Long story


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「ついにペアルックデビューだよ!」

 現在、3時間目終わりの中休み。
 秋生と桜生と春人は、3人で心霊部の仮部室である多目的室にやってきていた。
 目的は次の日本史の時間で利用する資料集だ。この間のテストの際、置き勉を全て持ち帰るのが面倒臭くてこの部屋に持ち込んでいた。それをすっかり忘れていた3人は、授業前に慌ててこの場所までやってきたということだ。

「テンション高ぇなぁ」

 椅子の上に立ち上がった桜生が、両手をあげている姿を見た秋生がどこか呆れたように呟く。
 桜生の気分は一目瞭然にるんるんで、今にもスキップしそうなくらい舞い上がっていてる。また変なものに感染したのではと疑いたくなるほどだ。
 しかし、そうではないことは分かっている。

「こうして見ると、ますます似てるよねぇ」
 
 春人はセーラー服姿の秋生と桜生をまじまじと見て呟いた。
 確かに、服装ひとつでこうも似て見えるものかと、秋生も不思議に思う。

「でも、よくセーラー服なんて着る気になったねぇ」
「…さすがに着物で登校はちょっと。ひすい先輩くらい風格がないと」

 春人の問いに秋生は苦笑いで答えた。
 ことの発端はひすいと夕陽が帰った後、桜生に学校はどうするのかと聞かれたことにある。
 まさか着物で行くわけにもいかないし、だからといって普段の制服だと、桜生と春人の大ブーイングが待ったなしだ。
 亞希が髪型を戻そうかと言ってくれたが、秋生はどうしてか思いの外この髪型が気に入っていてそれを戻したくないと思った。華蓮に似合っていると言われたことも大きく関係しているのかもしれない。
 そうなると、選択肢は限られる。色々と考えた結果、以前のブレザーよりも桜生と同じセーラー服ならば多少は目立たないだろうと思い、この結果に至ったわけだ。
 ちなみに、セーラー服は桜生の予備を貸したもらったわけだが、顔が同じならサイズも全く同じのようでピッタリだった。

「せっかくだから、お揃いで学校を練り歩きたいもんだけど」
「嫌だからな」
「わかってるよ。それに、ほいほい出歩かせて秋生を危険に晒すわけにもいけないしね」

 桜生はそう言って苦笑いを浮かべた。
 危険度の話をするなら、桜生だって同じだし、一度カレンに狙われたことのある春人だって同じだ。

「でもさ、秋は良狐さんがいるからいざってときも最低限逃げれそうだけど…桜は本当に丸腰なのに、あの過保護の李月さんによく出歩かせてもらってるよね」

 桜生はあまりじっとしていられない節があり、知らない間に1人で購買にお菓子を買いに行っていることなどがざらにある。誘ってくれたら一緒に行くから1人で行くなと言っても、聞きやしないのだから問題だ。
 しかし、李月にその話をしても苦笑いを浮かべるだけで、桜生を咎めたりはしない。いくら溺愛しているとはいえ、命よりも大事な桜生が自分から危険に晒されているようなものなのに、何も言わないというのも不思議なものだ。

「完全に丸腰ってわけでもないよ」

 桜生はそう言うと、窓の外に視線を向けた。同じように視線を向けると、外の木に一匹の白蛇がとぐろを巻いてこちらを見ているのが見えた。

「あれは…李月さんの?」
「一都くんだよ。僕と一番仲良しなんだ」

 その名前の人格(というべきかは分からないが)が出ているのは、一度だけ見たことがある。
 この校舎が破壊されたまさにその時で、一都は李月の言うことは聞く耳持たずであったが、桜生の言うことは素直に聞いていたように思う。

「あの蛇さんが、守ってくれるの?」
「実際に武力を行使することはあまりできないと思う。ただ、僕に何かあればいつくんに知らせてくれるはずだよ」
「なるほど。それなら納得」

 桜生が窓の外を見ながら一都に手を振ると、じっとこっちを見ていた顔がふいと他所を向いて、そのままするすると見えない所に隠れて行ってしまった。以外と照れ屋なのかもしれない。



「あれっ、もうこんな時間じゃん。俺ちょっと、みつ兄に用事があるから先に行くね」

 時計に目を向けた春人が、休み時間終了5分前となっているのを目にして慌てて立ち上がる。深月に用事があるということは、新聞部に寄っていくということだ。
 現在、深月はほぼすべての授業に参加しておらず、学校に来てからはほとんど新聞部にいる。その理由は言わずもがな、侑の見張りをするためだ。そのため、侑もほとんどの時間を新聞部に箱詰め状態となっている。
 あの時の言葉は飛縁魔を黙らせるための
ものだとばかり思っていたが、きちんと有言実行をしているようだ。

「春くんこそ、一番丸腰なのに大丈夫なの?」
「俺には世月さんがついてるでしょ?今はいないけど、1人になるとどこからともなく出てくるんだよね」

 守ってもらう点において世月ほど心強い見方はいない。しかし、1人になると現れるとは、見方によってはストーカーのようだ。
 予備軍の秋生が人のことを言えた義理ではないのだが。

「それなら大丈夫か。でも、くれぐれも気を付けてね」
「それはこっちの台詞。2人とも、変なところで鈍かったりするんだから気を付けるんだよ」

 春人はそう言うと、先に多目的室を出ていった。
 特に何も思わず春人を見送った秋生と桜生であるが、よくよく考えれば2人が時間ギリギリまでここに残る理由はない。それどころか、一緒に行っていてもよかったのではないかとすら思う。

「…僕たちも戻る?」
「そうだな」

 どうやら桜生も同じ気持ちだったようで、春人が出ていって1分も経たないうちに多目的室を後にする。
 もしかしたらまだ追い付くかもしれないと小走りで春人を追ったが、どうしてかその姿を見つけることはできなかった。





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