Long story
あの室内での静かさが嘘だったかのように、外は嵐のようなお祭り騒ぎだった。
しかし、嵐のように騒いでいるその大半は深月が呼び出した妖怪たちで――天狗ぬらりひょん側の妖怪経ちはもう虫の息といった様子だ。
「おかえり。どうだった?」
「うーん…謎」
「謎?」
「後から話すよ」
桜生に返す秋生を横目に、華蓮はその近くに李月がいなくなっていることを不思議に思い辺りを見回した。
しかし、やはり近くには見当たらない。
「桜、李月はどうした?」
「それが…色々あって、今はあそこに」
桜生は少しだけ表情をひきつらせて、嵐の中を指差した。
すると、巨大な妖怪を相手に李月の蛇たちが噛みついている様が見え…次の瞬間に噛みつかれている腕の一本がスパンと切り落とされた。
「…巻き込まれたのか」
「一都くんが飛び出して行って、他の皆も後に続いて……仕方なくというか…なんというか」
「すっごい怒ってましたよ。その苛立ちを妖怪にぶつけてるって感じですね」
桜生の後ろから春人が顔を出す。
その説明は実にしっくりくるもので、再び李月の方に視線を向けるともう一本の腕が切り落とされる所だった。
「8匹が8匹とも好き勝手だな…」
華蓮は一瞬、もしも亞希が8人いたらと想像してゾッとした。
とてもじゃないが、正気を保っている自信がない。
「僕を同じ土俵に立たせないで。ていうか、一都が調子に乗るから皆くっついてくだけ」
桜生の首にしゅるしゅると蛇が巻き付いていく。
蛇の姿だとどの蛇なのか見た目では全く分からないが、口ぶりから察するに八都で間違いないだろう。
「だからやっくんが必要なのに、全然出てこないから…って、いつくん文句言ってたよ」
「……知らないよ、そんなこと」
そう言うと、八都はふっと消えてしまった。
八都が桜生にまで素っ気ないことは珍しいが、まだ思い悩んでいることでもあるのだろう。
「おい!!」
突如叫ぶような声がし、華蓮だけでなくその場にいた全員のそちらに視線が向く。
すると、巨大な妖怪に巻き付いている巨大な蛇が視線だけこちらに向けけていた。
「7匹だと思うようにいかねぇんだ!手伝ってくれよ!」
その言葉遣いから、その蛇が一都だということが分かる。その体は先程李月が切り落としたはずの腕に捕まれていて、引き剥がされてしまいそうだ。
その足元には他の蛇たちが足に噛みついて動きを止めているようだが、こちらも今にも蹴り飛ばされてしまいそうになっている。
「いいねぇ。楽しそうじゃないか」
亞希が楽しそうに笑う。
その表情を前に悪い予感が…いや、これは予感ではなく確信だ。
「ひーちゃんも一緒に行かぬか?」
「やれやれ…仕方ないねぇ」
良狐が人の姿になりながら問うと、飛縁魔は面倒臭そうに呟いた。
しかし、立ち上がったその顔にはどこかわくわくしているようだ。なんだかんだいっても、祭りに加わりたいのかもしれない。
「おい、行くぞ」
「知るか。勝手にしろ」
「いいのか?俺に本体で出させて」
また傷だらけになってそれが影響してももいいのか、ということらしい。
そんなの、いいわけないに決まっている。
「…ったく、忌々しい」
華蓮がバットを手にすると、亞希はしてやったりという顔を浮かべて一足早く地を蹴った。
この分だと、李月と同様に苛立ちを妖怪にぶつけることになりそうだ。
「八都、秋生も頼むの」
「はーい」
姿を見せない八都が声だけで返事をすると、良狐と飛縁魔が同時に飛び立つ。
良狐が傷付けば秋生がこの間の華蓮のような目に合うことになるのだが、亞希とは違い秋生のことを気遣っている良狐ならばそんなことはしないだろう。
「…気を付けてくださいね」
「ああ。何かあったら双月を盾にしろよ」
少し心配そうな表情を浮かべる秋生にそう言うと、春人の後ろに構えてた双月が「ふざけないでよ」と顔をしかめる。
その言葉を無視し体の向きを変える最中、ふと先程までいた教室が目に入り――窓から子供が覗いているように見えた。しかしそれも一瞬のことで、この騒ぎの中で舞う砂埃の中で見間違えただけだろうと思い…そのまま嵐の中に足を踏み出した。
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mokuji
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