Long story


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「わお、2人ともかわいー。やっほー、はじめまして」

 入るや否や、普段深月が座っている椅子に陣取っている第三の人物に話しかけられ、秋生と春人は完全にフリーズした。これは、秋生と春人が極度の人見知りで、初対面の相手には誰でもこうなってしまうというわけではない。2人に話しかけた第三の人物が、昨日体育館で盛大なライブを行ったshoehornのリーダー、紅侑(くれないゆう)に他ならなかったからだ。

「はっ…はははははじめまして!」
「お、おはよう、ございますです!」

 秋生と春人はガチガチの状態でどうにか声を絞り出した。それを見た侑はクスクスと笑い声を漏らす。

「何この2人。超可愛いんだけど」
「お前ら、こんな奴相手に緊張しすぎだろ」

 秋生と春人の態度に対して深月が苦笑いを零すと、2人はこれでもかというくらい手を左右に振った。

「いや、いやいやいや、何を言いますか深月さん!shoehornのリーダー様を前にして緊張するなって言う方が無理でしょ!ねぇ春人さん!」
「右に同じ!学校内で紅先輩に遭遇するのは月に行くよりも難しいってもっぱらの噂なのに、なんてことでしょうか!俺たち月に来ちゃいましたよって話ですよ!ねぇ秋生さん!」
「どういうキャラなのお前ら」

 深月はもはや呆れている。苦笑いというより、引き笑いだ。

「あはは、君たち面白いねー。名前はなんだったっけ?」
「柊秋生と申します」
「相澤春人と申します」

 秋生と春人は揃って頭を下げた。横から「どうして頭を下げる」と華蓮に言われ、無意識だったが言われれば必要ないかと思い、頭を上げた。

「秋生君と、春人君ねー。よし覚えた。君たちshoehornのファンなんだってね」
「は、はい!」
「それはもう、素晴らしく!」

 秋生と春人はまるで軍隊の一員のようにピシッと背筋を伸ばして整列した状態で声を上げる。侑がくすくすと笑うたびに、その美しい笑顔が眩しくて仕方がない。

「それは、ありがとう。嬉しいよ。…具体的には誰のファンなの?あ、遠慮しなくていいから、一番好きな人答えてね」
「ヘッド様一筋です」
「俺は…公にはユウ様のファンってことになっていますが、隠れライト様ファンです」

 秋生がはきはきと答えたのに対して、春人は少し声が小さくなった。

「…別にここで隠れファンって言わなくても。他にファンがいるわけでもなし」
「あ、そうか。…ライト様のファンです!」

 秋生に言われ、春人の声が大きくなった。
 どうして隠れファンかというと、ライトのファンにはキチガイが多いと有名で、友人間でshoehornの話をするときにライトのファンですなどと言った暁には瞬く間にキチガイ認定されてしまうというなんともいえない常識が出来上がっているのだ。そのため、shoehornの中で誰が好きかという話になった際、ライトの名前が出てくることは決してない。隠れファンは多いと予測されているが、皆フェイクを用意している。そして、そんな中で堂々とライトファンを公言するファンがいて、それが少し頭がおかしい人ばかりなのが質が悪かった。
 ちなみに、ファン同士が仲良くなってお互いに信用できる相手になると、本当はライトファンであると打ち明ける場合もある。秋生は既に、春人がライトファンであると知っていた。

「あはは。まぁ、ライトのファンなんて言いたくないよね。キチガイって言われちゃうもんね」
「えっ…いや、あの」

 春人は少し困ったように表情を浮かべるが、侑は優しい笑顔を向ける。

「僕たちの間でも有名だから。一番ホットな話だと、つい一昨日開けたファンレターに大量の爪が入ってて、僕が発狂しちゃった」

 決して笑顔で言うことではない。

「爪…!?」
「まじすか」
「それは引くわ」
「正気の沙汰ではないな」

 案の定、聞かされた方は一斉に今日一番の引き顔を見せている。

「でしょ。しかも、それを見た最初の一言が“これ燃えるごみ?”だからね。顔色一つ変えないんだから、あの子も相当きてるよ。キチガイ一歩手前」

 酷い言い草だ。本人が神妙な顔をしているからか冗談とも取り辛いため、なんともリアクションに困る。

「まぁ、そんなことはおいといて。そろそろホームルーム始まるから、僕行かないと」
「ホームルームなど出ないだろう」
「今日は出る気分なの。なっちゃん、クラス隣だよね。一緒に行こうよ」
「断る」
「言うと思った。まぁいいや、どうせ一度生徒会室戻るし」

 そう言うと、侑は椅子から立ち上がった。金色の長い髪がふわりと揺れて、つい見とれてしまう。そうこうしているうちに、侑は2人の元までやってきて、2人の顔の間に挟むようにして自らの顔を近づけてきた。

「近いうちに、ヘッドとライトからサインもらっとくよ。今度生徒会室に取りにおいで」
「!!?」

 秋生と春人が声にならない反応をすると、侑は楽しそうにクスクスと笑った。

「君たち面白いから、ちょくちょく遊びにきちゃおうっと」
「ふざけんな二度と来んな」
「みっきーの命令なんて聞かないよ。じゃあね、秋生君と春人君」

 侑は金色の髪をなびかせながら、手を振って新聞部の部室を後にした。秋生と春人は手を振るなんておこがましいことはできないと、まるで主人を見送る執事のように深く礼をするのであった。


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