Long story


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 平和が。
 平和が刻一刻と過ぎていく。

 あれから、平和は何度となく乱された。
 世月に扮してやってきた双月は普通に華蓮を「かーくん」と呼び、これじゃダメだと言い残して立ち去り。侑はどうしてか室内ライブを始めた上で躍り出し、一曲踊りきってやりきった感を出して出て行った後に「そのまま帰っちゃった!」とわざわざ言い戻った後立ち去り。深月に至ってはやっと64を買う決意をしたのに手にしていたのは何故かSwitchで、またしても落胆して立ち去り。
 その後もリトライは7度目、8度目、9度目…14度目以降は数えるのをやめたが。
 とにかく、人が平和を口にしようとする度にそれをさすまいと邪魔が入る。それでもその合間を縫ってもう何度となく口にしたが、だからどうというのだ。

 夕方になった今も、平和が乱される脅威は去っていない。

「何それ、ちょー面白そうなことになってんね〜」

 1時間ほど前に実家から帰ってきた春人は、夕飯を作る秋生から今日の出来事を聞いてくすくすと笑った。
 桜生はゲームを終え秋生の手伝いに回り、今は春人より更に1時間ほど早く帰ってきていた睡蓮が華蓮とゲームを楽しんでいる。

「俺的にはもっと、しつこく言って鬱陶しがられる方だと思ってたんだけど」
「あー、それめっちゃ想像できる」

 確かに、その光景は容易に想像することが出来る。
 もっとスムーズに一発目が決まっていれば、きっとそうなっていたのだろう。しかし、まともに一発目も決められない今となっては、それも遠い先のことのように感じる。

「いつくん、どうにかしてあげたら?」

 大量のじゃがいもを潰している桜生が顔を上げる。
 桜生の馬鹿力が発見されて以来、料理で体力が必要な仕事は桜生が任せられることが多くなっているようだった。

「どうにかって…俺にどうしろってんだよ」
「どうにでも出来るくせに」

 出来たらとっくにやっている。
 いや、そうじゃない。
 出来るには出来るかもしれないが…そうしない理由がある。

「そうは言うが、当の本人が楽しんでるんだから俺が水を差すことじゃないだろ」

 いくら何でも、あんなあからさまな態度を何度も繰り返されて気が付かない訳がない。それどころか、もしかしたら最初から気が付いていてもおかしくはない。
 それなのに何のアクションも起こさない。

「え、華蓮気付いてたの?」
「何が?」

 こちらの会話を耳にしていたらしい睡蓮が問うと、華蓮は冷めた様子で問い返す。

「何がって…あの3人のこと」
「さぁ、俺は何も知らない」

 華蓮が微かに笑う様を見て「確信犯だ…」と秋生が呟いた。
 その通り。全て分かっていて、自分の手のひらで踊らせているのだ――1人は文字通り踊っていたが。

「夏川先輩、いつくんみたいに性格悪いですね」
「あんなのと一緒にするな」

 華蓮と桜生の会話は、数時間前に秋生と交わしたものと似たり寄ったりでデジャヴを感じる。
 一緒にされたくないのはこちらの方だと言いたいが、そんなことで喧嘩をして自ら平和を乱すような真似はしない。

「ねぇ、いつくん」
「…そんなに深刻そうな顔をしなくても、そのうちどうにかなる」

 そう、事はそれほど深刻な話じゃない。
 今はまだ、日常を非日常のように感じているだけだ。放っておいても、そのうち日常だと…本人たちが気付かないうちに、そうなる時が来る。
 それが、いつのことになるかは別にして。

「そのうちって…じゃあ、ずっと放っとくの?」
「俺は何も知らない」
「あくまでそのスタンスなんだ」

 睡蓮の問いに華蓮は素っ気なく答えた。つまり、自分からアクションを起こすつもりはないということだろう。
 本人がその気ならば、やはり李月が何をすることもない。

「じゃあ、いつくんが手助けするのはオッケーってことです?」
「何度も言わせるな」
「夏川先輩は何も知らない…つまりオッケーってことですね」

 華蓮は何も答えない。
 そして、桜生の視線がこちらに向く。

「何で俺が手助けなんか…」
「李月さん」
「何だ」
「これも平和のためですよ」

 秋生の言葉に、反論の余地はなかった。
 つまり結局のところ、本当の平和を手にしたければ皆が平和だと思えるようにしなければならないということだ。



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