Long story


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 旧校舎の3階に行くのでついてくるなと華蓮に強く言われたらしく、秋生は新聞部で大人しく留守番をしていた。本当は一緒に行きたかったがようだが、前回のようにこっそり付いて来たら承知しないと射殺されそうな眼で言われると、流石の秋生も従わずにはいれなかった様子だ。
 待っている間の秋生はもしまた前みたいなことになってしまったらと気が気でないようで、立ったり座ったりを繰り返していた。そんな姿が可愛らしく、動画に納めて後から華蓮に見せてやろうと、深月はこっそりデジカメの録画機能を作動していた。
 しかし、秋生の心配などどこ吹く風と言わんばかりに、華蓮は傷ひとつなくいつも通り冷めた様子で新聞部に現れた。

「随分早かったな。またこんてんぱんにやられたか?」
「ほざけ」

 李月の問いに、華蓮は吐き捨てるように答える。その様子から、どうやらあまり機嫌が良くないということが伺えた。
 もしかしたら、目的の主はまだ留守にしていたのかもしれない。しかし、それならそれで、不機嫌になるようなことでもないはずだ。

「ある意味ではそうだな」
「黙れ」

 亞希の言葉はかなり華蓮の癪に触ったようで、出てきたバットがその脳天をかち割った。勿論、実際には割れることなどなくその瞬間に亞希はすっと姿を消した。

「ある意味では?」
「それ以上聞いたら腹いせにお前を叩き潰してやる」
「上等だ。やれるもんならやってみろ」

 バットを構えた華蓮に対して、李月が刀を取り出してきた。
 ここ最近、仲良くやっていた2人であったが。ちょっとしたきっかけで箍が外れてしまうのは変わっていないらしい。

「おいふざけんな!俺の部室を無くす気か!」

 前例はいくらでもある。
 深月は必死に止めよう試みるが、そんな言葉に反応する2人ではない。
 しかし、唯一にして無二である自分の城をバカみたいな小競り合いでなくされてはたまったものではない。どうにかして死守しなければ。
 そんなことを思っていると、世月の姿をした双月も立ち上がり止めに入る。

「こんな狭い部屋で暴れられたら、みんなミンチになるじゃない。屋上行きなさいよ、屋上に」

 と、双月が屋上を指した次の瞬間。
 ドンッ、という爆音のような音と共に部屋が揺れた。

「……いや、違う!」

 華蓮も李月も、まだ何も動き出してはいはい。
 全員が疑いの眼差しで双月に視線を送ると、双月は顔と両手を横に振って自分の無実を訴えた。


「じゃあ、誰だ?」

 深月は不思議に思い、窓を開ける。
 予想外の事態に喧嘩する気も失せたのか、華蓮と李月はどちらも武器を手放していた。


「ぜっっっったいに、嫌だからね!!」

 開かれた窓の外から、聞き覚えのある声が響き渡る。
 顔を覗かせた深月は思い切り顔をしかめ、すぐさま窓を閉めようとした。しかし、華蓮と李月、そして双月がそれを許さず、深月を押し退けて窓から顔を出した。

「いいもいやもないよ。こっちこそ、絶対にダメだからね」
「うるさい!長である僕に命令しないでよね!」
「そういうことは、一度くらい長らしいことをしてから言った方がいいと思うけどね」

 顔を覗かせてなくても聞こえてくる声は、ひとつは侑のそれだ。もう1人の声ももちろん知り合いだが、大声を上げているところはあまり見かけたことがない。
 そして、深月の知っている限りでは喧嘩などしそうもない2人が、どうして言い争っているのかは皆目検討もつかないところだ。

「珍しい相手と言い争ってるな」
「このままあの2人が暴れだしたら大変ね」
「ここまで被害が及ぶのも時間の問題だ」

 華蓮も双月も、もちろん侑と言い争っている相手が誰だかは知っている。
 李月も知り合いではあるのだが、失踪して以来もう何年も会っていない相手のはずなのに、覚えている様子なのには多少驚きを隠せない。

「一難去ってまた一難ってか。勘弁しろ」

 せっかく華蓮と李月の争いを回避できたかと思ったのに。深月は頭を抱えるように溜め息を着いて席を立ち上がった。
 きっとこのまま放っておけば、李月の言葉通りになるに違いない。そうなる前に、状況を把握してなんとか止めなければ。

「せっかくだし、私たちも行きましょう」

 深月が歩き出した背後で双月がそう言いウインクをしているのは、全く状況に追い付いていない秋生を始めとするいつもの面々だ。
 上を指差しながら「きっと面白いわよ」なんてこぼす双月はどこか楽しげだ。そんな双月を尻目に深月は面白いことになんてなってたまるかと思いながら、足早に部屋を出た。


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