Long story


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「――せい 、秋生!」
「―――!!」

 自分の名が聞こえた瞬間、一気に現実に引き戻されるような感覚だった。
 ハッとしたように目を開くとそこには自分を覗き込む華蓮の姿があり、支えられながらゆっくりと身体を起こす。

「大丈夫か?」
「…どう…したんでしたっけ?」

 見渡すと、廃れた部屋の中に朽ちた机や椅子がいくつか転がっているのが目に入った。
 そういえば、何かの気配を感じてここまでやって来たのだということを思い出す。

「分からない。いつの間にか気を失っていたらしい」
「……何も…思い出せないです」
「ああ、俺もだ」
「先輩も…」

 ここに入ってくるまでのことは覚えているのに、ここに入ってからのことが何も思い出せない。
 短い夢を見ていたような気がするが、それがどんな夢だったのかもまるで思い出すことが出来ない。

「またバチバチなったりしないですよね?」
「今の所はな」

 秋生を支えている華蓮は、特に苦痛に表情を歪めているわけでもない。
 またあんな目に逢うのは御免なので、そうではないことに安堵するが…しかし、それでも不気味な感じがぬぐえない。

「変な感じ……」
「もう気配は感じないのか?」
「……はい。何も」

 立ち上がりながら、辺りを見回す。
 不気味な感じはするが、変な気配を感じる訳ではない。
 更に不思議なことに、とても不気味に思いつつもどうしてかそれを悪いようには感じられないということだ。

「……ここは、昔の新聞部だったみたいだな」

 同じように辺りを見渡した華蓮が、埃を被った本棚から何かを取り出して呟いた。
 冊子のようにまとめられているそれは、昔の新聞部が製作した学校新聞をまとめたもののようだ。背表紙に年号と番号が振られているようだが、朽ちてしまっているせいか年号の部分は読み取れない。

「七不思議…いかにもって感じですね」
「ああ」

 華蓮が何気なく捲って開いた記事には「実録!大鳥高校七不思議!」とでかでかと見出しが書かれていた。
 どうやらこれは新聞の原盤のようで、見出しは別に用意した文字を切り貼りしたようになっている。そして、それに続く文字も鉛筆で下書きしたものをマジックでなぞっているようになっていた。
 読み進めていくと、七不思議が一つずつ挙げられているわけだが…やはり所々が朽ちていて読み取れない場所がある。

「理科室の動く…骸骨ですかね?…番目のトイレは…花子さん?夜中に鳴り出す…何でしょう?ピアノとか?」

 それぞれの項目もそれに対する説明文も、どれもこれも中途半端に朽ちていてまともに読めるものがない。
 しかしそのどれもがよくありそうなものであるため、説明文がなくとも何となく想像することは出来た。

「あ、これは読めますね。幻の3年1組」

 どれもありがちな七不思議の中で、ひとつだけあまり聞き覚えのないような内容だった。
 しかし、唯一内容が想像できないその項目には、何の説明文もない。それどころか、それ以下は白紙だった。

「続きがないな」
「完成しなかったんですかね?」
「みたいだな。もしかすると…鉛筆で下書きはしてあったが、日が経ち過ぎで消えたのかもしれないな」
「なるほど…」

 そういわれてみれば、何も書いていないにしては紙自体がなんとなく汚れいるようにも見える。
 どちらにしても、この新聞が学校内で掲示されることはなかったということだろう。

「……戻るか」
「……はい」

 それ以上話題が広がることもなく。
 今だ外で繰り広げられているだろう妖怪大戦争に向かうべく、華蓮は手にしていた冊子を元の棚に戻した。
 その歳に、裏に「R.N/S.O」と書かれてあるのが目に入ったが…秋生はさしてそれを気にすることなく、入り口に向かって踵を返した華蓮の後に続いた。


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