Long story


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 部室に華蓮と深月になってから、2人はそれぞれしたいことをしていた。華蓮はゲームをし、深月は新聞を読んでいた。この空間に気まずさなどはない。長い付き合いだから、別に気を遣って話をすることもないからだ。

「2人へのご褒美って言ったけど、性格には秋へのご褒美だな」

 秋生たちが返ってくるまでずっと沈黙していると思っていたが、唐突に深月が沈黙を破った。華蓮はゲームをする手を止めて深月に視線を寄越す。

「……何が言いたい?」
「お前本当に秋には甘いよなって、言ってんの」

 華蓮は答えない。深月はそれを予測していたかのように、言葉を続ける。

「本人が全く気付かない鈍感でいいのか悪いのか」
「悪いに決まっているだろう。秋生の危機感のなさは悪しき才能だ」

 昨日も春人相手に同じような話をした。同じ話を何度もすることが好きではない華蓮は機嫌が悪くなっていく。春人とは違い、深月がどこか面白がっているような表情を浮かべているものだから、余計に気分を害す。

「だから放っとけない?」
「回りくどい奴だな。言いたいことがあるならはっきりと言え」
「単に危機感ないから放っておけないってわけじゃないだろう。お前が秋生を無視できないのは、他に理由があるんだろうってこと」
「……どういう意味だ」

 問うと、深月の表情が面白がっていた表情から急に真剣になそれになった。

「気づいてるくせに、認めたくないのか」

 華蓮は答えない。答えたくないというのが正しいのかもしれない。



「秋生は、“カレン”にそっくりだ」

 深月の目を見ることが出来なくて、華蓮は視線を逸らした。

 カレン――華蓮。それは、自分の名ではない。



「お前が憎くて憎くて仕方がない、あのカレンにそっくりだ」



 深月が再び繰り返す。

「黙れ」

 頭の中をかき回されるような感覚に、華蓮はこの上ない苛立ちを感じた。

「黙らない。お前は憎くて仕方ないカレンとそっくりな秋生を、甚振るでもなく、貶めるでもなく、酷く苛めるでもなく、甘やかしてる。俺にはそれが分からない。お前は秋生を陥れたいのか?」
「……知ったことか」
「答えになってないな。お前、秋生があのカレンに似ていたから近づいたんだろ。それで、近づいてどうしたかったんだ?」

 どうしたかった――のか。華蓮は逸らした視線を深月に戻した。

「過去のことなど関係ない。肝心なのは、今どうしたいのかということだろ」

 華蓮の言葉を聞いて、深月が少し驚いた表情を浮かべた。そして次に、いけ好かない面白がっている表情になる。余計なことを言ってしまったと、少し後悔した。

「どうしたいんだよ」
「……少なくとも、甚振るつもりも、貶めるつもりも、酷く苛めるつもりもない。陥れるつもりも」
「だから、答えになってないっつーの」
「陥れようにも、あれだけ軟弱だと陥れ甲斐がない」
「陥れ甲斐があるように育ててから陥れるのか?」

 深月はよく表情が変わる。今度は華蓮を軽蔑の眼差しで見ている。

「そんな面倒なことはしない。ただ、あれほど陥れ甲斐がないと、逆に問題だ。あいつは馬鹿に純粋だから、簡単に誰にでも陥れられる」
「…お前の方がよっぽど回りくどい。はっきり言えよ」
「誰かに陥れられないように、誰かが見てないといけないだろ?」

 華蓮の言葉に、深月は今日一番の驚きの表情を浮かべた。それから、先ほどまでのいけ好かない笑みとはまた違う、癪に障らない笑みを浮かべた。

「正に愛と憎しみは紙一重ってやつだな。秋生の馬鹿に純粋なところが、お前の憎しみを愛に変えちまうわけだ」
「その極端な例えは何だ」

 華蓮の表情が歪む。眉間に皺が寄って、明らかに不機嫌になったことがわかる。

「もっと分かりやすく言おうか?つまり、夏は秋生を陥れようと近づいたのに、秋生が馬鹿に純粋であんまり可愛いもんだから、ついつい惚れちゃって陥れようにも陥れられず、むしろ守りたくなっちゃったってことだろ?」
「全く違う」

 華蓮の眉間の皺が濃くなった。

「なら夏はそう思っとけば。俺はもうそう認識したから」
「ふざけたこと抜かすな」

 深月の極端な思考回路のせいで、全く変な方向に話が進んでしまっている。
 その事態に華蓮は気分を害しながら反論するが、深月は全く話を聞こうとしない。変なところで頑固になるのだから、質が悪い。

「じゃあ百歩譲って惚れてるんじゃなくて、ただ放っておけないためってことにしといてやろう」
「えらく上から目線だな」
「常日頃から上から目線の奴に言われたくないわ!」
 そう言われると、返す言葉もない。そう思って返さずにいると、深月が何かを思いついたようでパンと手を叩いた。嫌な予感しかしない。
「そうだ、ついでだから賭けようぜ。3か月以内に惚れるに千円」
「誰がするか」
「それ、惚れるって認めてるようなもんだぞ」

 ニヤニヤと笑うその表情が、とてつもなく癪に障る。それが腹立たしくて、華蓮はついついて口を開いた。

「五千円だ」
「よし決まり。3か月後、ちゃんと覚えてとくからな」

 深月はそう言って立ち上がると、新聞部の壁に引っかかっている日めくりカレンダーを捲り、3か月後の今日と同じ日付に丸を付けた。
 華蓮は負ける気などさらさらなかったが、しかし五千円は大きく出過ぎたかもしれないと少し後悔した。

「…あいつら、ジュース買いに行ったにしては遅くないか?」

 話がひと段落すると、深月はカレンダーの隣の掛け時計に視線を寄越した。秋生たちが出て行ってからかれこれ15分くらい経っている。確かに、自販機に行ったにしては随分と遅い。ホームルームの最中だからわざわざ遠くの自販機に行くこともないだろうし、一体に何をしているのだろうか。

「ちょっと見に行ってみるか」
「いつもの」

 無駄に喋ったために、華蓮は喉が渇いていた。深月が行くならちょうどいい。

「お前も行くんです!行かなくても買ってこないからな」

 華蓮は行く気など全くなかったが、深月に無理矢理立たされてしまう。座りなおそうかと思ったが、買ってこないと言われたのでしょうがなく行くことにした。華蓮はそれほど喉が渇いていた、それだけの話だ。


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