Long story


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「あれ……消えた…?」

 華蓮とちょっとしたやりとりをしていた間に(秋生の中では全然ちょっとしたことではなかったがここは見栄を張った)、先ほどまで感じていた気配がなくなってしまった。
 一体いつの間に消えたのか、どこで消えたのか、それすらも分からない間にすっかり何も感じなくなっている。

「最後の気配はどの辺からだった?」
「えっと…3階の奥の方だとしか……」
「とりあえず行ってみるか」
「はい」



 旧校舎の3階は3年生のクラスが並んでいた。
 手前から5組、4組、3組、2組ときて…どうしてか1組はなかった。
 もしかして表札が外れているのだろうかと思ったが、そもそもそれ以前に2組よりも先すら存在していなかった。

「何だろう…気味が悪い」

 それは何か気配がするというわけではなく、秋生はなんとなくこの状況に違和感を覚えた。1組が存在していないということ以外に、一体どんな違和感があるというのか。辺りを見回しても何も分からなかった。

「………」

 秋生が違和感を覚えながら辺りを見回している間、華蓮はまるで何かに憑りつかれたかのように行き止まった先の壁を見つめていた。
 3年2組を過ぎて間もなく立ちふさがっている行き止まりであるこの壁に、一体何があるというのだろうか。秋生は何も感じないが。

「先輩……?」
「戻るぞ」
「あ、はい…」

 しばらく扉をじっと見つめていた華蓮だったが、秋生が声をかけると途端に踵を返した。
 やはり何もなかったのだろうか。

「あれ、先輩…戻るって……部室じゃなくて?」
「新聞部だ」

 部室の方が圧倒的に近いのに、どうしてわざわざ新聞部なのだろうか。
 いつもならば近い方に足を運ぶのだが。華蓮らしくないその行動を秋生は不思議に思い、そして少しだけ不安にも思った。


 新聞部の前まで来ると、華蓮はすぐに扉を開けずにその場にとどまった。
 普段の華蓮ならば問答無用で壊さんばかりの勢いで扉を開けて入っていくのに、さきほどかららしくない行動ばかりなせいか、少しだった不安が大きくなる。


「お前はここにいろ」
「先輩は…どこに……?」

 秋生を置いて、どこかに行ってしまうのか。
 不安が、またひとつ大きくなった。

「あの3階に行く」
「旧校舎の…?」
「ああ。気になることがあるからな」

 はっきりしないその口ぶりが、秋生の中の嫌なものを駆り立てた。
 不安は、大きくなっていく一方だ。

「先輩…あの……」
「俺が戻ってくるまで、絶対にここから出るな」

 秋生が喋ろうとしたのを遮ると、華蓮はそう言って秋生を抱きしめた。“戻ってくるまで”という言葉と、いつもの超絶適温が、少しだけ不安を和らげた。
 それからキスをされると、まるで華蓮の体温が体の中に流れてくるような気がして、さらに不安が和らいだ。

「絶対に、出るなよ」

 華蓮は今一度念を押すと、ゆっくりと秋生から体を離す。体温がなくなったことを不安に感じ見上げると、華蓮はそれを察したのか今一度秋生を抱きしめた。
 今度こそ秋生から離れて体の向きを変えた華蓮は、少し急ぐように旧校舎の方に向かって歩き出した。
 秋生はその背中を見送りながら、なくなった体温にまた不安を感じた。


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