Long story


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 やってきた場所は生徒会室だ。
 部屋の中からは相変わらず言い争うような声が絶えない。そんな部屋の前に、まるで中の音が聞こえていないかのように腕組みをして佇んでいる着物を着た人物がいる。

「こりゃまた、皆さんお揃いで」

 横顔でも美人だということは分かっていたが、正面を向くとさらに美人に拍車がかかった。仮に世月を洋風の美人とするなら、こちらは間違いなく和風美人だ。着物がよく似合っている。

「相変わらず派手な格好ねぇ、ひすい」
「その言葉そっくりお返ししますけぇ、双月先輩」
「ここでは世月よ」
「誰も聞いちゃおらんでしょうに」

 和装の美女が話すこの珍しい訛りは、この辺りのはるか昔の方言らしい。
 双月と親しげに話す様子に、春人は露骨に訝しげな表情を浮かべた。もしかしたら春人だけは双月から紹介されたこともあるかと思っていたが、そうではないようだ。

「あらまぁ、そんな顔せんでも。ちょっと、ちゃんと説明してくれんと困りますよ」
「ああ、春君たちは会うのは初めてよね。この子は生徒会執行部2年の広瀬(ひろせ)ひすい。侑の親友なのよ」

 どういう経緯で親友になったのか、深月はよく知らない。ただ、ある日突然親友ができたと笑顔でやってきた侑の顔は今でもよく覚えている。
 それ以来、ひすいは学年が下なのもあり侑ほど濃いものではないが、深月たちともそれなりに交流を持っている。

「初めまして。相澤春人です」
「柊桜生です」
「同じく秋生です」

 春人に続き、桜生と秋生が流れ作業のように順番に挨拶をしていく。

「初めまして」

 揃って軽くお辞儀をすると、ひすいも同じように頭を下げた。長い髪をまとめている簪が目に入る。三日月のような飾りがあしらっており、実に綺麗だ。 

「李月さんはえらい久しいですけど…長いこと失踪しちょっても、変わっちょりゃせんですね」
「変わりないのはひすいもだろ。相変わらず洋服は着ないんだな」
「あんな堅苦しいもん着ちょれんですよ。じゃけえ生徒会まで入ったんですから」

 小学校も中学校も一応制服はあったものの、普段は比較的自由服であったためひすいは和装を崩すことはなかった。
 しかし、そうもいかない高校でもひすいが和装である理由は、生徒会執行部員だからだに他ない。生徒会に入ると和装で登校してもいいという侑の口車にまんまと乗せられた結果だ。

「挨拶はいいから、一体どういう状況なんだ?」
「どうもこうも、見たまんまですいね」

 久々の再開で話したいこともあるかもしれないが、今はそれどころではない。
 2人の会話を遮り深月が聞くと、ひすいは一瞬顔をしかめてから生徒会室の扉を開いた。
 両開きの大きな扉の中は、室内だというのになぜか木々が生い茂っている。どうやら
、侑が派手に暴れたようだ。

「酷い有り様だな」
「でしょうとも。やり過ぎもええとこですよ」
「普段からガラスを割るな校舎を壊すなとうるさいくせに、自分はどういうつもりだ」
「その言葉、本人に言っちゃってくださいよ。まぁ、聞きゃあせんでしょうけどね」

 華蓮が顔をしかめる横で、ひすいは頭を抱えている。
 確かに、今は木々が生い茂っていて分からないが、これがなくなれば生徒会室は穴だらけになってしまうだろう。
 
「お前がいるのにどうして止めないんだ?」
「俺はこの木々たちが外に出るのを防ぐので精一杯じゃけぇですよ。この下にある新聞部や他の部屋を犠牲にしてどうにかしろっちゅうんなら、今すぐそうしますけど?」
「いや、いい。そのまま頑張ってくれ」

 他の部屋に被害が及んでいないのはひすいのお陰なら、それを止めるなんてバカなことさせるわけがない。
 ただ、それならば自分達がここまで赴いてくる必要もなかったのではないかと思わなくもない。

「あなたまさか、ずっとこのまま放っておく気だったの?」
「喧嘩が収まるが先か、誰かが止めに来るが先か、もしくは俺の体力が尽きるが先か。生徒会室を守りきれんかった時点で、俺としてはどの結末でもどうでもえかったんで」

 それは冗談という風ではなく、本当にそう思っているような口ぶりだった。
 確かに、自分が一番重きをおいている場所が最初に破壊されてしまうと、後のことなど
どうでもいいと思う心理はよく分かる。
 もし現時点で新聞部がなくなってしまっていたら、深月はここに足を運ぶこともなかっただろう。再び全部壊してしまえと思っていたと確信できる。

「せっかく来たんだから、あなたたちで止めにいってあげたら?…って、もうその気なのね」

 双月が苦笑いを浮かべる前に、深月は華蓮と李月を目を合わせじゃんけんの体制に入っていた。
 全員で一緒に行けばいいんじゃないかという意見もあるだろうが、誰も行きたくないがためにこういう状況になるのだ。

「うわ!一発負けかよ!」

 どこまでも同一思考回路なら、じゃんけんまで同一思考回路なのか。
 と、華蓮と李月に直接言おうもんならほぼ間違いなくバットと刀のダブルフルボッコ待ったなしだ。その言葉は心の奥底に仕舞い込み、項垂れるように握った拳を解いた。

「喚いてないで、さっさと行ってこい」
「分かってるよ、うっせーな」

 深月は李月の言葉に苛立ったように返すと、緑の生い茂る生徒会室の中を覗いた。
 変わらず言い争う声は聞こえるが、ジャングルさながらの大自然のせいで2人の姿は全く垣間見ることができない。

「中の様子は見れないのかしら?」
「ああ、それもそうですね。ちょっと待っちょってくださいよ」

 双月の言葉に頷いたひすいは、帯の中から筆と紙切れを一枚取り出してきた。そこに何やら書き記し、そのまま両手で挟む。

「梅に鶯」

 ふわりと宙を舞った紙切れが花びらを散らし、一瞬で小鳥に変わった。ひすいの言葉の通りなら、その花びらは梅で、その鳥は鶯だ。

「鶯は中の映像を、梅は音を」

 ひすいの命に鶯は「ピィ」と短く鳴き、花を散らしながら生徒か異質の中に入っていった。
 それからまもなく、廊下に面した窓ガラスに生徒会室の中が映し出された。

「すごい」

 秋生と、桜生と春人と重なっていた。初めて見ればだれだって驚きもするだろう。
 ひすいが普通ではない侑や深月たちとそれなりの交流があるのは、本人も普通ではないということが大きなきっかけとしてある。

「ひすいの家系は陰陽師なの。だから、式神を扱えるのよ」
「陰陽師…」

 と、言うと。
 妖怪を退治したりするあれを想像しがちだが。

「誤解せんように言うちょくと、俺は妖怪を討伐したりはせんけぇね」

 言葉通り、ひすいは妖怪退治などに全く興味はない。
 そもそも、もしそうなら良狐と共にいる秋生なんて入学と同時に一瞬で狩られていたに違いない。それ以前に、妖怪の中の妖怪とも
言える侑と親友という時点でそんなことはあり得ないのだが。

「あ、侑先輩」

 窓ガラスをじっと見ていた春人が呟く。
 視線を向けると、侑と言い争っているもう一人の人物が向かい合って牽制しあっている様子が映し出されていた。


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