Long story
白壁。白いカーテン。白いベッド。
視界に見えるほぼ全てのものが白い景色の中で、秋生は目を覚ました。
非常ベルのようなものがけたたましく鳴っていて、この音が原因で目を覚ましたということが分かる。
耳を済ませると、校内放送がどこかの部屋で火事が起きたことを知らせていた。あまり頭のよくない秋生にも、それが避難訓練ではないことはすぐに理解できた。
「に…逃げないと…」
少し熱を持ってふらふらする頭を押さえ起き上がると、ベッドを囲っているカーテンの向こうに人影が見えた。
「起きたのかい?」
カーテンが開く。
その先に、白衣を身にまとった知らない男が立っていた。
「誰…?」
「心配しなくていい。保健室の先生だよ」
男はそう言って、秋生に微笑んだ。
――――気持ち悪い。
直感的にそう感じだ秋生は、教師と名乗ったその男から距離を取るように壁際に後ずさった。
耳に響き渡るものとは違う別の警告音が、頭の中で鳴り響く。
「どうしたの?こっちへおいで」
恐怖。
男の背後に、真っ赤に渦巻くものが見える。
恐怖が増幅する。
「い…いやだ……」
伸ばされた手を、取りたくない。
背後に見える赤いものに、触れたくない。
「どうして嫌がるの?さぁ、こっちへおいで」
「っ…!!」
無理矢理腕を引かれた瞬間、脳裏に何かが赤く広がった。
赤く、赤く。
頭の中を染め上げる。
「やだ…、やめ…て…いやだ…」
「無駄だよ」
迫る男の手を振りほどくことが出来ない。
真っ白に覆われた視界の中が、男の背後を中心に全て赤く染まっていく。
「君は私に逆らえない」
その背後にある赤いもの。
頭の中をぐちゃぐちゃに掻き乱すもの。
それは目の前の男ではなく。
その奥にいるーーー赤い、誰か。
「い…や……」
嫌だ。
怖い。嫌だ。
赤い、怖い。助けて。
助けて。
助けて。
「ーーー誰か…っ」
真っ白かい世界の、その全てが赤く染まりかけたその時。
風が吹いた。
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mokuji
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