Long story


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「すいません、うちの弟が迷惑かけて 」
「それは全然いいけ…え?弟?」
「はい、弟です」
「今時の男の子って、可愛い服を着るのね……」
「いや、完全に少女仕様です。あんまり可愛いもんだからつい可愛くしたくなるんですよ〜」

 保護者の身勝手でなんてことを。と思うが、本人が嫌でないのならそれでもいいのかと思わなくもない。
 しかし、メイド服の男子高校生に抱っこされた少女仕様の男の子なんて、なんともカオス過ぎる。

「それはそうと、この子1人で来たわけじゃないだろ?探してるんじゃないのか?」

 確かに、深月の言うとおりだ。

「あ、それならさっき電話しときました。上の弟たちがそのうち迎えに来ると思うので…それまではうちのクラスに一緒にいます」

 そう言えば、以前春人は大家族だと聞いたことがある。
 どんな家族構成だったかは忘れたが、春人は兄弟の真ん中辺りだったように思う。

「春人と一緒に行くの?」
「そうだよ。もういなくなっちゃダメだからね」

 ガチャリ。
 予想だにしない光景に一瞬目を疑ったが、目を擦ってもそれは同じだった。春人は弟に手錠をかけ、その片方を自分の手首にもかけている。

「ちょっと春くん…物騒ね」
「この子こうしとかないとすぐ消えちゃうんですよ。手を繋いでてもするっとどっか行っちゃって……これも麒麟の影響ですかね?」
「……そうなの?」
「麒麟に脱出スキルなんて聞いたことないよ。まぁ神獣だし、何が出来ても不思議じゃないか……」

 双月に視線を向けられた八都は、腕組みをしてそう答えていた。
 亞希と良狐も反論しないことから、その返答に異論はないということなのだろう。


「しゅーせー!」

 迷子問題が一段落したと思ったら、廊下の奥から別のメイドが走ってくるのが目に入る。
 秋生はともかく桜生にはもしかすると気づかれてしまってはいけないと、睡蓮たちは反対側の廊下の角に移動して顔を覗かせた。 

「大声で叫ぶなよ…どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもありません!」

 廊下では同じ顔が和装と洋装という対極の服装で顔を見合わせていた。
 これがまた画になるといえばなるし、カオスと言えばカオスだ。

「落ち着けよ。てか…稼ぎ頭が2人とも出てきて大丈夫なのか?」
「だから、それがどうしたもこうしたもないことなの!」

 桜生は声を挙げながら、秋生が座っている受付の机をバンっと叩く。迫力こそあったが思いの外強く叩きすぎたようで、すぐに両手を振りながら顔をしかめた。

「だから落ち着けって。何かあったのか?」
「逆だよ、逆。何もなくなっちゃった」

 冷まして痛みが引くわけでもあるまいに、桜生はふーふーと両手に息を吹き掛けながら秋生の問いに答える。
 秋生が意味を理解できず「は?」と首を傾げる心情には睡蓮も同感だ。桜生の言っている言葉の意味がわからない。

「準備してた分が全部売れちゃって、もう何も出すものがなくなっちゃったの!」
「マジかよ」

 それは準備が足りなかったのか、それとも人気が凄まじすぎてのことなのか。
 先ほど見たときのあの賑わいから察するに、後者の方が可能性は高い。

「だからちょっと買い出し手伝って。沢山買ってこなきゃ」
「別にいいけど…2人で?」
「は〜い。この子引き渡したら俺も行く〜」

 春人は抱えている弟の手を掴んで挙手をさせる。
 させられている方は意味が理解できずに首を傾げているが、それがまた男の子だとは信じられないほどに可愛い。

「それなら李月と夏も連れてけば?ここは俺と双月でどうにかなるし」
「そうね。そうそう迷子も来ないでしょうし」
「本当ですか?ありがとうございます!」

 華蓮と李月がイエスの返事をする前に桜生が礼を述べてしまったせいで、行かざるを得ない雰囲気になったようだ。
 これが天然なのか狙ってなのかは定かではないが、もしも狙ってのことなら桜生は中々の策士だ。

「2人とも…その格好で行くのか?」

 秋生が聞くと、桜生と春人は声を揃えて「あ」と言う。
 確かに秋生の浴衣はともかく、さすがにメイド服で出歩くと悪目立ちが過ぎる。

「…浴衣にでも着替える?」
「そうだね。浴衣なら大丈夫でしょ」

 3人が3人とも浴衣となるとそれはそれで目立ちそうだが。それでもメイド服よりはマシだろう。
 春人と桜生は秋生たちにその場で待つように伝え、浴衣に着替えるために一度立ち去った。

「僕たちも次に行こうか?」
「どこに行くの?」
「グラウンドの方に行けばきっと何かあるよ」

 先ほど華蓮が綿菓子がそちらの方にあると言ってたいたので、きっと他の出店もあるだろう。
 ずっと覗き見をしてばかりではなく、そろそろ普通に文化祭を楽しむべく睡蓮たちもその場を立ち去った。


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