Long story


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 今回の作戦の結果は、ほぼ最悪と言っていいだろう。
 本来の目的である自分のいない皆の姿を見ると言う点に関しては少し垣間見ただけで、それも普段と何ら変わらない様子で何の収穫もなかった。
 醍醐味としていた秋生と桜生のミスコンだったかは、華蓮の指示で家に強制送還されたため観ることが叶わず。しかし、家に巨大な白縁テレビがやってきたことと、夕食がどこの結婚式だというほどに豪華だったことから結果はまずまずだったのだろう。
 そして食事が終えるとそれを待っていたかのように…思い出したくもないほどのキツい説教タイムだった。もう本当に疲れた。久々に泣きそうだった。
 それほど華蓮を怒らせたのに納屋行きを免れたのは、加奈子と鈴々が庇ってくれたことと、李月が華蓮を宥めてくれたからだ。前に李月がここに住んでいた時も、こういう時はいつも間に入ってくれて納屋行きを免れたことが何度もある。だから、李月がいなくなってからは納屋に行く確率が格段に増えていたことを思い出した。
 どうにか納屋行きを免れて、その後でこっそり秋生に手長足長擬きを倒した…のかどうかは定かじゃないが、それに立ち向かったことを誉められた。それから「先輩には内緒だぞ」と言ってプリンもくれた。
 今日が完全に最悪ではないと思ったのは、鈴々と分けあったそのプリンがびっくりするほど美味しかったことと。
 きっといつか会える母に会えたとこと。
 そして、また会えるかも分からない綺麗な青色に会えたとことがあったからだ。


「あれ、まだ起きてたのか」

 リビングの扉が開き、見ているのかいないのか分からなかったテレビ画面から視線を移すと、秋生が欠伸を噛み殺しながら入ってくるところだった。

「秋兄こそ、今日は疲れたから早く寝るんじゃなかったの?」

 時刻は午後11時半。
 いつもは誰かしらが…少なくとも李月は起きている時間なのに、睡蓮が寝られなくて顔を出した11時の時点でもう誰もいなかった。
 勿論、睡蓮がこんな時間に起きてきたのはそれが分かっていたからで…侑は文化祭ではしゃぎすぎて疲れたと早々に脱落。次に深月と双月も迷子の子供相手に疲れたと脱落。春人と桜生は粘ってゲームをしていたが、揃ってうとうとし始めたところで秋生に促され脱落となった。
 睡蓮が説教をされている間に順々にいなくなって…最後に残った李月と華蓮も、よほど疲れていたのか睡蓮への説教を終えると草々に寝てしまった。そしてこっそり戻ってきた秋生も睡蓮にプリンをくれた後、やはり疲れたからと間もなく床についた。
 そのため睡蓮はひとりでソファに座りテレビを付けて、今日の失態について振り替えっていたのだ。

「寝られないから起きてきた」
「今日も宴会?」
「先に寝てたら大丈夫なんだけど、始まってから寝るのはちょっとうるさすぎるんだよな」

 きっと、一足早く床に着いた桜生は宴会が始まる前に夢の中にいたから大丈夫なのだろう。そして秋生が桜生より遅く寝ることになってしまったのは、睡蓮が叱られた後に慰めるために待ってくれていたからだ。
 鈴々からの連絡があってから急いで帰るため、近道である墓地を通ったらそこにいた霊たちの引く手あまたとなり…害のない霊だけだなく有害なものまで呼び寄せてしまいあわや大惨事となって、やむを得ず深月にヘルプをすることになったというのは……強制的に家に帰らされた際に見張り役で家まで付いてきた秋生本人から教えてもらったことだ。
 華蓮と李月がいて尚も手こずる相手に絡まれるなんて(それも大量に)相当疲れているはずなのに、何だか申し訳なくなってしまう。

「僕のせいだね。ごめんね」
「別にそんなこと思ってないよ」

 秋生はそう言うとキッチンに向かい、冷蔵庫から何やら食材を取り出し始めた。
 最近の休日はデザートばかり作っているのに、いつも何かしらの作り起きがあることを疑問に思っていた睡蓮だったが。いつもこうして夜中に作っているのかと驚くと同時に、主婦の鑑だなと尊敬してしまう。

「何か手伝う?」
「大したもん作らないからいいよ。…そういえば、加奈子は?」
「僕の部屋で寝てる」

 説教タイムの間はずっと一緒に隣で正座をしていて、終わってからも落ち込みモードのまま何となく一緒に寝た。
 ちなみに、鈴々も一緒に正座をして(ぬいぐるみが正座をしている様は実にシュールだった)最後まで説教に付き合ってくれた。その後は姿を消してしまったので、今は宴会に参加しているのかもしれない。

「桜生が霊体の時にも思ったけど、幽霊が寝るってどうもピンとこないんだよな」
「確かに。でもね、昼間もすっごいことが沢山起こったのに、寝ててほとんど覚えてないって言うんだよ」

 廊下で手長と対峙していたときに加奈子があまり口を開かなかったのは、空気を読んでいたわけではなく唐突に眠くなって寝ていたかららしい。
 それを聞いた時には呆れるどころか、よくもまぁあんな状況で寝られるものだと感心してしまった。

「凄いことって…どんな?」
「たぬくんの力で……昔のお母さんに会ったんだ」
「………昔の…お母さん?」
「うん」

 首を傾げる秋生に、睡蓮は鈴々が記憶を具現化する力を持っていることを説明した。
 その力で自分の母が具現化され、少しだけ話をしたこと。それは決して本人ではないが…限りなく本人に近い存在で、睡蓮にとっては紛れもなく母であったこと。


「……僕のことを、愛してくれるって」


 そう、言ってくれたこと。

 今でもはっきりと思い出せる。
 初めて見た顔、初めて聞いた声。全部覚えている。
 きっと、ずっと忘れないだろう。


「これまで、お母さんに会いたいなんて思わなかったのに…今はすごく会いたいんだ」


 この気持ちは。
 とても寂しくもあり、そしてとても嬉しくもある。
 これまでは華蓮や他の皆で満足していた気持ちがそうではなくなったことで感じる寂しさと、今までにないほどに母の存在を身近に感じるからこそ満足出来なくなったのだということへの嬉しさと。
 それはとても複雑な感情で、この感情を持つことがいいことなのか悪いことなのか…よく分からない。


「よかったな」

 いいことなのか悪いことなのかと考えていると、いつの間にか隣に来ていた秋生がそう言って睡蓮の頭を撫でた。

「……いいこと、なの?」
「そりゃだって…今までは他人みたいに思ってたのが、今は家族だと思ってるってことだろ?いいことじゃん」

 そう言われると、確かにその通りだった。
 これまで自分にとっての家族は華蓮や今いるみんなだったが…今は。
 かつての母に会ったあの時から、今はまだ会ったことのない両親のことも、家族だと感じている。

「……だから、会いたいの?」
「家族にはいつも近くにいて欲しいもんだよ。こればっかりは誰より俺が断言できる」

 何年も家族と離れて過ごしてきた秋生は、きっと誰よりもそれを感じてきたのだろう。
 本人も断言できると言っているように、その言葉には説得力があった。


「いつか…会えるかな?」
「会えるよ」

 睡蓮の問いに、秋生は即答する。
 その言葉に根拠があるのかは分からないが、力強い言葉にはやはり説得力があった。
 だから、きっと会えるではなく絶対に会えるのだろうと…そう、思った。



「あの人にも、会えるかな?」

 会いたいと思う人物は、家族だけではない。
 唐突に思い浮かんだあの青色もまた、またいつか会いたい人だ。


「会えるよ」

 秋生はまたしても、即答だった。


「誰のことだか分かってる?」
「全然。でも大丈夫、絶対に会えるよ」

 誰のことかも分からないというのに、どうしてそこまで自信満々に言えるのか。
 その自信の根元はさっぱり分からなかったが、秋生がそう言うのならきっと会えるのだろうと。
 そんな、確信のようなものを感じた。



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