Long story


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「ーー!!」

 地面に叩きつけられるように落とされ、桜生は一瞬世界が回ったような感覚に囚われた。
 頭を上げて辺りを見回すと、どうやらどこかの教室に投げ入れられたらしいということが分かった。

「これでお前を心配してくれる奴はもういない」

 声がする方に視線を向けると、さきほどと同じ子どもーーに、瓜二つの子どもがいた。
 顔も声もほとんど同じだが、その雰囲気から同一人物ではないことが分かる。

「君たちも双子だったんだね」
「ずっと隠れてこの機会を待っていたんだよ」

 あの子供が双子だということは、何度か「ボクたち」と言っていたことから何となく想像はついていたが。
 しかし、それならばそれで先程の子どもの言っていた言葉の意味が気になってくる。

「一緒にいられなかったって?」
「両親がボクたちを引き離したんだ。一緒にさせとくと危険だからってね!」

 先程の子供はつむじ風であったが、こちらの子供はどちらかと言えば突風だ。

「っ!」

 猪のように突進されて、桜生は足を踏ん張る。一都の力で跳ね返るとはいえ、空気の衝撃だけでも凄まじいものだ。

「一都君、大丈夫?」
「大丈夫。…と、言いたいところだけど。ちょっとキツいな」

 桜生の首に巻き付いている蛇は少し苦しそうにそう漏らした。
 このまま何度も同じ攻撃を食らっていては、そのうち体が持たなくなってしまうのは目に見えている。

「さあ、さっさと死んじゃえよ!」
「そんなの…お断り!!」
「ぎゃあっ!?」

 桜生は突進してくる子どもに向かって、室内に転がっていた椅子を投げつけた。
 先程のつむじ風と違い、この突風はどこからやってくるのか目に見えてわかる分対処がしやすい。

「過激だな、桜生」
「その場しのぎだよ。早く秋生の所に戻らないと」

 このままでは一都が消耗する一方だ。
 それに、早く戻らないときっと秋生は今、自分がいなくなったことを心配しているに違いない。

「また泣かせるなんて御免だよ、僕は」

 体を奪われて立ち去る時に見た秋生の顔を、桜生は一度だって忘れたことはない。
 伸ばされた手に答えてあげることができなかったことを、また一緒に暮らし始めたあの日までずっと後悔してきたのだ。

「させるわけないだろ。ボクたちが一緒にいられないなら、他の双子だって全員一緒にいられないはずだ」
「…一緒にいるじゃん」
「当たり前だ!!ボクたちは一緒にいるからこそ意味があるんだからな!!」

 言っていることが滅茶苦茶だ。
 一緒にいられないと言ってみたり、一緒にいるのが当たり前のように言ってみたり。
 それに、言っていることだけでなく剥き出しの感情も起伏が激しい。

「ありゃあ、カレンの力に対応出来てねぇな。通りであんな風に情緒不安定なわけだ」
「なるほど。ほんと、ろくでもないったらないね」

 元は桜生と秋生のものだったその力は、決して人をおかしくするようなものではなかったはずだ。それなのに、使う人物ひとつでこうも変わるのか。

「こんな状況で無駄話とは、余裕だな!」
「君たち、絶対猪年でしょ」
「うわぁ!」

 感情のコントロールが出来ないから同じパターンの攻撃しかできず、桜生が同じように反撃しても避けることが出来ないのか。それとも、年相応というものなのか。

「頭に当たったら下手し死ぬかな?」
「風が守ってるからそりゃねぇだろ」
「それはよかった」

 桜生は近くにある机を手をかけた。

「なら、ここからは僕たちのターンだね!」

 先ほど椅子を投げつけて止まったまま動かない子どもに、今度は全力で机を投げつけた。

「うあっ!」

 一都の言うとおり、避けることは出来なくても咄嗟に風で威力を弱めることは出来るようだ。
 風が舞うが、桜生はそんなことはお構いなしに次の机に手をかける。

「意外と馬鹿力だな。鍛練でもしたのかよ?」
「いいや、そんなことしないよ。…僕はね」
「……置き土産ってやつか」

 置き土産。確かに、それはいい言い回しかもしれない。
 幸か不幸か、カレンに乗っ取られていた体は見た目こそ女子そのものだが、意外ときちんと体力作りがされている。
 普段から何でも李月に頼りきりの桜生だ。先ほど椅子を持ち上げても何とも思わなかったことで今更ながらそれを察したわけだが、いとも簡単に机を投げられる辺り筋トレでもしていたのではないかと疑うほどだ。

「このまま突っ切るか」
「いや、どうせここから逃げても秋生の所にはたどり着けないだろうから」


 いつも守られてばかりいる。

 何も出来ずに、皆が必死になっているのをただ見ているだけだ。


「なるほど、倒して進むってことだな」
「出来ないと思う?」
「いいや、桜生なら出来るよ」

 一都は笑う。
 それが、蛇の姿ではなく幼いながらも李月の姿だったからかもしれない。
 何だか李月にそう言ってもらえたようで、桜生の背中を押した。

「ありがとう、一都くん。やる気出てきた」


 ずっと、人形のようにただいるだけの存在だった。

 いつだって無力で、自力で歩くことすらできず、誰かに頼ってばかりで。

 助けを待って、自分を見捨て、諦めて。

 それでも手を伸ばしてくる誰かを待ち続けて、その手を取った。いつも、誰かに手を取られてばかりだった。
 ずっと動けずに、自分ではどこにも行けなかった。

 けれど、それはもう過去の話だ。

 今はもう、自分は動けない人形じゃない。


「さぁ、行くよ」

 誰かが迎えに来るの待つのではく。
 諦めて進むのを止めてしまうのではなく。

 行きたいところがあるのなら自らで行けばいい。
 今の自分には、それが出来る。
 桜生は自分にそう言い聞かせて、足を踏み出した。


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