Long story


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「これのどこが憤慨しておるのじゃ?」
「さっきまでは怒っていた。文句言う割に満更でもないんだな」

 前方からどこか呆れたように話す声を聞いて、秋生は自分の腕の中にいる華蓮から視線を上げた。
 テレビの前に狐の姿の良狐と、亞希が姿を現した。どうやら亞希は家のどこかに良狐を呼びに行っていたらしい。

「良狐…これ、お前がやったのか?」
「そうじゃ」
「よくやった!」
「おい」
「すいませんごめんなさい」

 さすがに小さくなっても、本気で睨み付けられると迫力がある。
 秋生は無意識のうちに早口で謝意を述べていた。


「とりあえず状況を説明しろ」

 華蓮の言葉に、良狐が頷く。

「うむ。わらわがかけた術のひとつは、そやつを懲らしめると同時にそなたらの契の記憶を呼ぶ鍵じゃ。それが解けておるということは、契を交わした時の記憶が戻っているはずじゃが」

 それは多分、先ほど意識を失っていた時に見たものだ。やはりあれは夢ではなかったのだ。
 本当なら“懲らしめる”というところに文句を一つでも言いたいところだったが、それがこの姿の華蓮がいるこの状況の糧だったのならば、秋生はむしろ良狐に賞賛を与えるところだ。

「先輩超可愛かったっす」
「黙れ」
「いやでも、指咥えてるところとか、俺が泣いて戸惑ってるところとか…」
「いい加減に――――!!?」

 業を煮やした華蓮が秋生から離れようとして動いたのは一瞬だった。
 発していた言葉を途中で止めた華蓮は、何かの糸が切れてしまったように秋生の胸の中に倒れ込んだ。

「せ、先輩…っ?」
「案ずるな。そなたの背負うていたものがそやつに移ったまでのこと」
「背負ってって…さっきまでしんどかった、あれが!?」

 もし本当にそうならば。
 それのどこが、案ずるなという発言になるのか。

「そうじゃ。随分と小さくなっておる上に…この頃はもう亞希に会っておったのか?」
「いや。さっき戻ろうと思ったら戻れなかったから、会う前だ」
「ならば体にかかる負担は3倍程度じゃな」

 良狐はあっけらかんとした様子でそう言い放つ。
 3倍と言う数字を耳にした瞬間、秋生が目を見開いた。

「さん…!?馬鹿かお前、何してんだよ!」

 賞賛というのは取り消しだ。即刻撤回だ。

「死にはせぬ」
「そう言う問題じゃねぇよ!」

 つい先ほどまでの感じていた辛さを、秋生はよく覚えている。
 いつかの肺炎が可愛く思えるほどに、本当に死ぬんじゃないかと思うくらいにしんどかった。
 それなのに、華蓮にかかる負担がその3倍だなんて。想像しただけでも死んでしまいそうだ。


「いい。…もういいから、話の続きをしろ」

 腕の中から聞こえた声は、先ほどまでとは打って変わってトーンが下がっていた。
 先ほどまでの秋生のように消え入るほどではないが、その声色から無理をしていると言うことは容易に想像できた。

「その状態で聞いて頭に入るのか?」
「いいから続けろ」

 亞希の言葉に対して華蓮は強い口調でそう言った。
 多分…強い口調で言ったのだろうが、いつものような迫力は微塵も感じられなかった。


「では続けるとしよう。こやつの記憶を覗いて分かったが…そなたらの契は、偶然の産物のようじゃな」
「偶然…?」
「そうじゃ。俄かに信じがたいことじゃが、こやつらが契を交わしたのは互いに1歳と3歳の時であった」
「1歳と3歳……通りで…契りのことを知りもしなければ、強さも桁外れなわけだ」

 さて、本来の目的は華蓮に状況を説明するということであったはずだが。
 秋生は亞希と良狐の会話の意味がさっぱり理解できなかった。それは秋生が馬鹿なだけで華蓮には理解できているのだろうか。

「分かるように説明しろ」

 どうやら秋生が馬鹿なだけではなかったらしい。


「そうじゃな。ならばまず、契の説明を」
「え?俺?」
「八都がおらぬのじゃから、仕様がないであろう」

 お前と八都は一体どういう関係なのだ。
 秋生は少し気になったが、指摘しないでおいた。

「その言い方は腹立たしいけど。契っていうのは本来妖怪が交わすもので…」
「それは前に八都が話したであろう」
「こいつは聞いたけど、その子は聞いてないだろ。人に喋らせるのなら茶々を入れずに黙って喋らせろ」
「短気な鬼よ。好きにするがよい」

 数百年の隙間は埋まりきってしまったのだろうか。まるで熟年夫婦のようだ。



「契というのは、本来妖怪同士が交わすものだ」

 良狐がどこか馬鹿にしたように欠伸をするのを横目に、亞希は再び口を開いた。
 前回の復習がてらその内容を簡潔にまとめると。
 契とは妖怪同士が交わすものだが、力の強い人間同士でも交わすことが出来る。それを切ることも可能だが、一度結んだ契を切るとその後200年は契を交わすことができない。そのため、実質人間が契を交わすことが出来るのは一生に一度ということになる。
 そして契は、交わしたその時点でお互いの生死を左右できるほどに重いものである。しかしそれは同時にそれだけ価値のあるもので、契を交わした相手の血はどんな傷でもたちまち癒すことが出来る。
 それが、亞希が話した内容だった。秋生は頭の中で話の内容を整理しながら、もしかして契というのは相当凄いものらしいと漠然と思った。

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