Long story


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「キリン?…何それ?」

 さて、桜生たちと合流した秋生たちは、そのまま新聞部にやってきた。その中でお互い泣きながら感動の再開を果たし、華蓮と李月が苦笑いを浮かべ…その他色々とショートムービーがあったのだがその詳しい流れは割愛する。
 とにかく、今更授業に行っても仕方がないし、ここなら深月と侑がいるだろうということでやってきたわせだが、上記の2人どころか誰も授業に出ることなく勢揃いというのは教育上どうなのかと疑うところでもある。
 部屋に入ると授業にも来ず、連絡も取れなくなったことを春人に大層心配され怒られた。そして、その流れで事の経緯を説明することとなったのだが。
 桜生が先陣を切って「春くんってキリンの子なの?」なんて聞いたことから、場の空気が一気にカオスと化しかけた。
 頭でも打っておかしくなったのではないかと本気で心配になる秋生だが、そんな他人の心配などまるで気づくことなく会話が続く。

「…ここに来ようとした飛縁魔さんを追い返したの、春くんでしょ?」
「追い返したって、人聞き悪いなぁ。ちょっと席を外してもらっただけだよ〜」

 一体何を特ダネしたかったのか、侑と深月の表情を見れば一目瞭然だった。
 実際にその特ダネをスクープできたのかどうかは、後から聞いてみよう。

「じゃあやっぱ、春くんだ。飛縁魔さんがね、春くんにはキリンの加護が付いてるって」
「えー、何それ?…あ、でも母さんが昔、キリンを助けたことあるって言ってたなぁ。でも、キリンってそんなに凄いの?動物園でふらふらしてるだけでしょ?」

 キリンが動物園でふらふらしているだけというのは少々語弊がある気がするが、それにしても加護などと大層なものを与えられるほど凄いとも思えない。

「いやいやいや、馬鹿かお前は!」
「え?」
「どう考えてもそのキリンじゃねぇだろ」

 まるで華蓮のような口ぶりで、深月が呆れたように声をあげた。どこか痺れを切らしたというようにも見える。
 春人が首をかしげると、深月は溜め息を吐いてから棚から少し分厚い文庫本のような物を取り出して、パラパラとページをめくり始めた。

「飛縁魔の言ってた麒麟はこれだよ」

 桜生と春人に便乗して、秋生も差し出された本のページを覗き込んだ。
 そのページには馬のような挿し絵と共に「麒麟」と書かれてある。とてもじゃないが、終生の知っているキリンとは似ても似つかない。

「…なんなのこれ?まさか妖怪?」
「妖怪なんてもんじゃねぇよ。麒麟ってのは、中国の…」
「ストップ、ストップ。深月が喋りだすと長くなるって」

 喋りだした深月を双月が止め、侑に視線を向ける。
 視線を受けた侑は、仕方ないと言わんばかりに苦笑いを浮かべてから口を開いた。

「妖怪よりも神に近いくらいのすごい霊獣だよ。…えっとね、四神は知ってる?」
「あ、聞いたことあります。よく体育祭の隊別で描かれるやつですよね」

 春人の例えは、まさに秋生が思い浮かべたものと同じだった。
 学校の規模によって隊の数が異なるのでその中のいくつかか、全部がが描かれるかは学校次第であるが。確か、朱雀、白虎、玄武、青龍だったはずだ。

「そう。麒麟はその中心に位置する、もっとも位の高い霊獣なんだ。千年に一度しか姿を見せないとも言われていて…もちろん僕も見たことないし、普通は人間がお目にかかれるような存在じゃないんだけど」
「…春くんのお母さん、そんな凄いもの助けたの?」
「……やっぱり、普通のキリンなんじゃ…」

 春人はなぜか不安そうだ。
 確かに、千年に一度しか現れない神様のような存在を目にした上、助けたなんて俄に信じがたいのも無理はない。

「まぁでも世月のことがあるからな。世月は一度成仏して戻ってきた神聖な状態だから俺らには見えない。けど、春人はお母さんに与えられた麒麟の神聖な加護を受け継いだから見えるってんなら、納得はいくよな」

 世月に対して「神聖」と言う言葉が出てきた辺りで、華蓮と李月は同時に顔をしかめた。
 とはいえ、双月の説明は理にかなっているのでそれを否定することはできないのだろう。2人共どこか不満気だが、それを口にすることはなかった。
 
「春人君、兄弟多いんでしょ?他の子たちはどうなの?」
「……一人だけ、普通じゃない弟がいますけど…おばあちゃんが元々霊感とか強いから、その遺伝だとばっかり…。他の兄弟たちは、隠してるんじゃなければ〜普通です」
「普通じゃないって、どんな?」

 不思議そうに双月が聞くと、春人は腕組みをして考え始めた。

「まず見た目ですねぇ〜、目も髪も真っ青。あと…空飛べたり〜、木と話しもできるって言ってたかな?」
「いやお前それ、どう考えても霊感云々の話じゃねーだろ」
「知らないよ〜。俺には全くそんなのないから、霊感ってそんなもんかと思うじゃん」

 深月の指摘に、春人は少し怒ったように返した。
 いくら霊感の何たるかは知らなくても、さすがに空を飛んだり、木と話しが出来るというのはあり得ないと気づきそうなものだが。
 多分、春人は全く気にも止めてなかったのだろう。

「青いのか。ならきっとお母さんが出会った麒麟は聳孤だね。五行説でいうところの木だから…自然と強く繋がりが持てるのかな。もしかしたら、僕みたに自由に木々を操ることもできるかもしれないね」

 侑の言っている言葉のほとんどは意味が分からなかった。しかし、まだ見ぬ春人の弟がかなり凄い人物なのだろうということは想像できる。

「春人も頑張れば出来るんじゃね?空飛んだりとか」
「いや〜、俺はいいよ。世月さんと話せるだけで充分。なんか、うっかり烏のテリトリーに入ると襲撃とか受けて大変って言ってたし。雲の中から突如飛行機がやって来たときの恐怖なんて凄まじいらしいよ」

 自分で聞いておきながら、まさに雲の上の会話というやつだ。
 人類がそこまで到達するのには計り知れない時間を要するに違いない。それを当たり前の日常の会話としていることが別次元に感じられる。

「そんな高度まで上がれんのかよ…」
「さすが麒麟の力ってとこだね。飛縁魔が興味持ちそう」
「やめろ。これ以上俺の日常に介入されてたまるか」

 飛縁魔の話題が出たときの深月の顔は、決まってそれはもう嫌そうな顔ばかりだ。
 普段ならそんな深月をからかうべく追い討ちをかけそうな侑が、「言わないよ」と苦笑いを浮かべるほどにしかめ面だった。


「そういえば、春くんは特ダネはゲット出来たの?」

 飛縁魔、というワードが再び登場したからだろうか。
 桜生が思い出したように問うと、春人は思い切り顔をしかめた。

「あー。それがね、もうね、ガッカリですよ」
「バレちゃったの?」
「俺のパパラッチ力をなめてもらっては困りますよ〜、桜生さん。バレるなんて、そんなヘマは致しません」
「…ということは?」
「もうね、本当にね。お前たちはどこまでも猿と犬かって感じ。何か喋ったら喧嘩、収まったと思って次の瞬間喧嘩。いやまぁ、その喧嘩の内容が夫婦喧嘩のそれだったから面白くなかったと言えばそれは嘘だけど。俺が求めてたのはそういうんじゃないんだよね」

 春人は弾丸のごとく喋り、そして最後にお手上げポーズを取って溜め息を吐いた。
 確かに、普段から喧嘩ばかりの2人が仲良くしているところを見てみたくはあるが。秋生としては夫婦喧嘩のそれも十分気になるところだ。

「そもそも、何で春人はこの2人のスクープが欲しいんだ?」
「別に何をどうしようってんじゃないけど、世月さんがいざという時のために撮っといて損はないって。そう言われると、俺がみつ兄に対して不利になった時の逆転材料くらいにはなるかなって。まぁ、隣の世月さんも呆れて物も言えないほどの結果だったけどね」

 秋生はどうして春人が麒麟の加護をあまり受けることができなかったのか、なんとなく分かった気がした。
 神聖な加護を受けるには、少しばかり性格が腹黒すぎるのだろう。

「お前、世月が憑いて更に性格が歪んだんじゃねぇのか?麒麟は人を見る目があるってこったな」

 世月の存在がどう影響しているかは置いておくとして。
 その口振りから察するに、どうやら深月も同じ事を思ったのだろう。隣の侑も、うんうんと顔を頷かせていた。
 多分、他の面々も口にも表情にも出さなくても考えはは同じだろうと、秋生は思うのだった。


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