Long story
「秋生?」
華蓮の問いかけに振り返った秋生は、酷く切羽詰まったような表情を浮かべていた。
今しがたまで静かに寝ていた様子は影もなく、額には汗が滲んでいる。
「あ…あいつが……あいつが………」
切羽詰まったような表情を浮かべていたと思ったら、秋生の表情は途端に怯えたようなそれに変わる。それから間もなく、目一杯に涙が貯まった涙が溢れた。
「秋生…どうした?」
腕を引き寄せると秋生はまるで縋りつくように華蓮にしがみつき、その胸に顔を埋めた。抱きしめると、小さい体が小刻みに震えているのを感じた。
「……ぜんぶ…しゃくら、も……おにい…ちゃんも………」
秋生はそう言って、身体を震わせながら今一度華蓮にしがみついた。
「秋生……思い出してるの?あの日のことを……?」
あの日。
それは、桜生がのちにカレンとなる悪霊に体を奪われた日のことを言っているのか。
「…おとうさんも……おかあさんも…おじいちゃんも……みんな、みんな………!」
「お父さん?お母さん?…秋生……何を言っているの…?どういうこと…!?」
秋生の発言に反応した桜生が、掴みかからんばかりに詰め寄った。そのあまりの剣幕にびくりと肩を震わせた秋生は、桜生を見上げてぼろぼろと涙を流した。
「しらない……しゅう、しらない………」
「秋生ッ!」
桜生が名前を叫ぶと、秋生は再びびくりと肩を鳴らした。
「落着け桜生!」
「い………い、いつくん……」
李月に腕を引かれた桜生は、ハッとしたようにして秋生から離れていく。
いつの間にか、桜生まで体を震わせていた。
「あ…ああ……みんな…いなくなる…みんな、みんな……」
まるで何かにとり憑かれたように秋生は目を見開いて頭を抱え、体を震わせた。
その表情は、いつか…カレンに両親を奪われた時に映った、自分のそれに似ていると思った。世界から光が消えてしまったような、絶望の表情だ。
「…秋生……」
名前を呼ぶと、秋生は顔を上げて華蓮を見つめた。
その顔は、光を失ってしまった絶望の表情だ。いや…まだ、失いきってはいないか。
「かれん……かれん…いやだ……いなく、なっ…いなくなっちゃ、…やだ……」
秋生は華蓮にすがりつくように、その小さな手で華蓮の服を握りしめた。
小さな手には似つかわしくないくらい、身体は異様に震えていた。
「大丈夫だ。俺はいなくならない」
抱きしめるが、秋生の体の震えは治まらない。
「ほんと…?…ほんと……?」
「本当だ」
華蓮がそう返しても、見上げてくる秋生の表情に絶望が霞んでいる。
相変わらず体も震えていて、不安も消えていないようだ。
「かれん……ほんとうに?…ぜったい…しゅうと…ずっと…、いっしょ…?」
秋生はしつこいくらいに何度も確認を取ってくる。
これ以上どう返せば秋生に伝わるのか、どう考えても答えは思い浮かばなかった。
「ずっと一緒だ」
こういう場合、華蓮のとる行動は決まっている。何度言っても伝わらないのならば、それ以上聞かれないようにすればいいのだ。
華蓮は秋生を自分の目線の位置まで抱え上げて、涙に濡れたその唇にそっとキスをした。
刹那、しばらく触れていなかった長い髪が華蓮の頬を撫でた。
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mokuji
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