Long story


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 目を覚ました華蓮は、目の前の状況を把握するのにしばらく時間がかかった。

「あ、ああ…そうか。そうだった」

 まだ覚醒しきってない頭をフル回転させて、状況を把握する。
 しばらくして、ようやく秋生が亞希か良狐かのせいで3歳児のような姿になってしまい、紆余曲折あって一緒に寝ることになったのだということを思い出した。

 壁に掛けてある時計に視線を向けると、時刻は10時を少し回ったところだった。休みだから睡蓮が起こしに来なかったのか、それとも起こしに来て尚起きなかったのか、その辺の所は分からない。しかし、若干寝すぎたかもしれないと思った。

「どうするか…」

 いつもならば、起きてリビングに向かう。リビングに行くと秋生は確実に起きていて、朝食をどうするか聞いてくるだろう。何でもいいと答えれば、和食が出て来る。それを食べてからゲームをしていると深月たちが起きてきて、それからは交代でゲームをして1日潰れていくのが大体のパターンだ。
 しかし、今日は起きたからといってさっさとリビングに出て行くわけにもいかない。隣で寝ている秋生は規則正しい寝息を立てながら、まるでお気に入りのぬいぐるみを抱きしめるように、華蓮のジャージを握りしめていた。



「一体どれだけ…無理をしてたんだ?」

 どんな気持ちで、これまでずっと我慢してきたのだろうか。
 両親が死んで、桜生がいなくなって、琉生もいなくなって。年端もいかない子どもに叩きつけるには、あまりに酷な現実だ。秋生はその現実を目の当たりにして、一体何を思って、甘えることを我慢することを決めたのか。それを突き通すことがどれほど辛かったのか、そしていつから、誰にも甘えることができなくなってしまったのか。華蓮には想像しても分からないことだが。
 よくよく考えてみると、秋生が華蓮に甘えてこないのは、普段の素っ気ない華蓮の態度が原因なのかもしれない。ただでさえ甘えることを我慢してきた秋生だから、きっと、普段から冷たく扱ってばかりの華蓮に甘えることなど、到底できるはずもない。
 華蓮がそんなことを考えながら頬を撫でると、秋生がうっすらと目を開いた。

「ん……せん…ぱい…?」
「…秋生…?」

 秋生は今確かに、華蓮を“先輩”と呼んだ。体は3歳児のままだが、記憶が戻ったのだろうか。
 名前を呼ぶと、秋生は今にも眠ってしまいそうな目で華蓮を見上げた。

「…先輩…俺……ずっと…、」
「ずっと…?」

 秋生が言葉を詰まらせたので、華蓮は後を押すように聞き返した。
 すると、手にしていたジャージをぎゅっと抱きしめてそこに顔を埋めた。

「ずっと……誰かに甘えたことなんてなかったから………、でも…先輩のことが好きで…大好きで……だから…、本当は…桜生みたいに………」

 秋生はそこでまた言葉を詰まらせた。それから少し待っても秋生は続きを言う様子はなかったが、それでも、言いたいことを理解するのは容易だった。
 華蓮は秋生が抱きしめているジャージを無理矢理腕の中から抜き取った。すると、突然のことに驚いた秋生が顔を上げる。

「あっ」

 顔を上げた秋生は視線の先に華蓮を見つけると、またどこか怯えるように表情が強調って、同時に肩に力が入った。だが、華蓮が頭を撫でるとすぐに表情が緩くなった。まだ肩に力は入っているようだったが、華蓮を見上げる視線は不思議そうなものになっていた。

「俺が…もっと、甘やかすから」
「え……」

 秋生の口から名前が出たが、桜生もカレンに体を奪われてからずっと、誰に甘えることもできなかったはずだ。もしかしたら李月に甘えていたこともあったかもしれないが、李月のために自分を殺してくれと華蓮に言いに来たくらいだから、多分甘えることなどなかったのだろうと思う。
 けれど、今の桜生は周りからみても明らかに分かるくらい李月に甘えている。それは多分、李月が桜生をこれ以上ないくらいに甘やかしているからで、だから桜生は思いきり甘えることができるのだろう。

「だからお前も桜生くらい、目いっぱい甘えろ」

 華蓮がそう言って頬にキスをすると、秋生は一瞬目を見開いて、それから一気に顔を赤くした。そしてすぐにそれを隠すように、布団を頭まで被ってしまった。記憶が戻ったからか、反応が完全にいつもの秋生だ。
 布団の中で手を伸ばしていつもより小さい体を抱き寄せると、秋生はおずおずとしながら華蓮に身を寄せてきた。

「先輩……好き…大好きです……」

 布団から少しだけ顔を出した秋生はそう言うと、すぐにまるでどこかに吸い込まれるように静かに目を閉じた。それから1秒を数えるまでもなく、規則正しい寝息が聞こえ始める。これもいつものことだが、目を閉じてから眠りにつくまでが早すぎる。
 
「俺は、それよりも好きだ」

 閉じた目元にキスをして、華蓮も同じように目を閉じた。
 抱きしめる秋生の体温は実に心地よく、秋生的にいうならば超絶適温だ。そのおかげか、華蓮もすぐに意識を手放した。



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