Long story


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「ただいま帰還致しました」

 桜生を先頭に秋生と、なぜかどっと疲れた様子の春人が最後に室内に入ってきた。もしかするとその後ろに世月がいたのかもしれないが、華蓮には見えない。

「春人君どうしたの?アウェイの気疲れ?」
「……世も末とはこのことです」
「へ?」

 春人はなだれ込むようにいつもの定位置に座ると机に突っ伏し、桜生と秋生もやはり定位置に腰を落ち着かせる。
 侑が首を傾げて秋生と桜生に視線を向けると、2人は苦笑いを浮かべた。

「むしろアウェイは僕たちの方っていうか……兄さんの家にいたのが、春くんの一番上のお兄さん…まぁつまりあのイケメン国会議員さんだったんです」
「うっそ、まじ?」
「……世月さんが私の顔ではしたない言葉使うなって言ってますよ」

 桜生の言葉を聞いて双月が双月の声で驚きを発すると、春人が顔をあげてそう指摘をしてからまた顔を伏せた。やはり世月もいるらしい。
 双月が「ああ、ごめんなさい」と言葉遣いを戻すと、桜生が再び口を開く。

「まぁそれで…春くんのお兄さんということは世月さんが見えるわけですよね。でも、今までは一応…兄さんが隠してたので、家で見かけても見えないふりをしていたそうです」
「世月さんは世月さんで…兄貴の家に来る知人程度にしか思っていなくて、それが兄貴の恋人だとも、もちろん春人のお兄さんとも知らず……でも、この間僕たちに春人が教えてくれた時に気付いたそうです」

 きっと、双月が母に会いに家に帰った日のことだろう。あの日は色々と騒々しく、そして色々と頭の中で考えることも多い日だった。そして、あの日に見聞きした話の中で、華蓮の頭の中で未だ解決していないこともある。考えることばかりが増えていく。
 しかし今はそれを考えるよりも、目の前の話を聞く方が先だ。

「つまりお2人は今日初めてちゃんと話をしたそうなんですが。どうやら、似たタイプ…というかなんというか。とりあえず、恋人探しが落ち着いた辺りから話を始めて…それなりに意気投合してた……ざっくり言うと、一緒に春くんをいじめてました」

 最後になって桜生が雑な締めくくりをすると、突っ伏している春人に気の毒そうな視線が集まった。
 この間、母と長男に質問攻めにされたと嘆いていたばかりだというのに。向けられている視線の通り、気の毒と言う以外に言葉はない。

「……まぁ…議員の話はまた今度聞くとしましょう。恋人候補の方はどうだったの?」

 双月は一度春人に目を向けて、すぐに桜生と秋生に視線を戻した。春人の兄のことは気になるのだろうが、疲れはてて机に突っ伏している春人に配慮してのことのなのだろう。

「言い訳はしません。総勢19人の女性に大敗でした」

 秋生が頭を下げる。別に謝ることではないのだが、最初に引き受けた手前色々と思うところが…というより、巻き込んだ周囲への無駄に申し訳なさを感じているのだろう。
 今でこそ手伝っている華蓮だが。隣でしゅんとしている秋生を見ていると、最初に「手伝わない」と切り捨てたことを少しだけ後悔しそうだった。

「やっぱり、現代人にあのポエムはハードル高いのかしら…」
「序盤のまだ見ぬ愛しの君で一度引いて、ブラックホール辺りで完全にドン引きですね。19人もいれば平気な人が1人くらいいてもいいもんですけど…」

 秋生の言うとおり、双月が伝道師と行動を共にしても比較的平気なように、同じような霊がいても不思議ではない。しかしいなかっったということは、こればっかりは運がなかったと言うしかない。
 もしかすると、この伝道師は恋人が出来ない運命の元に生まれてきたのかもしれない。

「……仕方がないので、明日は学校を休んで島の外に出てきます。こうなったら手当たり次第に探す他ないですし、ひとつだけ当てがあるので」
「仕方がないって…秋生くん、この伝道師と一緒にいたら死んじゃうよ?」

 侑が指差す伝道師は、曇った窓にポルターガイストで詩を書き連ねていた。先程から机を叩いて部屋を揺らしたことも含め、一端の霊のくせにポルターガイストの能力が高い。そんなこと、この男の求めるものを探す上では何の役にも立たないが。
 秋生は伝道師の方を見て何かを思い出したのか一度身震いしてから、どこか意を決したように拳を握った。

「会話は全部良狐に任せてシャットアウトします。どうも妖怪は、ああいうのが平気みたいなので」
「…シャットアウトとか出来るの?」
「気合いで」
「ああ、具体的な方法があるわけじゃないんだ」

 ちらりと、侑の視線がこちらを向く。
 言葉はなくとも言いたいことは分かるし、言われずとも華蓮もそのつもりだった。

「俺も行く」
「え…でも……」
「ひとつだけ当てがあるってのは何だ?」

 でも自分が引き受けたからとか、申し訳ないとか、そういう言葉は出てくる前にそれこそシャットアウトだ。
 歯切れ悪く開かれた口から出る言葉を遮って、問う。すると秋生はどこか観念したような表情を浮かべて再び口を開いた。

「島の外に、ちょっと町外れになるんですけど…大きめの教会があるみたいで」

 秋生はスマホを取りだし、マップを開く。
 島の外にある町中を少し離れたところ、マップの中がまっさらに近い状態の場所に教会のマークが表示されていた。

「ここにも霊が集まってて、外国人の霊も多いらしいんです」
「なるほど、外国人か…」

 海外ドラマなどを見ていれば分かるが。
 外国人は日本人に比べて、その思いを率直に口にしているイメージがある。つまり、佐藤のポエムを耳にしても嫌悪感を抱かず、あわよくば交換を抱かれる可能性も十分にあり得るということだ。

「教会って…何だか神聖な感じがするけど、霊とかいるものなの?」
「どうかしら…教会なんて行ったことないもの、分からないわ。…深月は行ったことある?」
「ねぇな。仮に行ったことがあっても、俺には見えてるか定かじゃねぇし」
「忘れがちだけど、華蓮の家はお寺だし…李月は旅すがら寄ったことないの?」
「ないな。…何となく、寺とか神社よりも近寄りがたくないか?」

 李月の言葉に、その他3人がうんうんと頷いた。それは華蓮も同じで、別に教会に悪いイメージを持っているわけでも、拒絶反応があるわけでもない。李月の言葉通りただ何となく、近寄りがたい。
 だから華蓮も同じように、教会がどのようになっているのか知らないばかりか、皆目検討もつかない。

「春くんのお兄さんが言ってたことなので、間違いはないと思いますよ。誰でも出入り出来る場所なので、突然行っても大丈夫だろうって」
「てことで、明日は島の外に行くからな。俺が死なないように、言いたいことは今日中に壁にでも話しとけよ!」
「外国人か…最低でも三か国語の恋文を嗜めなければいけないな……」

 声を大きくして強めの主張をする秋生の言葉など聞こえていないように、佐藤は腕組みをして考え込み始めた。
 また新たな恋文の予告を耳に、秋生は顔をひきつらせている。これが明日までの苦労に終わればいいと、今は願うしかない。



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