Long story
秋生は勢いよく体を起こした。
まず初めに目に入ったのは床に転がったコップで、もともと中に入って水が床一面に広がっていた。
その瞬間になぜか“戻ってきた”と感じた秋生はくるりと辺りを見回した。すると次に目に入ったのは、隣に座っていた華蓮だった。
―――だが、おかしい。
“戻ってきた”と思ったのに、その華蓮を見た瞬間に秋生の頭の中は混乱の渦に巻き込まれた。隣にいる華蓮は確かに華蓮だが、秋生がよく知るその姿とは違っていた。
「せ……先輩…?」
「………」
華蓮は答えない。
自分の両手を見つめて、呆然としている様子だ。その手は秋生よりも小さく、そしてそれは手だけに限らないことだった。
そんな華蓮の様子を見た秋生は、これは紛れもなく現実なのだと思った。しかし、だからといって目の前の状況を理解できたわけではなかったが。
「何で…どういうことだ……」
発せられる声も随分と高かった。
そして次の瞬間、華蓮は何かが覚醒したようにバッと顔を上げた。
秋生が見上げた先にいた華蓮の容姿はいつもよりも随分と幼く、顔は睡蓮にそっくりだが目つきが少しきつく、そして睡蓮よりも若干幼い。一番近いのは亞希であったが、それとも少し違うように思われた。
しかしそれが華蓮であることに間違いはない。それだけは断言できた。
「亞希――――!!!!」
ソファの上に立ちあがった華蓮は、鼓膜が破れるのではないかというくらいの叫び声を上げた。
地面が揺れたような気がした。
きっと地球の向こう側まで聞こえているに違いないと、そう思った。
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mokuji
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