Long story


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 侑が出て行ってしばらく、秋生も春人も一言も口を開くことなくただその場に立ち尽くしていた。華蓮はPSPで遊んでいるし、深月は一人でぶつぶつと侑の文句を言いながら新聞を開いていた。
 さて、5分くらい経つと何かのスイッチが入ったかのように春人と秋生がまくし立て始めた。今日はホームルームどころではないという意見が最初に一致して、それからひたすらに会話が続く。間近で見た侑がどれほど綺麗だったかという話に始まり、肉声はマイクを通っているよりも美声だったとか、笑顔が天使のようだったとか、ファンでないものが聞いていたら反吐が出そうな話ばかりだった。

「何なのこいつら、怖いんだけど」
「常軌を逸している」
「それは言い過ぎ」

 深月と華蓮はそれぞれゲームをするのをやめ、新聞を読むのをやめて秋生と春人のマシンガントークにドン引きしていた。

「…教室に戻る」
「え、行くのか。俺はあいつがホームルーム出るって言った時点で出るのやめた」
「やめだ」

 華蓮は一度立ち上がるが、深月の言葉を聞いて即座に座りなおした。
 侑がホームルームに出る日はホームルームにならない。目立ちたがりの侑がちょっと一曲と言い出すのは目に見えているし、侑本人の教室はもちろんのこと、その被害は隣の教室にまでやってくる。ちなみに深月のクラスは隣ではないが、真下にある。侑の歌声が良く響くため、華蓮のクラスほどではなくても、どのみちホームルームにはならないだろう。

「せっかく何も出てないのに、災難だね」

 侑がいた間は一切喋らなかった加奈子が、もう大丈夫と思ったのか口を開いた。

「全くだ」
「何?今日も加奈子ちゃんいんの」

 華蓮が何にでもなく返事をしたので、深月がきょろきょろと辺りを見回した。加奈子は深月の周りをぐるぐる回る。

「お前の周りをまわっている」
「まじか。加奈子ちゃん、おはよう」
「おはようって、伝えて」

 加奈子が深月の周りから移動して肩をつんつんとつつくと、華蓮は嫌そうな視線を加奈子に向けた。

「加奈子と会話をするな。通訳が煩わしい」
「いいじぇねぇかよ、別に」
「全くよくない」

 自分は聞こえていることを、いちいち聞こえていない相手に復唱して説明するのはとてつもなく面倒くさいのだ。自分は聞く立場だからいいというものだ。

「ところでずっと気になってたんだけど。どうしてあのすごいバンドの人がここにいたの?夏は知り合いだったの?」
「すごくはない。キチガイバンドだ」
「何て?」

 深月が聞いてくるので、華蓮は面倒臭そうに溜息を吐いてから加奈子の言葉を深月に教えた。無視しようかとも思ったが、言えば深月が勝手に説明してくれるだろうと踏んだからだ。

「俺たち小学校が一緒なんだよ。まぁ、俺は生徒会嫌いだから普段は絡まないし、夏も絡んで目立ちたくないから絡まないから誰も知らないけど。でも、侑は夏に懐いてるから、夏が頼めばどこでも飛んでくる」

 案の定、深月はどこにいるかも分からない相手に勝手に説明を始めた。

「…どうして夏が頼んだの?」
「予定より早く吉田隆が成仏したのは、あの2人がそれなりに役に立ったからだろう」
「……だから?」

 加奈子は分からないといった様子で首を傾げる。しかし、華蓮はそれ以上説明するつもりはなかった。

「察するに、どうして頼んだのか聞いてるな?…夏は言い方が回りくどいんだよ。簡単に言うと、夏から2人へのご褒美ってこと」
「なるほど!みっきー、分かりやすいっ」

 加奈子が手を叩いて深月を褒める。加奈子がいつの間にか侑と同じ呼び方で呼んでいるのは言わなくてもいいだろう。

「喋りすぎて喉乾いたからジュース買ってくる〜」
「俺も行ってきます」

 マシンガントークを繰り広げていた秋生と春人が突然立ち上がった。別にそこまでして喋らなくてもいいのではないかと思うのだが。華蓮には本人たちの心境はさっぱり理解できない。

「私も行くー」

 加奈子が秋生と春人の後に付いて飛んでいく。今行くとマシンガントークに巻き込まれるのは確実だが、加奈子はそのことはあまり考えていないのだろう。華蓮は忠告してやる義理もないので、そのまま見送った。


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