Long story


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 幸いなことに、教室にいようと部室(仮)にいようと最近はずっとテスト勉強モードだ。そのため、あまり会話もなく時間をやり過ごすことが出来る。無事に何も言わない何もしないをやり通し、無事学校が終わった。
 しかし、家に帰ると何も言わず何もせずと言う訳にはいかない。食事を作るのは秋生の仕事だし、そうなると否が応でも睡蓮との会話は必須だ。普段の夕食を作る際の睡蓮との会話は、お互いの学校で何があったかが大半を占める。リビング全体がテスト勉強モードの中でもそれは変わることなく、キッチンではいつものようにその日の学校ライフを話題としていた。

「それで機嫌が悪いんだ」
「別に…機嫌が悪いってわけじゃあ……」
「機嫌が悪くない秋兄はそんな太さの細切りしないよ」
「……なんだこれ」

 秋生は包丁を動かす手を止めて顔を顰めた。
 いつもは何も考えなくても勝手に細切りが出来上がっているのに、今日のこれはどうしたことだろう。これではとても細切りとは言えない。ぶつ切りがいいところだ。

「秋兄にしては中々思い切ったね」
「いや、料理に思いきりはいらねーって。…これは取っておいて明日の味噌汁にでも入れよう」

 この太さではきんぴらにならないし、かといってこんな中途半端な状態から細切りには出来ない。ごぼうはまだ冷蔵庫に入いっているので、それならばそちらを使う方が先決だ。

「切り直すの?」
「睡蓮が」
「そうきたか。じゃあ、肉じゃが交代ね」
「ああ」

 睡蓮から菜箸を受け取って、炒めている最中の鍋に視線を落とした。いつもならこれも何も考えなくても進められるのだが、今は勝手に任せていたら野菜を焦がしてしまいそうだ。

「じゃあ僕は、冷蔵庫からごぼう―――あ、華蓮いいところに」

 今目を離してはいけないと思ったばかしなのに、睡蓮の言葉を聞いた秋生は思わず鍋から視線を離して振り返る。
 いつの間にか冷蔵庫の前にいた華蓮が、お茶を出してコップに注いでいるところだった。

「却下」
「まだ何も言ってないでしょー。ごぼう取って」
「面倒臭ぇな…」

 と言いながらも、華蓮はコップを置いて野菜室の扉を開けた。
 睡蓮に言われたとおりごぼうを手に取り、それを手渡す。

「これじゃない」
「どれだって一緒だろ」
「一緒じゃないの!そっちのやつ!」
「そこまで来るなら自分で取れよ」
「取って!」

 睡蓮がそう凄むと、華蓮は嫌そうな顔をしながらも指示されたごぼうを手にして睡蓮に渡した。
 もしもこの相手が秋生だったら、華蓮はきっとごぼうなんて取らずにリビングに戻っているに違いない。そう考えると、睡蓮にまで嫉妬してしまう。そんな自分が嫌で、秋生は華蓮から視線を離した。

「ありがとう。ついでに…」
「却下」

 背後で交わされる会話を聞きながら鍋に視線を戻すと、どうやら今度は何も考えなくても失敗はしなかったようで、いい感じに野菜は焦げることなく火を通していた。後は調味料を入れて煮込むだけなので、手が滑ってみりんがどぼんなんてことがない限りは失敗することはないだろう。

「本当にいいのか?」

 今度は前の方から声が聞こえて、秋生はだし汁を注ぎながら鍋から顔を上げた。ダイニングテーブルの椅子に腰かけている面々はほとんどが机にかじりつくようにテスト勉強に没頭していたが、全くそんな様子なく机に頬杖を付いている人物が1人。それが、秋生が耳にした顔を上げた声の主で、その視線の先には狐が机の上で座っていた。

「構わぬ。見ていて煩わしい方が悪いのじゃ」
「それが命の恩人に対する態度か。…まぁ、面白そうだからいいけど」

 良狐の言葉に亞希が苦笑いで返したかと思うと、その視線が秋生の方に向けられた。

「検討を祈るよ」
「は?」
「わらわを腹立たせた罰じゃ」
「はぁ?」

 自分の方を向いて苦笑いを浮かべた亞希に対して首を傾げると、目の前にすっと良狐の顔がアップで現れた。それに対しても首を傾げた瞬間、体中に何かが流れ込んでくるような感覚に襲われた。

「!!?」

 気持ち悪い。
 そう感じた時には、既に世界がひっくり返っていた。


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