Long story


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 怖い夢を見た。
 それは自分の傍から誰もいなくなっていく夢で、最後に自分だけが取り残された。
 でも、取り残されたと思った場所に、一番大好きな人がいた。
 いなくなって欲しくなくてすがりついたら、その人はいなくならないと言った。
 それでも、それでも怖くて何度も何度も聞いた。
 
 その人はずっと一緒だと言って、キスをしてくれた。
 もう大丈夫だと、そう思った。


 夢は、覚めた。



「せ……せん…ぱい……?」

 夢の中でキスをしてくれた人は、目が覚めても目の前にいた。
 確認するように手を伸ばすと、その頬に体温を感じた。

「久しぶりだな、秋生」
「あ…、せ…先輩、先輩…!!」

 思わず抱き付くと、華蓮はすかさず抱きしめてくれた。
 どうしてだろうか。ずいぶん久しぶりのような気もして、それなのについ先ほどまでも同じ体温を感じていたような気もする。

「いなくなったら…どうしようって……!」
「だから、何度言えば分かるんだ」

 少し体を離して見上げれば、呆れたような顔が伺えた。
 やはりどこか久しぶりに見たようで、今しがたまで見ていたような気がする。不思議な感覚だ。
 ただ、久しぶりだろうと何だろうと、華蓮を近くに感じられることは嬉しかった。だから秋生の涙を服で拭って抱きしめてくれる華蓮に便乗して、身を寄せた。



「お前…大丈夫なのか?」
「え…?」
「何も覚えてないのか?3歳くらいになってたこと」

 華蓮にそう言われた瞬間、秋生の頭の中に一気に記憶が流れ込んできた。
 それは自分が小さくなっていた時間の記憶で、それでいて今の自分の意志とは無関係な別の意志が働いていたときの記憶だ。


「あ…あ、あ……あああ!!!」
「思い出したのか」

「お……俺…!な…あ、…なんてことを……ていうか、先輩のジャージ!」
「何を今さら」

 華蓮からすれば今更かもしれないが、3歳の時の秋生は秋生であって秋生ではなかったのだ。今の秋生からすれば、突然華蓮のジャージに包まれているようなもので。それを認識した瞬間に体の熱が一気に高まるのを感じた。

「しっ……心臓が!!」
「うるさい奴だな。いっそずっと小さいままでよかったんじゃないのか」
「ええっ…先輩ひどい…!」

 3歳のときにはもっと、優しくしてくれたのに。

「耳元で叫ぶなうるさい」
「えっ…あ、あ……俺…先輩の上に……!!」
「ああもう黙れ。いい加減にしないとそのうるさい口を塞ぐぞ」
「そ…それは…黙らないです……」

 口を塞ぐといった華蓮がどういう行動に出るか、秋生はよく知っている。それは決して、秋生にデメリットがあるものではない。
 華蓮は秋生の言葉に、どこかからかうように微かに笑って見せた。

「本当に黙らなくていいのか?」
「え…?」

 華蓮にそう言われた秋生はふと周りを見回して、急上昇していた身体の熱が急降下していくのを感じた。
 視線が集中している。それも、1人や2人の視線ではない。1、2、3…4……ああ、もう頭が回らない。

「え……あ……ああ……」

 頭が全然回らない。口が上手く回らない。
 目の前の光景を、受け入れることができない。


「あ、やっと俺たちに気付いたよ〜」
「いやいや…これ話しかけて大丈夫なの?」

 春人がそういって睡蓮に笑いかけるが、睡蓮は少し心配そうな表情を浮かべていた。

「凄いね僕たち。気配消す天才なんじゃない?」
「いやそれより、あれフリーズしてるけどいいのか?」
「おーい秋生、大丈夫か」

 侑はダイニングの机に頬杖を付ながら面白そうに笑っている。双月は睡蓮と同じように少し心配したような表情を浮かべていて、深月は秋生の意識を確認するように手を振っていた。

「だ……い、じょうぶ……じゃ、ないです………!!!」

 視線に耐えられなくなった秋生は、それから逃げるように華蓮の首元に顔を埋めた。
 その行為が状況を悪化させるかもしれないということに、とりあえず一目から逃れたい一心の秋生が気付く様子はなかった。

「何が大丈夫じゃないの?いつもと同じなのに」

 桜生がそう言うのを聞いた秋生は、両手で耳を塞いで視界だけでなく音までも遮断することにした。これ以上周りの状況を把握して、誰かの声を聞いてしまったら自分は終わる。絶対に羞恥で死んでしまう。
 いっそ、もう一度小さくしてくれたらいいのにと切に願ったが、再び体が小さくなることはなかった。


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