Long story


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「飛縁魔さん…。良狐は?」
「蛇の女と女子トーク中さ」

 部屋に入ってきた飛縁魔は、ほのかに頬を赤く染めて程よくか、もしくはそれ異常に酔っている状態に見えた。
 桜生が秋生の方に詰め席を進めると、礼を言ってその場に腰を据える。

「蛇の女?また新しい妖怪を連れてきたのか?」
「いや…多分、四都のことだと思う。正確には女ではないけど」

 以前、世月の容姿をして出てきた李月の中にいる一匹だ。
 いくら体を無くして性格がそれぞれ孤立してきたとはいえ、性別の枠組みを越えることもあるとは驚きだ。

「本人がそう言うのなら、女でいいんだよ。あたしは飲み過ぎると二日酔いになるからね、ちょっと息抜きがてら抜けて来たんだ。…そこの鬼に話もあったしね」
「俺に?」

 飛縁魔が亞希に一体何を話すことがあるのだろうか。もしかしたら、良狐から口を聞いて説教でもしに来たのか。
 亞希も同じようなことを予感したのだろうか、表情がしかめ面だ。

「ああ。しかしまぁ、その前にせっかくだから神使の話を教えてあげるよ」
「本当ですか?ありがとうございます」

 礼を言う秋生に向ける笑顔は、何度か見たことがある深月に向ける視線とは全く違い優しげだ。こんな表情もできるのかと、驚きを隠せない。

「神使ってのは、神のお社を色々なものから守るのが仕事なんだ。守るっていうことには色々あるけど、分かりやすい例で言えば自然災害や、人為的な災害。それに、参る人間がいなければなくなってしまうから、過疎化にも注意しないといけないね」
「…災害はともかく、過疎化からどうやって守るんですか?」
「時おり人里に出て神社の評判を流したりするのが一般的だ。それも権力のある人間を一人呼び寄せれば、あとは勝手についてくるだろう?それを見極めて人寄せをするのも神使の仕事なんだよ」

 人間というのは、どうしても人の真似をしてくなる生き物だ。
 それが上の立場か、成功している者なら尚のことだから、飛縁魔の言っていることは実に合理的だ。

「それでもダメなら妖怪たちにちょっといたずらさせて、神頼みに来させることもあると聞くけどね。あたしやきゅーちゃんほど実力もあれば、そんな姑息なことするまでもないさ」

 困ったときの神頼みとは言ったものだが。そもそも、神頼みをさせるために人間を困らせる神など信用できたものではない。
 しかし、そう聞くとやはり神使の中でもそれなりに優秀なのとそうではないのとがいるということが分かる。

「それから単純に社を守るだけでなく、神のお世話をするのも仕事の内だね」
「お世話?」
「炊事洗濯掃除、身の回りのことはなんでもだよ。神が仕事に専念できるように最適な環境を準備する。あと、仕事の予定を把握してそれを管理するのも神使の勤めだ」

 つまり、秘書兼召し使いといったところだ。
 内容を聞いている限りでは、かなりハードワークのように感じる。しかし、妖怪にとってその程度のことは造作もないことなのかもしれない。

「やることばっかだなぁ。パンクしそう」

 桜生は自分がそれをこなす場面を想像したらしく、顔をしかめて首を横に振っていた。
 心配しなくても、人間がそんな激務をこなさせられることはそうないだろう。

「使える神によっても違うこともあるから、あたしの言ったことが全部の神使に当てはまるわけじゃあないからね」
「神様ごとにやることも違うってことですか?」
「そりゃあそうさ。例えば、あたしの使えていた神は水神様だったから、その辺りの水源の水の管理なんかもやっていてね。水辺の妖怪たちはやんちゃな子ばっかりで大変だったねぇ」

 どうやら飛縁魔は昔から世話好きだったようだ。大変だったと言いながら、とても楽しそうに話している。

「色々と大変なんですね」
「あたしなんて大したことはないさ。水神はそれほど人間の祈りを必要としないからね。それに引き換え、きゅーちゃんは人間の神様だろう?人間の神っていうのは厄介でね、とにかく扱いが面倒臭い」

 飛縁魔は終始上機嫌で話していたが、人間の神と口にした途端に面倒くさそうな表雨情になった。
 亞希がその神を嫌っていたのは個人的な理由であるが、それ以前にそもそも人間の神というのは煙たがられる存在なのだろうか。

「どう面倒なんですか?」
「その名の通り、人間がなんらかの形で他の人間に祀られることで生まれるのが人間の神だ。しかしねぇ、人間の生まれもった欲深さというのは神になっても変わらないもので、その他のよりも求めるものが多い。生け贄を出せとまでは言わないが、祈りやお供えを他の神の何倍も与えなければ維持できないんだよ」

 つまり、飛縁魔の数倍の仕事量を良狐はこなしていたということだ。そこまでいくと、さすがに妖怪でも嫌気が指すのではないだろうかと思わずにはいられない。

「じゃあ、俺が良狐と出会ったときは…もう、社を維持できなくなって……?」

 そう言う秋生は悲しそう表情をしている。きっと、死にかけの良狐と出合った場所を思い出しているのだろう。

「そう、そこが問題なんだ」

 秋生の言葉に、飛縁魔は突然と声を大きくして反応した。
 そして、今までになく真剣な表情になる。先程までの酔いはすっかり覚めているようだった。


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