Long story


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 秋生が問いかけをした瞬間に何かに駆り立てられたように声をあげた飛縁魔は、何を思ったか持ってきていた酒瓶のうちの1つを手にした。
 そして、一気に酒を煽ってから亞希に視線を向けた。

「あんた、あの神と会ったことがあるかい?」
「…2度ほど。だが、それほど話し込んだわけじゃない」

 というよりも、華蓮が亞希から聞いた話では、2度とも会話という会話でもなかったはずだ。確か、どちらも亞希が一方的に責められていただけのように思う。

「そうかい。あたしは何度か会ったことがあるけど、あそこまで欲深い神はなかなかいるもんじゃないね」
「…どういうことだ?」
「言葉通りの意味さ。まぁ、きゅーちゃんはあの神に恩義を感じて尽くしていたから、それを何とも思っていないようだったがね」

 その言葉を聞いた亞希が、「あんなのに恩義なんてな」と吐き捨てるように言った。これは完全に亞希の私情からの言葉だったが、飛縁魔はなんとも言えない表情を浮かべている。
 
「きゅーちゃんには悪いが、あの社がなくなったことを不思議とは思わない。ただ、それはきゅーちゃんがあの神の欲深さに気づき、愛想を尽かした時だと思っていた」
「…良狐が神使をやめれば、人間たちからのお供え祈りが減る。そうすればあの腐れ神は欲を満たせず衰退し、社を維持できなくなるから…ということか?」
「そうさね。しかし、きゅーちゃんは今尚あの神を慕っているだろう?それなのに、あの社は維持できず絶えた。それも、きゅーちゃんだけ残して神はいなくなった」
「いなくなった…?社が維持ができなくなって自分も消えたんじゃないのか?」
 
 社というのは神にとっての家であり、自分そのものでもあるという。つまり、その社がなくなるということは、神にとっての死を意味する。
 もちろん、社がなくても祠だけで暮らしていける神もいる。だが、それはごく一部の、比較的に力の小さい限られた神たちだ。

「きゅーちゃんには、ああ言っちまったけどね」

 飛縁魔は一呼吸置き、そして真っ直ぐに亞希を見据えた。



 「あれは絶対に、見間違いなんかじゃなかった」


 その表情はとても険しいものだった。
 あの時、生徒会室での話のことは良狐に嘘をついたということだ。


「…つまり、あの腐れ神はまだ生きているということか?」

 亞希の問いに、飛縁魔は頷いた。

「あたしにはそれが不思議でならないんだ。可能性としては、どこか他の社に身を移したということも大いにあるけどね」

 神が社を他の場所に写すという話はたまに耳にする。社が古くなったりすると、修復するのではなくて新しい場所に身を移すということもないわけではない。
 しかし、もし仮に亞希の言う腐れ神がそうしたのだとしても。ならば、どうして良狐を一緒に連れて行かなかったのだろうか。亞希から遠ざけてまで、自らの側に置いたというのに。

「どうして、その話を良狐に隠して俺にした?」
「…もし社を移したのにきゅーちゃんを連れていかなかったのなら、それがどういう意味か分かるだろう?あたしには、そんなこと口にはできないよ」
「だから、俺が良狐に話をしろと?」

 亞希が露骨に顔をしかめた。
 気持ちは分からなくはない。飛縁魔の言うことはつまり、損な役回りを亞希に押し付けるということなのだから。

「あんたなら、きゅーちゃんを支えられると思ってるからだよ。…とはいえねぇ、神よりも修羅が上なんてあたしは笑っちまうけど」
「…俺はなり損ないだ」

 そう言う亞希はどこか不満そうだが、どこか満足そうだ。
 嫌みのような言い方に若干苛立ちを持ちつつも、嫌いな腐れ神より勝ったと認識されたことに気分を良くしているのだろう。

「それに、何だか釈然としなくてねぇ。この間見かけた神が、どうしてか気持ち悪くて仕方がないんだよ」

 それは女の勘とでもいうのだろうか。
 何がどう釈然とせず、どうして気持ち悪いのかも分からない。ただ、あまり関わりたくないのだと言う。

「…その腐れ神を、一体どこで見たんだ?」

 亞希が静かに聞く。
 それに対して、飛縁魔はどこか吐き捨てるように言葉を発した。


「ごく最近のことだよ。お前たち人間の敵が荒らした山を整えているときだ」


 室内が、静寂に包まれた。


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