。
 秋生はどう返せばいいのか分からず、苦笑いを浮かべるしかない。

「たい焼きを買った時に言われてな」
「ああ…それで」

 華蓮と李月の会話を耳にして、桜生の謎の演技と先ほどの「人のこと言えるの?」という言葉に納得する。
 行きに立ち寄ったたい焼き屋はそれなりに繁盛していたというのに、よく客の顔を覚えているものだ。

「…俺はみたらし団子は我慢したし」
「そういう問題じゃないでしょー。それに結局、恋人も見つからず仕舞いだったんでしょ?つまり、ただ学校サボってこの辺りの観光を楽しんだだけってことだよね?」

 そう言われてしまうと、秋生には返す言葉はない。
 あくまで目的は佐藤の恋人探しだったが、それ以外のことを楽しまなかったのかと言われればそれは嘘になる。それに、帰りも楽しむ気は満々だった。

「まぁいいけどねー。僕も夏川先輩と楽しく浮気デートしたし」
「浮気デートって…」
「誘ってくれたのは夏川先輩」
「それは別に、どっちでもいいけど…」

 と言いつつ、もしその事実が本当ならばちょっとだけ…いや、一緒に出掛けたからといって華蓮と桜生の間を疑うわけでもない。そもそも、秋生と華蓮が出掛ける際もその殆どは秋生の気持ちを察して華蓮が誘ってくれる。だから、その事実が本当だとしてもそれほど気にはならない。
 そして桜生はそんな陳腐な嘘はつかないだろうから、きっと本当だろう。本当だとしても、別に気にしない。
 ……やっぱり、少しだけ嫉妬する。

「お前ら、遊ぶために出てきたのか?」
「違いますー。デートのついでに伝道師のアパートを確認する…あれ?違うな。デートがおまけで……アパートを確認するのが本命っ」

 一度言い直した時点でもう遅い。
 アパートの確認は名目で、デートが本命ということがバレバレだ。

「……どうせ深月にでも言われたんだろ。何か名目がないと俺がどうとか」
「さすがいつくん。その通りです」
「妙案かどうかは定かじゃないと指摘はしたが…結果論で話すなら、妙案だったな」

 そう言いながら、華蓮はある方向を指差した。秋生と李月はその方向に振り返る。
 人が沢山歩いていた。特に何も気になることはないような気がしたが…指差す方向にあるアクセサリーショップからカップルが出てくると、その背後から何かが出てきた。

「うーらーめーしーやー」

 それが女性の霊であることはすぐに分かった。カップルの後ろにくっついて恨み言を言っているが、カップルは全く気付いていない。そしてかなりの瘴気を放っているように見えるが、実際に呪っているわけではなさそうだ。

「あー。またカップルに付きまとってる」
「……桜生、あれ見えるのか?」
「うん。何でもあの人、世月さん的な立ち位置らしいんだけど…」
「じゃあ…何で俺にも見えるんだ?」
「そこら辺は複雑なんだよね。ま、夏川先輩にでも聞いて」

 何とも適当だ。
 しかしそれならば、華蓮に聞く他ない。

「あー!!」
「!!!」

 突然耳元で大声をあげられ、驚きすぎて思わず飛び上がりそうになってしまう。例によってその反動でこけそうになるが、まるで当たり前かのように少し離れた場所にいたはずの華蓮に受け止められた。

「…急にどうしたんだ」
「あいつ!!あいつだよあいつあいつ!!」

 李月が問いかけると、佐藤は凄まじい剣幕で叫びながらどこかのカップルに恨み言を唱えている女子大生を指差した。
 叫び声がポルターガイストとなってあちこちで建物を揺らしている。

「ちょっとトーンを落と…」
「あーー!!!」
「!!!」

 今度は遠くの方から聞こえた叫び声に、飛び上がってしまう。今度は事前に自ら華蓮にしがみつくことで転倒を回避する。
 ポルターガイストの大盤振る舞いだ。迷惑以外のなにものでもない。

「何なんだ…何なんだよ……」
「まぁ見ていろ」

 全く状況が読めないが、華蓮にそう言われただ行く末を見つめることにする。すると、女子大生と佐藤は吸い寄せられるように近寄っていくのが目に入った。
 一体、どうしたというのだろうか。

「お前っ、お前のせいで俺はなぁ!」
「やっと出会えた!私の運命の人!!」
「そう、俺は運命の相手を………え?」

 佐藤がすっとぼけたような顔をするが、女子大生は構わずがしっと佐藤の手を握る。
 やはり全く状況は読めない。

「あの人が隣の家に住んでた人なの」
「……なるほど。あの女子大生は最初から佐藤を道連れにするつもり自殺したのか」
「ぴんぽーん。死んで愛を遂げるはずだったのに成仏したらあの人がいなくて、発狂して戻って来たんだって」

 桜生と李月の会話を聞いて、やっとなんとなく状況が見えてきた。…というか、今の会話が全てなのだろうが。
 死んで愛を遂げるという考え方がぶっ飛び過ぎている。しかし、桜生が「ちなみにあの人ライト様ファンだよ」と言うのを聞いて、妙に納得してしまった。

「やっと会えた!あたしの運命の人!!」
「…お……お前が俺の麗しの君なのか?」
「麗しの君だなんてそんな…っ」

 佐藤の言葉に。
 女子大生は、ゆでダコのように顔を赤くする。秋生は、これでもかという程に顔をしかめる。

「あの人、いつも隣から聞こえてくる素敵なポエムに恋い焦がれてたんだって」
「……なるほど」
「本当は全然あんキャラじゃないだけどね。伝道師を前にすると伝えたいことを伝えられず…ま、秋生みたいなもんだよ。ちょっと拗らせてるけど」

 ちょっと拗らせている程度の差で、一緒にして欲しくない。
 しかし、伝えたいことを伝えられないという点に関しては強く言い返せない。最近はかなり進歩したと自負しているが、それでも桜生ほどストレートには言えない。そのため、不満に思いつつも突っ込むのはやめておいた。

「で…結果的に一緒に死ぬ道に行き着くと」
「いえっす。伝道師の家に忍び込んで、絶妙に気付かれない場所を把握して自分の家から壁に穴を開ける。そして伝道師が家にいて、更に窓を締め切っていることを確認して自殺…作成は大成功ってね」

 可愛い顔で楽しそうに言うことではない。
 疑いの余地もなくこれは完全に殺人だ。

「……アパートに穴は残ってたのか?」
「完璧に修繕済みでしたので、こちらは完全に管理会社の隠蔽ですねー」
「双月の出番か」
「夏川先輩もそう言ってた。こんな悪徳不動産は大鳥グループに潰してもらうしかないってさ」
「今後同じ…ようなことはないかもしれないが、まぁそれが妥当だな」

 双月は大鳥グループとしてこの辺りの不動産関係を牛耳っているらしいので、悪徳不動産を潰すことなど容易なことなのだろう。もしかすると、明日にはもう既に買収されているかもしれない。

「共に行こう。俺たちの愛のブラックホールに!」
「ええ!一生付いて行くわ!」

 ふわりと、軽やかな風が吹いた。

「あ、成仏するみたいだよ」

 なんと呆気ないことか。
 時間にするとたったの2日間と短い間だったが。色々と濃すぎてとてつもなく長い時間が経ったような気がしてならない。

「…あっ、お前!謝罪を聞いてないぞ!」

 さぁ仲良く一緒に成仏するぞという瞬間。
 佐藤がハッとしてから、バッと秋生の方に顔を向けた。

「覚えてたのかよ…」
「全力で謝辞を述べろ!このトンチキ!」

 こんな男にどうして謝罪しなければならないのかと、一瞬だけ不快に思うが。しかし自分で言ってしまった手前、約束は守らなければならない。

「どうもすいませんでした!お前は凄いよ、愛の伝道師!」

 秋生の言葉に、佐藤はそれ以上ない程に満足気な表情を浮かべた。
 隣で桜生が「愛の形はそれぞれだねぇ」と呟きながら昇っていく魂を見上げる。それぞれと片付けるにしては強烈すぎる気もするが、それでも成し得られるのだから…本気を出せば、どんな形の愛でも実るのかもしれない。秋生はそんなことを思いつつ、少しだけ笑っていた。


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