Long story
華蓮がどこに行きたいかと聞いてから、桜生はずっと腕を組んで考え込んでいた。バスに揺られ数十分、それから電車に乗り換えてもずっと考え込んでおり…結果的に、まずは深月の提案通り佐藤のアパートに行くのでその間に決めておくということになった。
しかし、間で桜生が「あそこのゲーセンはぼったくり」と言い出しクレーンゲームの話をしてみたり、華蓮が「あそこは家電の品揃えが今一だった」と言い出して家電の話をしてみたりで、肝心の行きたいところを決める話は全く前に進まない。そうしてとうとう、電車も佐藤のアパートの最寄り駅に着いてしまった。
桜生たっての希望で案内役を任せ、スマホのマップを開いて歩く。いくら私服とはいえ平日の田舎道に高校生が2人歩く様は目立つように思われるが…目立つという以前に全く人がいない。島を出ても田舎は田舎いうことか。
「……なんか、いつくん相手ならじゃあ北海道!とか言えるんですけど。夏川先輩だとさすがに言えないですね……ちょっと出掛けるなら、東京くらいが関の山です」
「言っておくが、東京の時点でちょっと出掛けるの範疇じゃないからな」
「あー、ですね。何せいつくんにスクランブル交差点歩きたいって言ったら、すぐ飛行機で連れてってくれるもんで…」
「さすがに大鳥グループの長男だな」
本当に凄いのは、李月に頼まれて祖父におねだりをする世月に扮した双月なのだろうが。いや、何よりも凄いのは、孫の願いを二つ返事で了承し、当たり前のようにジェット機を差し出す大鳥グループそのものか。
何にしても、一般高校生の範疇じゃない。
「いやそれが違うんです。いつくん、双月先輩に頼んでばかりだと申し訳ないからってこの間自分でプライベートジェット買ったんですよ!」
「……あいつそんなに荒稼ぎしてるのか?」
「へぇ、あこぎな商売してますねん」
にやりと笑う。その悪い顔と言ったら、映画に出てくる悪役さながらだった。多分わざとなのだろうが…もし将来、職に困ったら侑に斡旋でもしてもらって俳優にでもなればいいと思う。
「あ、でもちゃんと僕もおじいちゃんの遺産から半額は出しましたので!」
別に李月に全額出してもらおうと華蓮としては何を思うこともないのだが。その発言には顔をしかめずにはいられなかった。
「…お前、遺産はもっと大切にだな……」
「その辺りは大丈夫です。遺産は株取引で秋生のも含めて3倍になってますので、元本に手は付けてないですよ」
「株…?」
「数字覚えるがてらやってたらハマってしまいまして。これが楽しいんですよねー」
いつか、秋生に遺産の額を聞いたことがある。確か…億単位だったような気がするが。それを3倍に増やしたと笑顔で言う桜生を前に、華蓮は返す言葉がない。
ただやはり、一般高校生の範疇じゃない。
「……まぁ…いいか。深く考えることじゃないな」
「あ、いつくんと同じこと言ってますよ。やっぱりそっくりですねー」
「俺はジェット機を買ってまで東京に連れてなんか行かない」
金銭感覚が狂っているというか、色々と滅茶苦茶過ぎて恐ろしさまで感じさせる。それは李月だけでなく、当たり前のように折半する桜生に対してもだが。
そう思いながら華蓮が放った言葉に対して、桜生が少しだけ困ったような顔を見せた。それは、東京に連れていって貰えないことを嘆くような…そんな顔ではない。
「……それはちょっと気にしてるんですよね」
「何が?」
「いつくんは…僕がしたいって言うことも、行きたいって言うことも、全文聞いてくれるから。無理してるんじゃいかなって…やっぱり控えた方がいいのかなぁ……」
それが金銭的な意味でないとこは、先程からの会話で分かっている。無理しているというのは、精神面かもしくは体力面…華蓮が察するに、ほぼ間違いなく精神面でのことだろう。
桜生は、自分のやりたいこと李月に無理強いして負担にさせているのではないかと思っているのだ。だから、遠慮した方がいいのではないかと思っているようだった。
「…秋生に負けず劣らずの馬鹿だな」
「へ?」
「確かに李月は桜には滅法弱いが、流石に嫌々ジェット機は買わないだろ」
東京も北海道も沖縄も、気乗りしないけど仕方ないから行こうというレベルではない。それが例えジェット機でひとっ飛びだとしてもその負担は変わらないだろう。
李月は基本的に兄体質のために誰かのために何かをすることに慣れているが、だからといって限度がある。どんなことでも全てを受け入れるような聖人というわけではない。
「……でも僕、これまで断られたことないですよ?」
「当たり前だ。桜のしたいことを一緒にして、行きたいところに一緒に行くのがあいつにとっての楽しみなんだからな」
何年もの間、ずっと出来ずにいたこと。
それが出来るようになった今、その内容は大きな問題ではない。それがどこでも、どんなことでも。それを一緒に出来るということが何よりも重要なことなのだ。
「だからどうしても嫌なことじゃない限りは何でも楽しむに決まってるだろ」
「……そう…ですか?」
「そうだ。それに、遠慮なんかしてもすぐに気付かれて、それこそ文句を言われるのが落ちだ」
「………たしかに」
李月の洞察力は目を見張るものがある。 相手が桜生ともなれば、少しの変化でも一瞬で気が付くに違いない。問い詰められれば桜生は正直に話すだろうし、李月は呆れるだろう。華蓮にはそこまでの流れが鮮明に予想できてしまう。無駄な時間が増えるだけだ。
桜生も華蓮に言われて気が付いたのだろう。ボソッと「正座させられるんだ…」と呟いた。過去に正座をさせられるような何かをしたのとかという疑問は、胸の奥にしまうことにした。
「でも、いつくんが断るほど嫌なことなんてあるんでしょうか?」
「……さぁ、どうだろうな」
「夏川先輩は、秋生に一緒に行って欲しいって言われても断ることってあります?」
「そりゃあな」
そう答えたのは仮定に過ぎない。何せ、秋生の場合はまず自分から一緒に行って欲しいと言わない。…全くないわけではない。しかし、新しい家電を見に行きたいと言われた以外に何かあっただろうか。と考えて、考えるのはやめた。
何にせよ、唐突に東京に行きたいと言われたら華蓮なら断る。多分。
「…夏川先輩にもあるってことはやっぱり、いつくんにもあるのか」
華蓮はその言葉に苦言を呈したかったが、やめておいた。ここで李月と同じ土俵に立ちたくないと否定しても仕方がないし、桜生が納得しているなら今はそれでもいいと思ったからだ。
ただ心の中でだげ、プライベートジェットは買いはしないと。誰に対してでもなく弁解を述べた。
「……あ、そうこうしてるうちに。この辺ですよ」
マップを見た桜生が立ち止まる。
見るからに古い木造アパートが2棟、それから明らかに町営住宅っぽい建物が何棟か、そして周りにちらほら一軒家という…田舎にはよくある住居区域だった。
佐藤が住んでいたのは木造アパートのどちらかだろう。深月が部屋番号を言っていた気がするが、華蓮はそれを覚えていない。
「………あの部屋だな」
古い木造アパートの方に近づくと、2階の部屋のひとつから紫色の煙のようなものが窓をすり抜けて流れ出ている。どう考えても、生きた人間が生活していて出せるものではない。
華蓮が指差すと桜生は一度その部屋を見上げてから、マップを閉じてスマホのメモアプリを起動した。
「深月先輩から聞きた情報では、あの部屋は自殺した女子大生の部屋ですね」
「……つまり、まだあそこにいるということか」
この、何の変哲もない田舎で。大鳥高校のような場所があるわけでもなく…むしろ比較的穏やかなこの地で。どんな悪いものに触れるということでもないのに。半年程度で、これ程までに瘴気を放つようになるなんて。
どれほどの未練を持ち、何をそれほど恨んでいるのか―――そんなことを考え始めたその時、ガラリと音を立てて窓が開く。
「うわっ、窓が開いた!」
桜生が声を出し、さっと華蓮の後ろに隠れた。そして、顔だけ覗かせる。
あんな場所に人は住めない。それこそ、ものの3日で自殺でも考えたくなるに違いない。そもそも空室として不動産に登録されているのだから、人がいる筈はない。
もしかすると、女子大生もあの瘴気に当てられのかと考えたが…佐藤の話では、女子大生が越してきてすぐに死んだというようなことは言っていなかった。ということはやはり…あの瘴気を放っているのがその女子大生と考えていいだろう。
警戒心から、動かずその窓を見つめる。あれだけの瘴気が放たれる場所に、迂闊に近寄るわけにはいかない。
「閻魔の野郎、バッキャローーー!」
突然、窓から大声が発せられた。奮い立てものが揺れる。
その様は正に、睡蓮や加奈子が駄々をこねる時のそれだった。華蓮の警戒心が少しだけ緩む、と同時に窓から1人の女性が顔を出した。
「テメー!コノヤロー!どうしてくれんだよー!」
ピンク色のワンピースにカールしたロングヘア、何らかの花をモチーフにしたヘアピン。実に清楚なイメージの女性が凄まじい瘴気を放っている。そして人を見た目で判断するなと言うことはわかっているが、それにしたって見た目と口の悪さが合致しない。
女性の声に、再び建物がガタガタと揺れる。このままでは古いアパートが倒壊してしまいそうだ。止めた方がいいのか、それとも見なかったことにした方がいいのか。
「なっ……夏川先輩、なんかいますっ。やばそうな女の人がいますよ!」
「………桜、あれが見えるのか?」
「あ……あの人、幽霊なんですか!?」
「少なくとも、人間じゃない」
「え…僕、見えるようになったの?」
桜生は自らに問い掛けるように不思議そうにそう言い、自分の手を見つめた。
「……いや、多分そうじゃない。ここに来るまでにも何人かいたが、気付いてなかったろ」
「な、何人もいたんですかっ?こわっ」
幽霊なんてそこかしこにいるので、何人程度すれ違ったところでどうということではない。それにどれも無害の霊だったので、わざわざ言うことでもないと思っていたので口にはしていなかった。今の口ぶりからして、桜生がそれに気付いていなかったことは確かだ。
ということは、考えられる可能性は1つ。
「……世月と同じで、一度成仏してから戻って来たのか?」
死んだ人間は閻魔大王の所に行き、そこで天国か地獄かに行き先を決定されるという。もしもそれが本当だとするなら、女子大生が閻魔に怒り叫んでいたことも…まぁ、こじつけがましいが納得出来ないこともない。
天国だの地獄だのは信じがたい所もあるが、世月の件があるので一概に絵空事だとも言えない。きっと世月に問うていれば、分かっていたのだろうが。
「あ!そういうことか。…でもそれなら、夏川先輩に見えないはずじゃあ……?」
「……その辺りのことはよく分からないが」
桜生の問いに、華蓮は曖昧な言葉を返す。実際によく分からないのだからそう返すしかなく、もしかすると女子大生の霊に話しかければ或いは何か分かるのかもしれないが…それも憚られる。しかし、このまま放っておいては家屋が倒壊してしまうかもしれない。
佐藤といいこの霊といい、島の外の霊というのは…叫び声でポルターガイストを起こし近所迷惑を起こさないと気が済まないのか。半ば呆れつつどうしたものかと考えていると、女子大生の霊がふっとこちらを向いた。
「なんだテメーら!何見てんだよ!!」
「うわっ、こっち向いた」
キッと睨み付けられ、桜生がまたさっと背後に隠れる。
「ん?待てよ?テメーらあたしのことが見えてんのか!!」
「……そ、そうです!」
「まじかよ!!」
桜生がまた顔だけ覗かせて、女子大生の大声に対抗するように声を上げる。すると、女子大生が驚きの声を上げて近寄ってきた。
またしても、桜生は華蓮の背後に隠れる。
「え?…ん?んんん?…うわっ、えっ!?……ヘッド様じゃね!?」
近寄ってきた女子大生は、華蓮の顔を確認するなりあたふたとし始めた。
それを見た桜生は顔だけでたく体ごと背後から出て来て、華蓮の前に立ち目を見開く。そして華蓮を上から下まで見て、また目を見開いた。
「夏川先輩、顔隠してないんですか!?」
「いや」
「じゃあ、どうして……」
「分からない」
またしてもよく分からないずその通りの言葉を返す華蓮は、半ば投げやり気味だった。
近寄ってきた女子大生を見て、間違いなく霊であることは分かった。見た目も瘴気もどこにでもいそうな、闇落ち寸前の霊だ。しかしそれでいて桜生に見えたり、華蓮の顔が見えたりと、普通の霊とは違うこの女子大生の生体が全く掴めない。
「えっ!?マジでヘッド様!?」
「そうですよ!」
何故そこで桜が威張るのか。
そして先程まで背後に隠れていたのは何だったのか。
「……え?何?彼女?」
「違いますよ。僕は夏川先輩の恋人の弟で、只今浮気デート中ですっ」
だから何故威張るのか。
そしてその言葉は、華蓮と桜生の関係を知らない人物が聞くとまず間違いなくそのままの意味で捉えられる。案の定、女子大生は思い切り顔をしかめた。
「……ゲスいな」
「あっちが先にぼくの恋人と浮気したんですもん」
「……超絶ゲスいな」
桜生は深く考えずに発言しているのか、それとも分かっていて発言しているのか。秋生なら確実に前者だからひっ叩くところだが、桜生の場合はそうとも言い切れないしひっ叩くわけにもいかない。
突っ込もうかどうか考えた末に、華蓮は何も指摘しないことにした。幽霊のファンが減ったところで、入ってくる金額に何ら変化はないだろう。
「ところで、貴女はshoehornのファンなんですか?」
「え?今時shoehornのファンじゃねぇティーンエイジャーなんていんの?非国民?」
「あ、これガチ勢だ」
「まーあたし、本当はライト様推しだけど!ヘッド様に会ったって方があの世でも話題になんだろ!」
「あ、この人ヤバイ人だ」
桜生は渋い顔でこちらを振り返った。きっと華蓮も似たような顔をしているに違いない。
ライト様――つまり、双月ファンには気違いしかいないというまことしやかに囁かれていることが、2人の顔をそうさせている。双月ファンである春人は一見まともかに見えるため、所詮はやはり都市伝説かと思われていたが。簡単に銃を放つ人間はやはりまともではない。
都市伝説は事実と為りつつある。
「………あの世でってことは、未練はないのか?」
双月のファンだからといって怯んでいても仕方ない。
気を取り直して華蓮が問うと、女子大生は突然何かを思い出したようにキッと鋭い目付きになった。先程まで、窓から外に叫び散らしていた時の瘴気が浮き出てくる。
「未練はなかった!けど、閻魔のせいで未練が出来たんだよ!このくそったれ!!」
女子大生はそう声を上げてから「閻魔なんか死んじまえ」と捨て台詞を吐いた。
つまり閻魔大王は実在するという、深月が聞いたら喜びそうな事実が分かったわけだが。そこは今は気にするところではない。
「最初から詳しく説明しろ」
「……あれだな。ヘッド様って普段から超ヘッド様なんだな。なんつーか、ギャップ萌えはしねぇけど、想像通りで安心もするし何とも複ざ…」
「さっさと説明しろ」
睨み付けるが、女子大生はその視線に何の物怖じもせず「スマホがあればなぁ」としみじみと呟いた。
shoehornファンの幽霊を相手にすることは初めてだが、二度としたくないと心から思う。顔を隠す能力は強化しなければいけない。
「あたしは愛を遂げるために自殺した」
「…………出だしからライト様臭がすごい」
「黙って聞いてろ。それで?」
本当は華蓮も桜生と同じ事を思ったが、いちいち指摘していたら話が前に進まない。華蓮は顔をしかめる桜生を制止して、女子大生に話を促す。
女子大生は空を見上げると、どこか黄昏たように小さくため息を吐いた。
「あたしたちは死を以て結ばれるはずだった。2人で死ぬことであの世で一緒になり、永遠の愛の時間を過ごすはずだったんだ」
佐藤と同じ臭いを感じる。
このアパートはポエマーを呼び寄せる何かがあるのだろうか。
「けど、あたしたちに愛の試練が立ちはだかった!…結ばれるはずのあの人は、成仏せずにこっちに残ったってんだからな!!」
空からこちらに向かって叫び声をあげる。
耳にキンと響く声が不快だが、文句を言って話を止められても困る――まだ殆んど何も情報がないというこの状況では、尚のこと。
「だからあたしも戻って説得するっつってんのに、閻魔のくそ野郎!一度天に昇ったらそれは出来ないとか言いやがって!」
少しだけ話が前に進む。
何となく、閻魔への怒りが見えてきた。
「でも、そこら辺の審判待ちの霊たちに聞くところによれば?数年前に、一度天国に行った奴で閻魔を蹴り飛ばして無理矢理こっちに戻った奴がいるっつーじゃねぇか!!」
桜生と顔を合わせて苦笑いを浮かべた。
閻魔を蹴り飛ばして無理矢理戻ってくるような常識外の霊。すぐに顔が思い浮かぶ。
「それなのに何であたしはダメなんだよ?まだ審判受ける前なんだから、それこそオッケーだろ!バッカじゃねぇの!?」
そしてもう1つ見えてきた。それは世月が桜生や春人にしか見えず、この女子大生がその2人だけでなく華蓮にも見える理由だ。世月は審判を受けて既に天国に行ったため、神聖なものとして存在していることから華蓮たちには見えない。しかしこの女子大生は成仏こそして昇ったもののまだ行き先が決まっておらず宙ぶらりんの状態――どっちつかずのため、どちらにも見える。あくまで推測の域を出ないが、もうその解釈でいいだろうと華蓮は勝手にそう決めつけることにした。
とまぁ、疑問が解決したのはいいとして。怒り狂っている女子大生の話に戻ろう。
「……でも結局、無理矢理降りてきたんですよね?…まさか、蹴り飛ばしたんですか?」
「それは本気で考えたが。けど、あたしが喚き散らしてるのを聞いた動かずの女鬼が、閻魔と役立たずの働き鬼の目を盗んで降ろしてくれたんだ」
「動かずの女鬼?」
桜生が首をかしげる。
地獄でははやり鬼が働いているのかとか、それを役立たずと吐き捨てるのはいかがなものかとか。色々と思うところはあるが、華蓮が最も気になったのも桜生が聞き返したその言葉だった。
「って、働き鬼達からは呼ばれててよ。鬼にしては珍しく天国行きが決まってんのに、誰かを待ってるからって審判の待合室から動かないんだと」
「はぁ、そうなんですか。何て言うか…上の世界?…って、結構緩いんですね」
「最初から好きにさせてたわげしゃない…って、鬼たちは言い訳してたけど。何でも鬼だけに鬼強くて、他の鬼たちが総出で相手しても一捻り、あの手このてで逃げ回って閻魔すらも捕まえられず、結局10年くらい前に働き鬼も閻魔も諦めたんだと。な?役立たずの集まりだろ」
それは閻魔及び働き鬼たちが役立たずなのか。それともその女鬼とやらがバカ強いのか。世月に蹴り飛ばされる位だから前者のような気もするし、もしかしたら両方なのかもしれないし。
何にしても、華蓮の中に漠然とあった閻魔のイメージが大きく変わったことは確かだ。
「でも…そんな、成仏した人を降ろすとか出来るんですね」
「こっちとの繋がりがあるからってさ。例の脱走した天使も繋がりがあったから出来た…って言ってた。そんであたしは、その女鬼――名前は薺(なずな)って言ってたけっけ?雑魚鬼共が雑草だって揶揄してたな。…まぁとにかく、その繋がりを借りて降りてきたってわけよ」
その薺という女鬼がこの世にどんな繋がりを持っていたかは定かではない。しかしきっと世月の場合は、その繋がりは臓器を移植した相手である李月だったのだろう。
ここまでで何となく状況は読めてきた。そして、この女子大生がなぜ喚き散らしていたのかも…想像できてきた。
「それで…せっかく降りてきたはいいが、お目当ての相手は既にその場にいなかったと」
「勘が鋭いな!流石ヘッド様!」
さて、ここまで分かるともう全貌が見えてくる。
死んでから一緒になるということは、その相手も死んでいるということ。先程の「2人で死ぬことで」という言い回しからその相手が既に死んでいたわけではないということ…というよりも、同時に死んだと解釈できること。しかし、女子大生の自殺した部屋にいたのは女子大生だけということ。そして、その相手は未だに成仏しておらず、あまつさえその場所に留まっていないということ。
全てを踏まえて、全てが一致することがある。
「つまりお前は、わざと隣の部屋に一酸化炭素を流し……佐藤共々死んだということだな」
「え!?」
華蓮の言葉を聞いて、桜生が驚愕の声を上げる。
そして次の瞬間。
「あたしの運命の相手のこと知ってんのか!?」
女子大生も驚愕の声をあげた。
これ以上に灯台もと暗しという言葉が合うシチュエーションがあるだろうか。華蓮はそんなことを考えながら、スマホを取り出して李月に電話を繋いだ。
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mokuji
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